選手のハートに火は、本当に点いたのか――。

 やや大げさに言うなら、日本代表の試合で選手たちからこれほど「戦闘力」が感じられたのは、初めてかもしれない。

「戦闘力」というのは、「力強さ」と言い換えてもいい。球際での強さ、ボールを奪い取る強さ、相手よりも上回る攻守の切り替えの速さ――指揮官の言うところの、いわゆる「デュエル」の強さが、8月9日の中国戦でははっきりと見えた。

 象徴的なシーンを挙げるなら、後半に訪れた以下のふたつのシーンになる。

 DF森重真人が敵陣でチャレンジした直後、ボールがこぼれて中国にカウンターを浴びた瞬間、猛スピードで追走したDF米倉恒貴がタックルでストップした55分のシーン。あるいは、相手DFとGKにプレッシャーをかけたFW永井謙佑に、FW興梠慎三、MF山口蛍、MF武藤雄樹が続き、ボールを奪って武藤のシュートにつなげた70分のシーン。

 いずれの場面も、これまでに見られた「ただ寄せているだけ」のアリバイ的な守備ではなく、本気でボールを奪い返そうとする意思と意欲が伝わってきた。まるで自分のボールを奪われた子どもが、「ボールを返せ!」と無我夢中で掴みかかっていくかのように......。

 中国・武漢で開催された東アジアカップは、2分1敗で最下位に終わった。ハリルジャパンの評価が難しいのは、今大会でのテーマが曖昧だったからだ。優勝を狙うのか、テストに徹するのか――。ハリルホジッチ監督は大会が始まる前、「結果を探しに行きながら、新しい選手も探さなければならない」と、その両方を獲りに行くと宣言したが、このときすでに「難しい仕事になる」ということも想定していた。

 日本の戦いをさらに難しくしたのが、日程の問題と、それにともなう選手のコンディションの問題だ。7月29日にJ1を戦った選手たちが中国入りしたのは翌30日。中2日で北朝鮮戦を迎え、さらに中2日で韓国戦を戦った。その間の練習は疲労回復やコンディション調整に重きが置かれ、戦術練習を行なえたのは中国戦前日の1日だけ、という状況は異常なものだった。

 こうしたなかで評価したいのは、ゲームを追うごとに試合内容が向上していったことだ。

 北朝鮮戦では、素早く縦を突く狙いどおりの攻撃で先制しながら好機を逃し続け、後半に入るとゲームをコントロールすることができず、疲労から足が止まったところで空中戦によってまんまと2失点した。次の韓国戦では、守備ブロックを築く位置を3つ用意し、選手たちの判断で状況に応じて変えた。DF槙野智章と森重を中心に、空中戦の競り合いとカバーリング、こぼれ球への対応を徹底し、韓国の長身ストライカー、キム・シンウクを封じ込めた。

 そして中国戦では、スローインの流れから中国のエース、ガオ・リンに複数人でプレッシャーを掛けに行ったところでいなされ(寄せる意識が裏目に出てしまったかもしれない)、フリーのFWウー・レイに先制点を叩き込まれた。だが、すぐに立て直し、左SBに抜擢された米倉のクロスに武藤が合わせて追いつくと、その後は日本の時間帯のほうが長かった。

 もちろん、2分1敗・3得点4失点で最下位という成績では、及第点を与えるわけにはいかない。だが、新体制が発足してわずか4ヶ月強。強行日程のなか、ましてや国内組だけの即席チームで臨んだ大会で、問題が出ないほうがおかしい。

 現在、ハリルホジッチ監督は日本が世界で勝つために改革を行なっている。とりわけ強調しているのが、これまでの日本代表に欠けていた「相手の隙を逃さない素早い攻撃」と、「デュエルの強さ」だ。指揮官自身、大会中に改めて「攻撃も守備も、これまでとはまったく違うことをやっている」と言えば、槙野も、「今までのポゼッションサッカーから、縦に速いサッカーに変えているところ」と話している。

