あんまり面白くてびっくりした。
「ニコニコキングオブコメディ」のことである。

サイゾーテレビが隔週で配信する無料のネット番組(隔週木曜夜10時配信ニコニコ動画版 youtube版公式ミラー DVD)。メインパーソナリティはお笑いコンビ「キングオブコメディ」(高橋健一と今野浩喜)、2010年「キングオブコント」の覇者である。

番組はこの大会の3ヶ月前からはじまっている。今年で5年目。基本、このふたりがえんえんしゃべるだけのシンプルなトーク番組である。動画配信ではあるが、テレビよりも深夜ラジオの聞き心地に近い。

今回取材したのは、8/9(日)に新宿ロフトプラスワンで行われた公開収録「ニコニコキングオブコメディ 真夏の通常回スペシャル」。チケットは2分で完売。発売日、ツイッターはチケットを取りそこねたファンの悲鳴であふれた。
その模様は、きょう8/13(木)第133回として配信される予定(夜10時→配信されました)。それをそのままお伝えするのも野暮なので、まずは「ニコニコキングオブコメディ」の魅力について書かせてほしい。


ツッコミとボケがコントとは逆


わたしがこの番組を知ったのは去年の暮。もともと「キングオブコメディ」は大好きな芸人さんである。だが、ネタ番組を観ていても、彼ら個人がどういうひとなのかという興味はまったくなかった。
「コント芸人は二度売れなくてはならない」とは「バナナマン」設楽統のことばだそうである。(正確なソースはわからないが「鬼ヶ島」のDVD「恐怖学園」の特典映像でドランクドラゴン鈴木拓が言ってるのに「それ設楽さんのでしょ」と高橋がツッコんでるのを観た)。
たしかに、漫才はともかくコントの芸人さんは、作品の演者として評価されることが多い。タレント性が前に出にくい。
だから気づくのが遅れたのだ。

「キングオブコメディ」のフリートーク力は凄い。

特に地味なほう、高橋健一。すね毛丸出しのセーラー服姿で「みたいなっ?」って騒ぐ女子高生じゃないほう、コントでは今野の異常なキャラを立てて冷静にツッコむ印象の高橋が、まあ、しゃべるしゃべるしゃべる。
ひとことで言うと、「ニコニコキングオブコメディ」ではツッコミとボケがコントとは逆。

たとえば過去にどんなトークがあったのか、思い出すままに羅列してみる。記憶違いはご容赦を。

駄菓子大好き高橋が年間1000枚は食ってる「蒲焼きさん太郎」の正しい食べ方指導、営業先に今野が衣装のスカートを忘れたことからはじまる工業高校スカート狩り事件、キングオブコントを観て、振りかかる不幸と戦う高橋のエピソードに感動した教師が授業でそれを話したことで寄せられた生徒たちからの感想文「今日、道徳の時間に高橋についてやりました」、8歳上の相方が40代に突入することに対する今野からの異議申立て「だれが40にまでなっていいと言った?」、コンビ間格差をボヤく高橋からの「相方年金制度」提案、高橋家のねずみ駆除をしようとしたら親父の靴下が罠にかかった事件、鬼ヶ島アイアム野田の態度がとにかくひどい件、ガリガリ君コーンポタージュ味を逆に溶かしてあっためて飲んでみよう実験、あらゆる事象をマンガ「コータローまかりとおる!」で例えようとし、作品そのものを知らない今野がしまいにゃブチ切れるシリーズ、中学生のときからなぜか高橋が捨てずにもっている竹筒と鉈と削りかけの箸(狂気のタイムカプセル)、学校カーストの恨みを深くこころに刻んだ今野の闇が噴出する「顔もおぼえてないやつの結婚式に参加してやった」
……ああ、楽しい、できることなら全回レビューでまかりとおりたい。


椅子から床に降りてきた


止まらない高橋のトークを、今野がツッコんだりあおったり。そのコンビネーションが発展して、即興コントが展開されたり。
年末から正月を超えて100回以上に及ぶアーカイブを見まくった。家人にドンビキされながらおはようからおやすみまでニタニタ笑い続けた。そしてリアルタイムの配信に追いつくころには、完全なるニコキン中毒者ができあがっていた。

優秀な芸人のトーク番組はいくらでもある。それらとなにが違うのか。「ニコニコキングオブコメディ」の特徴って?

