『もっと太宰治 (太宰治がわかる本)』太宰治倶楽部 ロングセラーズ

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 先日、自身初の中編小説『火花』にて芥川賞を受賞したことで、ますます注目を集めている又吉直樹さん。その又吉さんが敬愛してやまない作家、太宰治。

 39年の生涯のなかで世に送り出した、『人間失格』『津軽』『走れメロス』をはじめとする名作の数々が語り継がれるのみならず、心中未遂、精神科への入院等、波瀾万丈な人生そのものもまた注目されることの多い太宰ですが、実際のところは如何なる人物だったのでしょうか。

 本書『もっと太宰治』に収められている、太宰にまつわるさまざまなエピソードからは、ときに従来の破天荒なイメージとは異なった、朝型人間・子煩悩といった意外な一面も浮かび上がってきます。

 また本書には、交流の深かった作家たちとのエピソードも収録。なかでも太宰と仲が良かったのは、昭和8年の秋に交遊がはじまったという檀一雄。

 玉川での入水を含め、3度の心中をはかったことのある太宰ですが、なんと檀一雄を心中に誘ったこともあるのだといいます。

「昭和十二年春のある晩のこと、ふたりは、荻窪の鰻屋に飲みにいった。そこでいいかげん酔っているのに、さらに酒一升買って、太宰のアパートで酒盛のつづき。
ぐでんぐでんに酔っぱらうと、太宰は檀に、いっしょに死のうと言いだした。(中略)今度はガス自殺しようと言う。檀も、酒で完全に思考力がマヒ。すっかりその気になって、コンロからゴム管を引き抜いてガスを出した。
それでふたりで布団にもぐり込んでいるうちに、太宰は熟睡。だが運よく、檀は寝込む前に正気にかえり、あわててガスコックを閉じたという」(本書より)

 また太宰と壇には、こんなエピソードも。昭和11年末、熱海で遊びまわった二人の財布は、気付けば空。そこで太宰は、檀を人質として宿に残し、金策のため一人東京に戻ったそう。しかし、檀がいくら待っても太宰は戻って来ず。あまりに戻ってこないため、料理屋の主人に連れられて、檀は様子を見に帰京。そして太宰を捜して井伏鱒二の家を訪れると、当の太宰本人は、縁側でのんきに将棋をさしていたのだそうです。自身の小説『走れメロス』では、主人公メロスは、人質となった親友の元へ戻ってきましたが、作者の太宰は「走る」ことはなかったのです。

 151個にも及ぶ、太宰治にまつわるエピソードの数々。そのなかには、鉄の胃袋の持ち主、虫歯だらけ、かなづち、犬嫌い......といったものも。又吉さんならずとも、その魅力に思わず惹きつけられるのではないでしょうか。