「縦に速い攻撃」という言葉がひとり歩きしがちだが、それ以外を禁止しているわけではない。実際、北朝鮮戦を終えたあとには、「日本人は言うことを聞き過ぎるから、もう少し柔軟にしていいぞ」という声を選手たちにかけている。大事なのは、プレーの優先順位――プライオリティだ。これまで横パス、ショートパスを第1選択肢においていたような局面で、「裏を狙えるんじゃないか」「縦パスを入れられるんじゃないか」という意識づけをしている段階であり、成果は少しずつ表れている。

 アジアでの戦いの難しさ(気候、試合会場や練習場のピッチ状態)、東アジアのレベル、アウェーでの日本人のメンタリティ、国内組の選手の見極め(本当に良い選手が2〜3人見つかったと語った)......。指揮官にとって今大会で得たものは多いに違いない。

 一方、「世界で勝つために何をすべきか」をテーマとした連日のミーティングによって、選手の意識が変わってきたのは、ミックスゾーンでの言葉を聞けばよくわかる。

 韓国戦で代表デビューを飾ったMF藤田直之が口にしたのは、「体格やフィジカルをはじめ、すべての面でのレベルアップ」だ。

「『A代表として戦っていくなら、体格、フィジカル、運動量のすべてをレベルアップさせないといけない』という話は何回も聞いているし、『Jリーグでは問題なくても、上を目指すなら絶対に必要だ』という話もされています。球際で勝つ確率をもっと上げなければならないし、スプリントで上がる回数も増やしていかなければならない。そういう意味で、すべての面で成長が必要だと感じています」

 ハリルホジッチ監督の厳しい指摘に、「愛を感じる」というのは、GK西川周作だ。

「監督は思ったことをはっきりと口にする、今までにいなかったタイプの方で、言ってくれることに対して愛を感じます。監督自身、真面目で、真剣で、規律を守る日本人のことが好きなようで、だからこそ強くしたいと思ってくれているし、協会やJリーグに対しても思ったことを言って、日本代表を本当に強くしようとしてくれているのが感じられます」

 3試合すべてにフル出場を果たした遠藤航は、所属クラブに還元できること、所属クラブで意識していくことを挙げた。

「まずはみんなに、『湘南のサッカーは間違ってない』ということを伝えたい。チョウさん(チョウ貴裁監督)のサッカーをブレずにやっていくべきだと思うし、自分自身も湘南の3バックの右に慣れすぎず、ボール奪取や球際の意識をもっと高めたい。『もっと細かくラインコントロールしろ』というのも今回言われたことなので、チャレンジしていきたいと思います。チームとしても、個人としても、まだまだ成長できると感じています」

 大会を終え、指揮官は「批判は私に向けてください」と語った。だが、今大会の結果をもってして、指揮官を批判したところで何も生まれない。むしろ、厳しい視線を向ける先、プレッシャーを掛けなければならないのは、選手に対してだろう。

 たとえば、中国戦で日本がゲームを支配していた後半の時間帯に、ほぼひとり蚊帳の外にいたFW宇佐美貴史に対して――。もちろん、2トップとしてプレーするガンバ大阪とは異なり、日本代表ではサイドハーフで起用されているため、ゴールへの道筋、プレーの選択肢が限られ、守備での負担も大きいのは確かだろう。だが、ロシアW杯で日本のエースになるべき選手が、このレベルで消えてしまっているようでは困るのだ。

 ザッケローニ監督は、すでに選手として完成された欧州組を重用するチーム作りを進めた。アギーレ監督は、守備意識や運動量が望むレベルに達していない宇佐美を代表に選出することは一度もなかった。一方、ハリルホジッチ監督は日本代表の強化に「Jリーグのレベルアップが不可欠」だと声高に叫び、今回も国内組に対して欧州組と同じレベルを求め、宇佐美も手元に呼び寄せ、足りないものを厳しく指導している。

 指揮官が宇佐美に対して、いや、彼だけでなく今大会に臨んだすべての選手たちのハートに火を点けるアクションを起こしたのは間違いない。彼らの何が変わったのか――。それは今後のJリーグで明らかになるはずだ。

飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi