陸上自衛隊 広報チャンネルより

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 今回の安保法案で大きな注目を浴びた自衛隊。国会審議でリスクの問題が争点になるなか、自衛隊に関する様々な問題も噴出している。

 自殺率の高さ、いじめ、陰湿な退職妨害など精神的肉体的苦痛が多く、ブラック企業と化した内部事情。また安倍政権になって「人を殺すための訓練」をスタートさせ、また戦死を想定した"遺書"の強制や家族連絡カードへの記入を義務化するなど、"安保法案制定後"を想定した数々の動きも顕著化している。

 そしてもうひとつ、安保法案制定後に危惧されているのが自衛隊員の人手不足だ。戦闘地域に派兵され生命さえ危ぶまれるなか、自衛隊を希望する若者が激減するのではと指摘されるのは当然だろう。

 しかし実は自衛隊の人手不足は、既に始まっているという。これを公表したのは沖縄選出の社民党衆議院議員・照屋寛徳氏だ。照屋氏はこれまでもイラク帰還自衛隊員の自殺に関する答弁を引き出すなど自衛隊問題に造詣が深いが、最近も防衛省の内部資料を入手し、第二次安倍政権下で退職者が激増していたことを明らかにしている。

 それによると、11年度の自衛隊退職者は1万940人だったが、14年度には1万2500人。実に1500人以上も退職数が増えているのだ。

 これを報じた「フライデー」(講談社)8月7日号の記事によると、その原因として14年1月に行われた安倍首相の施政方針演説で自衛隊の海外派兵について言及したこと、また安保法案について先が読めない不安が自衛隊員のなかで蔓延していることが指摘されている。また、こうした人出不足のため、慢性的に業務多忙になり嫌気がさして辞めるという悪循環さえ起こっている。また任官拒否の防衛大卒業生も、ここ4年間で5倍に急増している。

 もちろん安保法案が成立すれば、15年度はさらなる退職者の増加があるだろう。防衛省担当記者がこう明かす。

「いや、すでに退職希望者が続出しているらしい。現場には退職者を出さないように指令が下っているので、上官が必死で引き止めを行っているようですが、もしかしたら、今年度は退職者が2万人を超える規模になるのではないか、ともいわれている」

 こうした事態に政府もなりふり構わぬ"兵隊"リクルート作戦に出ている。
 昨年7月1日、集団的自衛権が閣議決定された日以降、全国の高校生に自衛隊の採用説明会の案内が一斉に郵送され「赤紙が来た」などと大きな話題となったが、今年7月下旬から防衛省は高校・大学生に向けて「"マスメディアには出ない本当の自衛隊"を知る説明会」を大々的に開催する予定だ。

 加えて"イメージ戦略"にも躍起になっている。昨年7月からAKB48の島崎遥香が自衛官募集のCMに出演し自衛隊オフィシャルマガジンの表紙を飾ったことは大きな話題となったが、今年の自衛官募集CMにはセクシータレントの壇蜜を登場させたのだ。壇蜜は「リクルート隊長」として自衛隊の意義や魅力をアピール、またネット動画では壇蜜が各自衛隊に入隊潜入し、訓練の模様など自衛隊員の生活を紹介している。

 お堅い官庁の、特に自衛隊CMにセクシーを売りにしたタレントを登場させるのは異例でもあるが、それでホイホイ若者が自衛隊入りすると思ったら大きな間違いだ。実際、あまりに安易で若者をバカにしたような壇蜜CMに「色仕掛けで若者を戦場に送り込むな!」「壇蜜は護憲だったはずでは」などと批判が殺到したという。

 おそらく、このテの表面的なPR作戦をやったところで、これからも、自衛隊志願者は減り続けるだろう。

 そこで、安倍政権が着々と布石をうっているのが、先日、山本太郎も国会で追及していた経済的徴兵制度だ。安倍首相は安保法制を通すために、「徴兵制は憲法違反にあたるのでありえない」「集団的自衛権と徴兵制は関係がない」と打ち消しに躍起だが、その一方で、貧困層を狙って自衛隊に入隊させるという作戦をとり始めているのだ。

 たとえば、前述した高校生への採用案内でも経済的メリットがやたら強調されていた。地域によって内容は異なるが、隊舎では家賃はもちろん、食費、光熱費、水道料金といった生活費がすべて無料であることや、入隊10年後の月収が自衛官候補生なら約34万円、一般幹部候補生なら約38万円になることといった宣伝文句が展開された。

 また、安倍内閣で一二を争うタカ派閣僚文科相の諮問機関「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」で、有識者メンバーの前原金一・経済同友会専務理事が奨学金の延滞者対策の必要性を主張したうえで、こう発言したのだ。

「前も提言したのですが、現業を持っている警察庁とか、消防庁とか、防衛省などに頼んで、1年とか2年のインターンシップをやってもらえば、就職というのはかなりよくなる。防衛省は、考えてもいいと言っています」

 つまり、防衛省は奨学金延滞者のインターンシップを前向きに検討し始めているということらしい。

 また、自衛隊は幹部候補生になるという条件と引き換えに大学3・4年生および大学院生に毎月5万4000円を貸与する制度も設けている。しかも、貸与を受けた期間の1.5倍以上所属すると返還しなくてもいいというおまけ付きだ。
 
 ようするに、安倍政権は格差助長政策によって、貧困層をつくりだす一方、その貧困層を自衛隊に引き込み、戦場に送り出そうとしているのだ。これはある意味、本当の徴兵制よりももっとグロテスクな制度というべきだろう。なぜなら、「国民が自分の国を守るのは義務だ」といいながら、実際は富める者はその義務を負わず、経済的弱者にだけリスク押し付けることになるからだ。

 実際、米軍をはじめ、徴兵制を廃止した先進国の軍隊はほとんどがそういった歪んだ状況におちいっている。

 たとえば、イラク戦争が泥沼化した2005年、米国では今回の自衛隊と同様、公立高校から入手した名簿をもとに、貧困層への狙い撃ちが行われ、社会問題になった。

 当時、朝日新聞がこの問題を特集しているが、そのなかで新兵募集の反対運動に取り組む非暴力資料センターのボブ・フィッチ氏が、こんなコメントをしている。

〈ブッシュ大統領は昨年の選挙で「徴兵制は導入しない」と約束した。「皆さんの子どもは戦場に送らない」という中産階級に向けたメッセージだったと思う。
 だれが戦争に行くのか。状況を一番よく言い表す言葉は「貧乏人の徴兵制」だ。進学や就職などの選択肢がなく、金と仕事に困っている若者が標的になる。
 予算を人質に学校から個人情報を入手して電話をかけまくる。ビジネスのマーケティングと同じだ。学費補助にしても、受けるには条件がいろいろある。明らかなウソはつかないが、誤解させる。〉(2005年8月12日付朝刊)

 集団的自衛権を容認によって米国の属国化をさらに推し進めた安倍政権は、自衛隊のリクルートでも米国とそっくり同じ道を歩もうとしている。
(野尻民夫)