「いいかげんにしてもらえますか…」

突然マネージャーが怒り出し、撮影は一番いいところで終了となった。
嫉妬深いマネージャーのせいで、僕と4人の恋は終わりを告げたのだ。








運命に引き裂かれた僕と4人の天使たち。
また一人ぼっちに戻った僕は帰り道をとぼとぼ歩いた。



でも帰宅して撮影した写真を見ると、アイドルたちはさっきと変わらず、僕を恋人のように見つめていた。僕はもう孤独ではない。彼女たちは写真の中にいるのだから。これからもずっと。


地主恵亮さんの場合



誰もが知る昔話「浦島太郎」。全国各地に浦島太郎伝説はある。海のない群馬県にもその伝説はあり、青森にも竜宮城があったのでは、という噂がある。

今回はそんな浦島太郎伝説をまわってみたいと思う。というか、まわってこいと言われている。そんなに興味ないのに、である。



朝7時に東京駅へやってきた。新幹線に乗るためだけれど、早い。家が東京駅から遠いので起きたのは5時半である。私が無類の浦島太郎好きならばわかるが、浦島太郎には、刺身のツマと同じくらいの愛情しか持ち合わせていない。帰りたい。






自分が嫌になる。駅弁を買うお金をもらっていたので買ったとたんにこの笑顔。朝早くから浦島太郎の旅と言われて、口には出さないけれど、「嫌だな」と思っていたのに、この笑顔だ。





今回の旅はauとのコラボということで、いまauショップでケータイを見せたらもらえる「竜宮城ぷるぷる」というゼリーまで用意してくれた。前日まで「朝をもっと遅くして欲しい」と、亀をいじめる子供のよう駄々をこねていたことを恥ずかしく思う。ちなみにゼリーの在庫がなくなり次第、プレゼントは終了だそうだ。




新幹線の車窓から見える「三太郎」を背景に「竜宮城ぷるぷる」を撮影する。
そうしろと言われたからだが、一瞬しかチャンスがないので緊張した。




「竜宮城ぷるぷる」は見かけも青く涼しげで、味もラムネで夏らしい。なにより、新幹線というのが素晴らしいじゃないか。速いし涼しい。旅は新幹線に限る。新幹線で食べる駅弁も美味しかったし、いい旅な気がしてきた。




また「三太郎」を撮影する。さっきは東京の赤羽だったがここは群馬県の高崎。東京を離れるにつれ、だんだんと田んぼの景色が増えてきた。緑が美しい。夏の旅の素晴らしさに気がつきつつある。もしかして、これは竜宮城に行くより素晴らしい企画なのかもしれない。新幹線に乗っているときはそう思っていた。



高崎駅を経て伊勢崎駅にやってきた。駅前にいきなり空き地である。
土地が余っているなら欲しいな、と思った。

なぜ伊勢崎に来たかというと、ここにも浦島太郎伝説があるからだ。
なんでも伊勢崎には竜宮城があったそうだ。ここを流れる広瀬川に深い淵があって、そこが竜宮城だったらしい。龍神宮というものもあるそうだ。

海のない群馬県で浦島太郎伝説というのが不思議、というか「ウソなんじゃないか」と思うのだけれど。



駅からカメではなくタクシーに乗り、「龍神宮まで」とお願いした。運転手さんは「え、どこですか?」と聞く。説明すると「あ、そんなのあったな」と言うので、あまり地元でも有名ではないらしい。そこに行くお客さんはいないですか? と聞くと「いない」とキッパリと教えてくれた。頼もしい限りである。



10分ほどで到着した龍神宮は、看板を見る限り、まだやっているのか不安に思った。セミが鳴き、太陽は全力で降り注ぎ暑い。やっぱりなんでここに来たのだろうかと思う。川も普通で、ここにもし竜宮城があったとしても、実家っぽい竜宮城だったと思う。




舗装されていない道を歩き、龍神宮を目指す。もしここに本当に浦島太郎が来ていたら、急用を思い出して亀に「帰りたい」と言ったかもしれない。




「ダマされてるんじゃないか」と思っていたけど、龍神宮にはちゃんと浦島太郎の石像があった。亀に乗っている。そして、その像の前には賽銭箱もある。私は生まれて初めて浦島太郎に手を合わせた。



これで指令は一つクリアだ。絵本に出て来る「浦島太郎」にはほぼ確実に海岸が出てきていた気がするけど、石像まであるんだから多分ここで合ってるんだと思う。

ここから海までずいぶん遠いのだが、「浦島太郎」の腰ミノをつけて海で撮影してこいということで、盛岡に移動して浄土ヶ浜まで車で100km運転する。まじで遠い。



がんばったわりに撮れたのはこの微妙な写真だった。海が遠かったので日が暮れてきた。夕焼けは綺麗だったが、この腰ミノの写真を撮るために余計に一泊したのは間違っていたと思う。




翌朝、今度は青森に行き「五所川原 立佞武多(ごしょがわらたちねぷた)」というのを見ろ、とのこと。それにしても遠すぎる。



新幹線を乗り継いで新青森駅から五所川原駅へと向かう。電車を待つホームで周りを見ていると、随分遠くに来たものだ、と感じる。夏の日差し、セミの鳴き声、遠くに伸びるレール、涼しげなゼリー。ビンゴ、と言いたくなる夏の旅だ。





到着した五所川原は立佞武多があるため、お祭りの雰囲気でいっぱい。20メートルを超える山車が街中を練り歩くのだ。このお祭りのために、山車が通る場所には電線もない。見慣れない景色こそが旅の醍醐味だ。





お祭りが始まるのは夜の7時から。まだ時間があると街を歩いていたら、電話がかかってきた。プロデューサーからの電話だ。「もう帰っていいですか?」と聞いたところ、「乙姫様を準備したからもう少し我慢して」と言う。「どうせその辺のおばちゃんとかでしょ?」くらいに思っていた。



そしたらガチの乙姫様が来た。




乙姫様は青森でモデルをしている「ゆりあ」さんだ。浴衣姿が輝いて見える。選挙中の政治家並に深々と両手で握手をして「ありがとうございます」と言ってしまった。




神々しいとはまさにこのことだと思う。
お参りする時も全然正面を見なかった。神様がいたら「参拝に集中しろ」って怒られたことだろう。

やがて日が暮れて立佞武多が道に出てくる。和太鼓の音が鳴り響き、その音が体を揺らす。ゆりあさんはこのお祭りを何度も見たことがあるそうだけれど、私にとっては初めてのお祭りだ。最高の初めてだと思う。



現れた立佞武多はあまりにも大きすぎた。