初戦の北朝鮮戦、続く韓国戦に敗れ、後がない日本が地元・中国を2−0で下し、最後に意地を見せた。

 試合前日には「3連敗で帰る気か!」と、指揮官からゲキが飛んだ。「(敗戦を)感じているだけで学んでいない」「国を背負う重みをわかっているのかいないのか」――厳しい言葉が続く。国際舞台の経験値が低い若いチームは、時折自分を見失う。危機感も、焦燥感もない訳ではない。それでも結果が伴わなければ、悪循環に陥る。佐々木則夫監督流の刺激を存分に与えられてピッチに立った選手たち。引き分けでは屈辱の最下位が決定してしまう。勝利しか許されない試合が始まった。

 韓国に敗戦した直後にはベストメンバーで勝利を目指すとしていたが、チャレンジ色も折りまぜたスタメンは、佐々木監督が勝利を念頭に置きながらも、試行したい選手が明確に表されていた。右サイドバックには今大会の目玉となった京川舞(INAC神戸)。ボランチには川村優理(ベガルタ仙台L)と杉田亜未(伊賀FC)のコンビ、2トップには田中美南(日テレ・ベレーザ)と高瀬愛実(INAC神戸)が並んだ。

 開始早々から日本は最終ラインからボールを動かしながら前線を伺うも、中国自慢の守備陣は無理に食いつくことはしない。日本のパスコースがぶれるようにジワジワとプレスをかけながら、甘いボールを一気に奪ってカウンターへの展開を狙っていた。実際、この日の日本も安易なパスミスが多く、奪われた直後にはそのほとんどで中国はカウンターのスイッチを入れていた。それが失点につながることはなかったが、日本も2トップが前を向いてボールを受ける形を作ることができなかった。44分に田中(美)がDFに囲まれながらもボールをコントロールしながらシュートまで持っていったがゴールには至らず。双方に決め手を欠く前半となった。

 後半、右膝がまだ本調子ではない高瀬に代えて菅澤優衣香(ジェフ市原・千葉)を投入し、豊富な運動量であらゆるシーンに顔を出していた中島依美(INAC神戸)をボランチに、杉田を本職の左サイドハーフ、左右両方こなせる有町紗央里(ベガルタ仙台L)は右サイドハーフへ移動した。

 このポジションがハマり、より効果的な場面を作っていく。59分には菅澤が奪ったボールを田中(美)につなぎ、最後は京川がシュート。その直後には川村のヘディングシュートがGKの手を弾きポストを直撃。63分には、川村、菅澤とつないで中島がフィニッシュと、徐々にゴールに近づいていく。

 残り7分となったところで切り札・横山久美(AC長野)が登場するやいなや、京川からのパスを受けた横山がDF裏へ抜けてシュートを放つ。惜しくもGK正面だったが、一気に流れを引き寄せた。試合を決めたゴールは必然。「相手が食いついてきていたのでバイタルが空くと思った」という杉田のパスを受けた中島が絶妙なスルーを横山へ。「ナイスボールが来た」(横山)と、鮮やかにDFを抜き去るとGKの動きもしっかりと見据えたゴールでチームを救った。

「これが最後のチャンスだと思っていた」という横山。3月のアルガルベカップでなでしこデビューを果たした横山は、ポルトガルという格下相手とはいえ、得意の反転してからの豪快なシュートで初ゴールをマーク。しかし、カナダワールドカップではバックアップメンバーに留まった悔しさがある。

 そして今回の招集でリオオリンピックへの可能性が広がった。その扉を開くことができるかは自分次第だ。韓国戦でも切り札として起用されながら、期待に沿うプレイは出せなかった。しかし、この中国戦で155cmの小柄なストライカーは最後のチャンスをこれ以上ない結果で掴みとった。

 現在、なでしこジャパンには切り札的存在がいない。佐々木監督が横山の途中出場にこだわってきたのは、流れを引き寄せる絶対的な要素を発揮できるか否かを実戦で見極めたかったからに他ならない。本人も自覚していたように、これが生き残りをかけたラストチャンスだった。

 ロスタイムにダメ押しとなった杉田のゴールにもふたりの選手の想いが詰まっていた。ひとりはもちろんゴールを決めた杉田。3月のラ・マンガ国際大会ではU−23女子代表のキャプテンを務め、カナダワールドカップの国内直前合宿ではバックアップメンバーとして帯同した。

"なでしこジャパン"として行動していくうちに、それは「憧れから目標に変わった」(杉田)。体が小さい分、体幹トレーニングを積極的に取り入れ、フィジカルで不利でもそこは判断力とタイミングでカバーする。目下、そのタイミングを得るため奮闘中だ。

 この試合でも、長身の中国選手に対し、体をねじ入れるようにして当てながらボールを奪う杉田の姿は、フィジカルの差を一切感じさせない瞬間があった。その確率を上げること、パスのブレなどまだまだ改善点はあるものの、今大会2ゴールを挙げた得点力も含めて、完璧ではなくても、なでしこジャパンに関わってから必死に取り組んできたことを形にできたことで自信につながったはずだ。

 そしてもうひとりはカナダワールドカップとは打って変わってここまで動きが悪かった菅澤だ。必ずファーストチョイスは自分自身でゴールを目指すと誓って臨んだ試合だった。このラストパスを選択する直前は自らゴールに向かおうとしていた。それでもゴール前で冷静な判断を下した。

「正面にいた川村選手を使うよりも横にいた杉田選手の方がシュートの角度的にもいいのかなと思った」(菅澤)

 彼女の判断は、自身のゴールにはならなかったが、チームの自信を取り戻す杉田のゴールへとつながった。

 何とか全敗は免れた。大収穫と胸を張れる大会ではなかったが、それぞれが自らの実力と向き合わざるを得ない2週間だったに違いない。いずれは、ドイツW杯・ロンドン五輪・カナダW杯を経験した選手たちは退いていく。そのとき、この世代が中心となってなでしこジャパンを担っていかなければならない。この大会を通じてプレイ、メンタル両面で痛感したであろう"甘さ"は、国際舞台でなければ拭えないものではない。あとは自分次第。これまでと同じ姿勢では、今の立ち位置は変わらない。学んだ姿を、今度はなでしこリーグで見せてほしい。

早草紀子●文 text by Hayakusa Noriko