フランスとスペインの伝統と技術にしっかり裏打ちされたクオリティと、いつもあたたかく迎えてくれるホスピタリティをあわせもつ、東京の名店めぐりに出かけよう!



秋田赤ベコ牛の炭火焼
バスクの地で会得したバルの本質を披露
『パイス バスコ』

銀座


昔からスペイン随一の美食エリアとして知られるバスク地方。サン・セバスティアンには食に貪欲なバスク人らしく、数多のバルが集まる通りもある。そんなバル街の虜になった日本人がひとり。

この店のシェフ、山田朋仙氏だ。氏はサン・セバスティアンにほど近い名店『マルティン・ベラサテギ』出身。その在籍中にバルを巡るわけだが、元はフレンチ出身でイタリアでの修業経験も。



魚介の冷たいラザニアはラタトゥイユやマイワシの酢漬けを重ねた

バスクに特化したバルを開いた氏の愛情は深い。ココチャというタラのノド肉を仕入れたり、特産ワインのチャコリを8種も揃えたり。どちらも日本ではほとんど流通していない代物。

そうした要素に、バスク人同様の自由な発想力で、自身の感性を加味している。秋田に良い牛がいると聞けば仕入れ、炭火焼きに。名店での経験が糧となった美しき一品もあり、山田流は多彩さも魅力。レストラン級の料理もあって懐が深い。

「柔軟性だけでなく魚を上手に扱う点も日本人と親和性が高い」。換骨奪胎が得意な日本人。バルの本質を捉えると、こうなるのだ。



ココチャのピルピル 季節の瓜と共に。ノド肉のゼラチン質が旨い


お値打ちタパスコースが魅力的なバルは次へ



タパスの盛り合わせ5種。内容は日替わり
お値打ちタパスコースで生ハムからパエリアまで『ラ・オリーバ』

六本木


2012年3月、外苑東通りから少し奥まった路地に開いた店は、白い床タイルやベンチシートが爽やかな雰囲気。開店前には、現地のバルを研究すべく、マドリッドとバルセロナで40〜50軒のバルめぐりをして研究したそう。

現地のバルは薄暗いところが多いが、女性ひとりでも入りやすいように店内をあえて明るくしている。



自社輸入のイベリコ・ベジョータの生ハムは36カ月熟成。独特な香りが魅力

カウンターのショーケースに並ぶ色とりどりのタパスは、野菜のトマト煮込み、小イワシのエスカベーチェ、ムール貝とヤマイモのパプリカ風味など、日替わりで5種類。壁に作り付けの生ハムセラーでは、自社輸入の生ハムやソーセージ類がその存在をアピールしている。

この中で必ず食すべきは、36カ月熟成のイベリコ・ベジョータ。白い皿に切り出された生ハムはしっとりと輝き、脂が赤身に溶け込んで独特の香りを放つ。

初めてふたりで訪れるなら、ぜひタパスコースをお試しあれ。生ハムとドライソーセージの盛り合わせ、本日のタパス3種、サラダ、お好みのフリット、お好みのアヒージョ、お好みのパエリアといちじくアイスが付いて、価格は実にお値打ちだ。

出汁を含ませてしっとりと仕上げたパエリアは、魚介とイカスミの2種。お好みのベースでどうぞ。



革張りのスツールが並ぶカウンターのショーケースには常時5種のタパスが並ぶ。白を基調にした店内は明るい雰囲気



モノクロの風景写真がヨーロッパの空気を漂わせる


まだある、抑えておきたいバル!続きはこちら



プリプリ海老とマッシュルームのアヒージョ。オリジナルガーリックハーブバターのコクと、数種類の香辛料が生きている
銀座の高速脇に誕生した大型スペインバル『バル デ エスパーニャ リブラ 銀座』

銀座


2008年に開店した有楽町『LOBOS』以来、銀座界隈で続々とスペインバルを展開するクロスピレーションの系列店。

赤と黒で統一された手前側の空間にはテーブル席とカウンター、その奥にはゆったりしたダイニングが現れる。思いのほか奥行きが広いのはグループ客を視野に入れたためだが、パエリアやパスタを2人前サイズで提供するなど、2人客への配慮も万全。

スペイン風オムレツを本来のポテトの代わりにサツマイモなどの季節野菜で作るなど、独創的なアレンジも楽しい。



刺身用の海老と魚介、チキンを使った具沢山のパエリア。レギュラーサイズ



店内奥のゆったりとしたテーブル席




ジャンボマッシュルームのプランチャ。自家製パンチェッタの脂で仕上げる。季節などによりメニューは異なる。写真は一例
正々堂々成すべきことを成して、日常を満たす『バル・コモド』

恵比寿


10坪の店内は、臨場感を直に感じられるカウンター主体のスタイル。炭火で焼いたり、フライパンをあおったりと大忙しのシェフを前にする、居心地の良さは格別だ。

料理は手作りを徹底し、ワインも約50種と充実。日常に寄り添うバルの気軽さを実直に表現している。等身大で客と接する同店は、実に清々しい。



ぶどう牛のロースステーキ(150g)、フランシス・コッポラ ディレクターズカット ジンファンデル。炭火焼きで香ばしく。おろしたての山葵も添えた。季節などによりメニューは異なる。写真は一例