1.基本、録画したものをニコニコ動画で配信する
2.凝った編集も演出もしない(ように見せている)、いまのところロケもない。曲のコーナー、CMもない
3.調理をすることも多いが、テーブルや器具を揃えず「成り行きまかせ」「ありもの」ですませる。
4.視聴者からの投稿で構成するコーナーがない。構成作家がいない。
5.時間がどんどん長くなる傾向がある

結果、立ち上がってきたのは、公共の放送では観たことのない生々しさ、過激さ、自由さである。
もちろん、最初から狙いすまして構築した方法論ではないだろう。
ただ、1回目の配信には、テーブルと椅子があった。2回目から、座椅子で脚を投げ出してしゃべる現在のスタイルになる。椅子から床に降りてきた。この変化がニコニコキングオブコメディの方向性を決めたのは間違いない。あの判断は本当にかっこよかった。

ファミコン時代のゲームのステッカーがびっしり


公開収録は、2回の休憩をはさんでの3部構成、3時間半に及ぶ大サービス長丁場であった。満員のお客さんの男女比はぱっと見4対6くらいか。飲食物のオーダーがけっこう出ていたので、20代後半から30代以上の大人のお客さんがコアと見た。
1部がキングオブコメディのふたりによるフリートーク、2部がおやつボーイズ(番組のアシスタント的存在のプロダクション人力舎所属の若手芸人たち)を呼び込んでの「うでし、駄菓子、大好き!」(駄菓子好きの高橋が広義の駄菓子を紹介する配信1回目から続く人気コーナー)のスペシャルバージョン。






3部がおやつボーイズたちのネタ披露と「高橋遺産」(実家暮らしの高橋が、捨てずにとっておいてしまったものを紹介するコーナー)である。




全部楽しかった。ひとつあげるなら「高橋遺産」か。

若手たちのネタ披露がひと段落し、このままエンディングかな? という空気のなか。

「せっかくだから高橋遺産やろうと思って」

「ちょっとつないで!」と高橋が舞台から消え、子どもがひとり入りそうなくらいでかいバッグと、小さな四角い手提げをもって現れる。

ひとつめ。でかいバッグからでてきたものは

「わたしが38年つかってるゴミ箱です」


円筒形のスチールゴミ箱、あったあった。これに、おもにファミコン時代のゲームのステッカーがびっしり貼られている。
日曜日の新宿・歌舞伎町をこれ担いで来たのか。


なんでって、とっときたいじゃん


だが、問題は、もうひとつの小さな手提げの中身であった。
「あとね、わたしの変なカセットテープいろいろ」
(中身をあける)
「カセットテープ!? えー……」絶句する今野。


笑いのようなどよめきのような。いきなり水槽からつまみ上げられたハムスターの困惑のような衝撃がぶるぶる会場に広がっていく。
ああ、「ニコニコキングオブコメディ」だ!
オチや笑いの約束はない、観る側の度量もためされる感覚。
そして、今日はいつものパソコンの前じゃない。こころが震える(カメラも若干震えてます、すみません)

VHSからダビングしたまるまる2時間音だけの「プロジェクトA」「中島みゆきのオールナイトニッポン最終回」、「サイボーグ009最終話」このへんは理解できる、わたしにも覚えがある、若いおやつボーイズたちはとは違う。むしろ強く共感する。

話はこっからだった。

「オールナイトニッポンのオープニングの一曲目があるじゃん。『今日の一曲目きいてもらいます』っての。1985年の7月23日から一週間、あそこまでだけを集めたテープ」
ざわ・・・ざわ・・・
「な、なんでそんなことをしたの?」高橋の目を見据えて今野。
「なんでって、とっときたいじゃん」
「全部録るんだったらわかるけど……」
「(さえぎって)ちがう、この夏の雰囲気を保存しておきたくて」
「き……気色わる……ええと、それ、聞くの?」
「たまに」
「えーーー!」
会場のざわつきが驚きに変わる。
「いまだにの話?」「現在進行形?」今野がたたみかける。
「うん。懐かしいなあーと思って。ちょっと聴いてみる? 軽く」

そして、1985年の7月23日放送の「桑田佳祐のオールナイトニッポン」のオープニングを全員で聞いた。
関係ないけど〈向こう版の「PLAYBOY」がありますんでね、これをコピーして、いいハガキがあったらさしあげたいと思います〉というくだりが衝撃的であった。おおらかな時代だなあ。

