イケメンすぎると話題になった東山動植物園のアイドルゴリラ「シャバーニ」

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今年3月頃からSNSを中心に「イケメンすぎる!」と話題を集め、今も女性客から黄色い声を浴びるゴリラがいる。

名古屋・東山動植物園のアイドルゴリラ「シャバーニ」だ。

そのイケメンぶりを確かめるため、本誌取材班は現地でシャバーニの飼育係を務める渋谷康(しぶたに・やすし)さんに話を聞いた。

―いや〜。こうやって直接見てみるとあらためて実感するんですが、シャバーニさんはイケメンと呼ぶにふさわしいカッコよさですね!

渋谷:そうですかね?

―え?

渋谷:いや、お客さんは「イケメンすぎる!」と言いますが、我々から見れば成人のオスゴリラとしては標準的な顔なんですよ。メスゴリラから特別にモテるということもなく、“オスとして認識されている”程度ですからね。

―シャバーニさんは現在18歳ですけど、人間だと何歳ぐらいなんですか?

渋谷:だいたい働き盛りの30代ぐらいですね。

―普段は、どんなお仕事を?

渋谷:成人のオスゴリラは群れのボスです。なので、まず自分の群れを守ろうとします。シャバもふたりの奥さん、ふたりの子供の4頭に目を配っています。

―外敵が出現した場合はどう対処するのでしょうか?

渋谷:家族を守るために自分が先陣を切って出ていきます。ですから野生のゴリラの群れが襲われた時は、初めに成人のオスがやられてしまうことが多いですね。

―やっぱり男らしい動物なんですね。

渋谷:でもゴリラって、 とても繊細な生き物なんですよ。シャバーニもかなり神経質です。例えば、飼育員に新顔が入っただけでもかなり強いストレスを感じて、下痢をしたり食欲不振 になったりします。成人のオスゴリラの中には心筋梗塞で急に倒れて亡くなるケースもあるので、ストレス解消には気を使いますね。

―その方法は?

渋谷:食事ですね。ただ、好きなものを腹いっぱい食べると生活習慣病の原因になってしまう。とはいえ、量が少ないとストレスがたまる。なので、なるべく栄養価の低い餌をたくさん食べさせています。

―シャバーニさんは、ネネとアイというふたりの奥さんがいますが、嫁同士でケンカは?

渋谷:メス同士の争いはないのですが、“嫁vs夫”のケンカはあります。例えば、シャバーニとネネがもめたら、アイはネネ側に加勢します。メスひとりではオスにかなわないからタッグを組むんです。これはシャバーニもキツイと思いますよ。

―命がけで家族を守っても、嫁の尻には敷かれる…。なんだか、日本のお父さんみたいですね。ちなみに、夫婦の夜の営みは?

渋谷:メスゴリラの発情期となる排卵日は人間と一緒で月1回です。この時、オスからメスへ近づくこともあるし、その逆もあります。シャバーニの場合は、性欲が旺盛ってわけではありませんが、やることはしっかりやってますよ。

―ってことは、繁殖もうまくいっているんですね。

渋谷:シャバーニに限ってはそうですね。ただ、国内全体を見てみるとあまり芳しくありません。日本には1990年の時点で計50頭のゴリラがいましたが、現在は25頭に減ってしまいました。今、ゴリラの繁殖に成功しているのは東山、上野、京都の3園のみです。

―ゴリラの繁殖は難しい?

渋谷:ゴリラ飼育の基本は、群れで飼うこと。しかし、日本では飼育員数、園内のスペースなど総合的な問題でオスとメスの1頭ずつのペアで飼育しているところが多く、ゴリラが繁殖できる環境ではありません。

―現在もそのような状況が続いているんですか?

渋谷:2000年代に入って改善され、日本でも群れで飼育するようになりました。しかし、現存するゴリラが高齢化し全体的な繁殖能力は弱まっています。

―野生のゴリラを入園させたり、海外の動物園からゴリラを買ったりはできない?

渋谷:今、野生のゴリラは絶滅の危機にあります。そして「ワシントン条約」は絶滅危惧種の売買を禁止しているので海外からの購入は不可能です。“売買”ではなく海外の動物園から“譲り受ける”というパターンはありますが、海外の日本の動物園への評価はかなり低く「まともな飼育をしていない動物園にウチの大事なゴリラを渡すことはできない」という態度を取られます。

なので、日本の動物園から「繁殖用に提供してほしい」とオファーしてもなかなか応じてくれません。実はこの状況はゴリラ以外の動物にも広がりつつあります。

―ということは…。

渋谷:現在、世界中の動物園は、野生の動物を捕まえるのではなく、お互いに動物を提供し合って繁殖させていく方針を取っています。なので、繁殖の実績が少ないままだと「日本の動物園には動物を提供しない」という海外の動物園が増えていく可能性があります。

―日本の動物園は、かなり危機的状況に置かれている?

渋谷:そうですね。ただ、子供ふたりの繁殖に成功したゴリラは全国でも珍しい。その意味で、シャバーニは国内の動物園を牽引する“キーマン”だと思います。

 * * *

もともと人間の社会人並みのストレス体質な上、日本の動物園を救う重責も担っているシャバーニ。見た目だけでなく、その責任感の背負い方も、人間が思わず尊敬したくなるほどのイケメンだった。

(取材・文/直井裕太 撮影/下城英悟)

■週刊プレイボーイ33号(8月3日発売)「名古屋・東山動植物園のゴリラ“シャバーニ”は日本の動物園の救世主だった!!」より