恵比寿神社から続く小道沿い。テーブルも1卓


続いてはビストロ!まずはボリューム自慢のカスレ



手前はカスレ。自家製ソーセージと鴨のコンフィの下に白インゲン豆がたっぷりと入っている。季節などによりメニューは異なる。写真は一例
丁寧に計算して作られた味がグルマンを魅了する『オー・コアン・ドゥ・フー』

中目黒


直訳すると「火の周り」という意味になる店名の通り、暖炉を囲んでいるかのように和やかな空気で人々を魅了するビストロ。2011年にオープンし、現在ではランチは予約なしで入れないほど人気店となり、木のぬくもりを生かした店内は、陽気な賑わいに満ちている。

オーナーシェフの山口潤さんが沙知子マダムとともに切り盛りするこちらの料理は、ボリュームたっぷりのビストロスタイル。山口さんがシェフを務めた前店の常連がわざわざ横浜から食べに来てくれることも多いため、感謝の気持ちを込めて盛りを大きくしているのだという。



極太アスパラガスと北海道産帆立のソテー。パルメザンチーズをかけ、オマール海老のソースとサバイヨンで。季節などによりメニューは異なる。写真は一例

オマール海老のソースを贅沢に添えた「極太アスパラガスと北海道産帆立のソテー」も、柔らかな白インゲン豆がたっぷりと盛られた「カスレ」も、目の前に運ばれると驚くほど迫力のボリューム。

しかし、飽きるどころかいつの間にかたいらげてしまうのは、丁寧に計算して作られた味だからだろう。たとえばカスレの白インゲン豆には肉の旨みを染み込ませることはもちろん、豆特有のもたつきが出ないよう、炊く時のブイヨンにトマトの種をしのばせ、酸味とキレを出している。



壁の黒板メニューは沙知子マダムの手書き。気さくな雰囲気を醸し出す



ヨーロッパのビストロを彷彿させる店先の鉄製の看板


続いては普段使いにおすすめフランスの田舎料理



手長海老のブランマンジェ。周りはカリフラワーのピュレとトマトのジュレ
さりげなく手間をかけたシンプルな田舎料理で勝負『レギューム』

広尾


『レギューム』が目指すのは、「ハレの日ではなく普段気軽に使える店」。そこで店内はカウンター中心のスタイルとし、フランスの田舎料理をベースにした気取らぬ家庭料理をアラカルトで提供することにした。

ひとり客も楽しみやすいようにと、料理は相談に応じてボリュームを調節。定番の「キャロット・ラペ」や「鴨のコンフィ」「イカのラタトゥイユ詰め」など、どれも丁寧なやさしい味わいだ。



焦げ茶を基調としたシックなカウンター。右手のガラス扉に中庭の緑が映える

パートで包んで焼き上げるという“ひと手間”をかけた「豚の頭のテリーヌ」は、外はカリッと香ばしく、中は豚のゼラチン質がとろける絶妙な食感。

ワインリストは大塚さんの思い入れのある「ブルゴーニュ」と、リーズナブルかつバラエティー豊かな「それ以外」の二部構成となっている。

料理の平均予算はひとり3000円。一軒目としても、二軒目のワインバーとしても利用できる、使い勝手のよさも魅力である。



入口から店内に入ると、細い通路がカウンターをドラマチックに切り取る


ラストは心地よい空間でいただくビストロ!



絶妙な火入れの「えぞ鹿もも肉のロースト ゴーダチーズのソース」。メニューは日によって異なる。写真は一例
実直な味の料理と心地よい空間と
『ビアード』

目黒


どうにも漠然とした表現になってしまうのだが、初めてこの店を訪れたとき、足を踏み入れた瞬間に「わ、なんだか“いい感じ”がする」と思ったことを覚えている。

それは、味のある風合いの壁や床、アンティークの椅子や窓際に積まれた古い本、キッチンに並ぶ調理器具といった、空間から受ける第一印象に加え、豊かなヒゲを蓄えた店主・原川慎一郎さんの醸し出す、柔らかな空気感によるところが大きかった。



しっとりとした田舎風テリーヌ、柔らかいプリンのような食感の鶏レバーペーストなどが楽しい「お肉屋さんの一皿」

2012年7月にこの店を開ける前は、三軒茶屋にある人気店『café uguisu』でシェフを。それ以前には、奥沢の『ラ・ビュット・ボワゼ』や、ブルゴーニュ・サンスの二ツ星『ラ・マドレーヌ』でも修業を積んだ原川さん。

が、空間にせよ、料理にせよ、全体的に“フランス一色!”といったノリではなく、近年頻繁に足を運んでいるというサンフランシスコ『シェ・パニース』の影響もどことなく感じられて、それがこの店の個性になっている。

……のだが、実は料理の世界に飛び込むと決めたきっかけは、あるとき偶然前を通りかかり、予備知識なしで食事をした恵比寿『ポブイユ』で、ビストロの楽しさに目覚めたから、だそう。

王道ビストロに心惹かれ、その魅力を理解した上で、自分なりのエッセンスを効かせた『ビアード』はそんな経験から生まれているからこそ訪れる者すべてに優しい。



「柿とイチジク、リンゴのサラダ」。季節ごとの果物を使ったサラダは定番的存在



キッチンに立つのは原川さんひとり