怖いよなあ。オレもわかんないんだけど


「まあこれはいいんですけど」
高橋遺産はまだ続く。

「一個だけ変なテープがまぎれてて」

「全部ヘンっすね」
おすし・鐘ヶ江がすかさずツッコみ、高橋から「マイナス1ポイント」を食らう。
「これがいちばん古い、わけわかんない、オレの世代でもつかってないくらいの、ボロッボロのテープに……あのね、変な音が入ってて」
ええー!  会場からいいリアクションが来る。意外にも怪談じみてきた。
「怖い怖い」今野も乗る。
「ちょっと聞いて。(会場スタッフに)音大きめでお願いしていいですか?」


全員で耳をすます。ざーっという音のなかから、かすかに聞こえてきた。機械的な女性の声と電子音、そして……。

「……0時32分50秒をお知らせします……チッチッチッ ポーン、ただいまから0時32分51秒をお知らせします、チッチッチッ(甲高い子どものこえ)『はーい』」(ここで録音が切れる)

シーン……。

「これね、妹の声なの」
「びっくりしたあ!」
「なんなんだろう、なんかこれだけがはいってるの」
「電話の時報? なんか録音してたってこと? 怖かった」
「怖いよなあ。オレもわかんないんだけど、妹の声だってことだけはわかるの。もう1回聞きます?」

聞く(2回目)。

「たぶん、妹が時報を録音してて、それで親に呼ばれて、はーいって切ったんだよ」
「0時32分、けっこうな夜だぜ」
「あいつ何やってたんだろう。なんだろう、このテープ」
「まあ、そんな時間に親に呼ばれることないよな」
「じゃあ、ちがうのかな。前に聞いたら妹も覚えてないっていうの。もしかしたら妹の声じゃないのかもしれない」

「ええっ! 怖い怖い怖い!」
ザンゼンジ・武田の叫びから本格的に怪談の流れになるかと思いきや、

今野「おまえの声に似てるんだよなんか」
会場「ああーーー!」(そういえばという納得のどよめき)

高橋「オレ、こんなことしないよ!」

大爆笑。
いやいや、あなたはするでしょ!
一人残らずそう思ってるのを感じた。あの瞬間、舞台と会場が完全に一体化していた。

「ほんとにオレの声だった? ちょっともう1回聞いていい? オレの声だとすると価値がかわってくるから」

聞く(3回目)。


「……オレかなあ?」
ここで名探偵・武田。

「高橋さんだとすると、ぜんぶ納得です。0時32分なのも、時報を録音するっても高橋さんぽい」

全員がうなづく。
一人納得いかない高橋(たぶん真犯人)だけが
「オレってなんなんだよ」
と不満そう。だが

「だって、この時間を残しておきたい。とか変なこと言いそうだもん」
相方の的確な分析に返すことばもない。

そういえば、1回目の休憩終わりのこと。
座椅子につくまえ。高橋がステージ奥のプロジェクタの前に立って、なんどもふりかえるアクションをしていた。
「一瞬だけじぶんの顔がみえるよ、やってみなよ」と今野にもうながす(つきあう今野△)
舞台上の人物を映写するまでにコンマ何秒かのタイムラグがあるのだろうか。
「わあ、時間を操ってるみたい」
とてもうれしそうだった。


だって、呪われそうじゃん


「このテープ大事にしよう。でもさ、こんなに声高いってことは相当若いときだから」
「いや、いまだにそういう声出てるって。最近録ったんじゃない?」
「それはないそれはない。うちにもうカセットデッキないし。これは捨てられないでしょ、じぶんの昔の声は」
「……うん。怖いよね」

少し考えてから、続けて今野。
「その声が怖いんじゃなくて、それをとってることが」
「とっておこうと思ってとってないよ、なぜかとってあったってだけで」
「捨てられなくなってるんでしょ?」
「うん。捨てられなくなってる、だってもう捨てられないでしょ」
「だからそれが怖いよ、捨てれるよ」

「だって、これを捨てたらもう声がでなくなるかもしれないじゃん。呪われそうじゃん」

「……もうぜんぶ怖いよ、いまの感じが」



エキレビ!5周年企画で「コロコロコミック」編集部をたずねた。
高橋が小学生のとき「コロコロコミック」の読者コーナーに投稿していて、二度採用されたことがあるという。
「ニコニコキングオブコメディ」で語っていたそのエピソードをもとに、それを探しにいこうという取材を敢行したのだ。
企画は大成功。高橋と昔の投稿との感動の対面を実現することができた(くわしくはコチラを)。
編集部を後にして1階に降り、みんなで「見つけられてよかった、楽しかった」など興奮して語り合っている中、高橋。

「ドッペルゲンガーにあってしまった気分、オレ、もう死ぬのかもしれない」

「はーい!」

テープの中の子どもの声が、そのときの笑顔と重なった。

(アライユキコ)