中学二年生の作品に「こども向けじゃない」 会田誠への「撤去要請」とは何だったのか

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現代美術家・会田誠と家族が手がけた作品に対して「撤去要請」があったとされる問題で、その後、美術館側は要請を撤回したと報じられています。SNSでの関係者の発言がきっかで火がついたこの騒動は一体何が問題だったのか。ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが語り合います。

理由があいまいなまま改修要請がされた、今回の事件の論点を整理する


飯田 東京都現代美術館で開催中の「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」の会田家(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎という親子三人)の展示に1名から「この作品に書かれているようなことを美術館は支持しているのか」といった内容のクレームがつき、撤去または改修要請がされた(らしい)件についてです。



藤田 会田誠さんの所属されているミヅマアートギャラリーの三潴末雄さんが、ツイッターで、撤去要請があったことを告発(?)というか問題提起したんですね。会田誠自身も長文を発表していて(http://m-aida.tumblr.com/)。まず論点は、「撤去要請はあったのかなかったのか」「誰がその要請主体なのか」があいまい。美術館サイドと会田さんサイドの説明が食い違っている。

 展示されていた作品が、会田誠が日本の総理大臣に扮して世界に対して下手くそな英語で日本の鎖国の必要性を語るものだったり、文部科学省に物を申す! というような檄文でしたから、権力による圧力を想像した人が多いのではないかと思います。

 しかし、仮に撤去要請があったとして、たった一人の「クレーム」が理由なのか、国家権力の圧力なのか、都の要請なのか、美術館側の判断なのかもはっきりしていない。

飯田 美術館側は「こどもが見るのにふさわしくないから」改修してほしいと会田さんに言ったらしい。しかし、クレームを付けた人はどうも「檄文の主張を美術館が追認するのか」ということなので、これは「政治的なメッセージが美術館にふさわしくない」という話ですよね。
子ども向けじゃないからダメなのか、政治的だからダメなのか、これは全然別の論点ですが、あいまいなまま改修・撤去要請がされている。

会田誠に撤去要請があったのは今回が初ではない



飯田 ちなみに会田さんが撤去や改修要請をされたのは、今回が初ではありません。2012年に森美術館で「天才でごめんなさい」展をやったときにもクレームがついている。そのときは永井豪の『バイオレンスジャック』みたいな、女の子の四肢が切断された犬みたいになっている絵が女性差別だ、こんなもん公共の場所に置くんじゃねえ、という署名運動になった。
 また、『I・DE・A』という、壁に掲げられた「美少女」という文字だけを見ながら、全裸の会田誠がオナニーを試みる1時間以上のビデオ作品がリトアニアで出展拒否されたこともある。理由は「リトアニアには敬虔なカトリック信者が多く、冒涜と感じる人も多いだろうから」と。

藤田 「美少女」の「字」だけでオナニーすることなんて、実際にやってみたら(やってませんが)結構難しい作業で、逆説的に観念的でストイックな意思を感じさせる。これは、アイロニー的な作品ですよね。

飯田 会田さんは撤去要請に対して常に徹底抗戦しているわけではなくて、地方の美術館に、ゲートボールをしている戦争画を展示しようとしたら「このへんは老人が多くてゲートボールの愛好家が多いからやめてくれ」みたいなことを言われて展示を断念したケースもあったはずです。今回はそんな会田さんでさえ「おかしいだろ?」と思って戦ったというのがポイントです。

藤田 そのエピソードはほほえましいですねw 

中二の子どもが参加した作品が「こども向けじゃない」ってどういうこと?


飯田 まずわかりやすい方の論点「こども向けなのか、そうじゃないのか」についてです。そもそも会田家は会田誠、その妻の岡田裕子、その息子の寅次郎の三人で展示していて、こどもは中二です。こどもといっしょにつくった作品を「こども向けじゃない」って「何言ってるんですか?」って話だと思うんですよ。
 しかもあれは息子の寅次郎が相当の問題児で、小学生のころはちんぽ丸出しで授業中に裸踊りしたりして学級崩壊させていたと。それで教師から精神障害などをもった児童と同じ特別クラスへの編入をすすめられたり、隔離されたりと、対応があまりにもな経験をつみかさねてきた会田誠夫妻が(そしておそらく寅次郎君も)「日本の教育おかしい!」と切実に思って出てきた、でもそれをおもしろおかしく書いた檄文じゃないですか。

藤田 檄文の内容はまさに「中2」がいいそうな内容なんですよね。檄文の一部を引用しますが「もっと教師を増やせ」「無限の可能性を持った人の心に介入するな」「かばんが重い」「早くタブレットにしろ」「教師を働かせすぎ。みんな死んだ目をしているぞ」ですから。世の中とか世界を、自分がなんとかできると思っている感じの、純粋まっすぐな正論。あれこそまさに「子供」ですよ。

飯田 僕だって中学生のときあの檄文みたいなこと、毎日思ってたよw

藤田 ですよね。ぼくは「かばんが重い」が個人的に好きですがw

飯田 「かばんが重い」に対して「子ども向けじゃない」とか「政治的だ」とか言うのは本当どうかしているw
 今回の展示では会田誠の代名詞になっているエロくてグロい絵は全然出していないわけですよね。安倍演説のパロディ映像だって小中学生が見たら普通は「いい大人がバカやってるなあ」って笑いますよ。たとえばレイザーラモンRGがあれをやっていたらギャグでしょ? 会田誠はあのネタでR-1グランプリに出るしかない。そしたら「ああ、ユーモアだったんですね」ってバカでもわかる。
 あ、ただ今回のクレームの件が批評的だなと思ったこともあって。あの檄文は、父子揃って問題児で集団行動が苦手だし同調圧力にも屈しない側の人たちに対して、「え? ここの文脈読めないんですか? 信じがたいバカですね」っていうクレームを投げかけた点は、すごく批評的だなと。

藤田 子供向けかどうかで言えば、会田家の岡田裕子さんの作品の方が、よっぽどヤバい印象を受けました。身構えてなかったからかもしれないけれど。「EXERCISE」っていう作品は、ラジオ体操のパロディで、絶妙に健全とエロの境を狙った白い服を着た若い女性が、「スマホの運動」とか「臨終の運動」をする。ブラックさが、明らかに大人向け。

飯田 「難しいこと考えるのはやめて、運動しよう!」みたいな内容で、非常にポリティカルでもあり、やはり日本の学校教育批判的な要素もある。岡田さんの展示は、母親で芸術家でもある人ならではの「子どもナメんじゃねえ」感と「おい子ども、てめえらナメんじゃねえぞ」感の両方が出ていた。

藤田 岡田さんは他にも「キャラ弁」じゃなくて、シャネルとかのブランドのロゴを模した弁当を作る作品もあって。本当に一生懸命キャラ弁を毎日子供に作っている主婦の方とか、マジで傷つくんじゃないかなと、そっちにハラハラしました。でも、一方で、作品の真の狙いは、キャラ弁を作らなければいけない重圧を多少は相対化することの方だから、それを見ることで楽になるのかもしれませんね。