「飯伏幸太に憧れながら、大家健にも…」ガンバレ☆プロレスが熱狂的に愛されるワケ
「私たちはこの世の夢を人の形にしたような飯伏幸太に憧れながら、人の弱さをそのまま具現化したような大家健にも心揺さぶられてしまう」

 6月28日、DDTプロレスリング後楽園ホール大会にて、ガンバレ☆プロレス代表の大家健がKO-D王座のチャンピオンベルトを巻いた。……が、10分で奪還された。その日の夜、Facebookに投稿された記事である。大家に心揺さぶられる、大家は私自身だと、その人は書いた。

 ガンバレ☆プロレス、略してガンプロ。2013年2月、DDT系列ユニオンプロレスを追放されたレスラー大家健が、資金1万5000円で旗揚げした。ガンプロの興行は月1回、主にキャパ150人のライブハウスの地下で行われている。興行の終わりには“集会”が開かれる。

 大家が叫ぶ。「俺たちの力でプロレスをもう一度メジャースポーツにする!」――。レスラーたちと観客が呼応して叫ぶ。「そうだ、大家!」「やれ!」「大家!」「大家さん!」――。会場は異様な熱気と一体感に包まれる。

 大家健の愛され方はカリスマ的だ。DDT高木三四郎社長曰く、「ガンプロは大家健一座。大家健はヒューマンドラマを絵に描いたような男」。ガンプロには大家を慕う人びとが集まっている。そのうちの一人が、パートナーである今成夢人だ。

 DDT映像班の中核の一人。映画『プロレスキャノンボール』で助監督を務めた。舞台挨拶では見るからに“スタイリッシュなクリエイター”だった今成が、ガンプロの興行では鼻水垂らして泣きじゃくっている。「全然スタイリッシュじゃないんですよ。そうじゃないことへのコンプレックスの塊でした」と今成は言う。

 美大の卒業制作で撮った映画のタイトルは、『ガクセイプロレスラー』。自身が4年間、学生プロレスに捧げたリアルな学生生活をドキュメンタリーで描いた。この映画が、バンクーバー国際映画祭、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭など名だたる映画祭に出品され、イメージフォーラム・フェスティバル2010で観客賞を受賞した。

「いまガンプロに出場しているレスラーで、当時学プロで一緒だった冨永真一郎の冴えない日常を追いました。風俗ばっかり行って、内定も単位もなにもない。でも学プロがある、という。学生プロレスをテーマにしたのは、美大のキラキラした生活よりも、学プロのボンクラたちといるほうが自分にとっては楽しかった、俺たちの生き方があるんだと、持ち直そうとしたからなんです」

『ガクセイプロレスラー』のフィルムを見せてもらった。……最高だ。プロレスはなんて素晴らしい。全裸になった学生レスラーの男性器がカウント2で勃ち上がるシーンなど、前衛芸術の域である。この頃の鬱屈とした思いが、現在の今成の礎になっているのだろう。

⇒【YouTube】ガクセイプロレスラー垂直落下式学園生活 予告編 https://www.youtube.com/watch?v=j7PbE-Xz5Ns

 大学卒業後、大手テレビ局に入社するも、8か月で退職する。DDTの映像班に入ったのが、ちょうどDDTが急成長を遂げる2011年。人手不足で、曰く“ボロ雑巾”のように働く日々だった。2013年2月、ガンプロのプレ旗揚げで映像スタッフだった今成を、レスラーが奇襲した。

「殴っても向かってこない人間だと思われたんだろうと思います。ムシケラみたいにボコボコにされました。でも生きてる心地がしたんです。悔しい、もっとこうしたいという気持ちをやっと口にできて、ダイレクトに人に伝えることができた。ガンプロでは、さらけだせることが強いんです。美大でコンプレックスを感じながら、汗臭い卒業制作を作ったときと同じ心境です」

 さらけだし、時には泣き喚く。いまブームとされている“イケメンレスラー”“高度な技術”が特徴のプロレスとはまた違ったプロレス像だ。

「僕たちは、上司に怒られて悔しいとか、仕事がうまくいかないとか、燻った気持ちをガンプロのリングで昇華させています。なのでお客さんにも、それぞれの日常目線で見てほしいんです。プロレスの醍醐味は、非日常を味わえることでもあるんですが、そこでワーキャーするのとはべつに、自分自身に投げ返して見てほしい。現実離れしたレスラーではなく、不器用で人間臭い大家さんが頑張ってKO-Dチャンピオンになった。じゃあ、自分は?と、考えるフックがガンプロにはたくさんあるんです」

 7月27日、「ガンバレ☆プロレスビアガーデン」が開催された。場所は、市ヶ谷にある南海記念診療所のビル1階。8畳ほどの部屋にリングはなく、青いマットが敷いてあるだけだ。そこを80人の観客が囲む。挫折を経てガンプロに辿り着いたレスラーたちが、剥き出しの感情をぶつけ合う。あまりの熱量と一体感に思わず選手の名前を叫んだ。けれどすぐ、周りの声に掻き消された。他人の目ばかり気にしている自分。べつに気にすることなんてないのかもしれない。みんな自分の声を出すことに精一杯なのだから。

 冒頭のFacebook記事を書いたのは、新宿区上落合にある伊野尾書店の店長・伊野尾宏之さん。伊野尾書店でかつて、DDT高木社長と飯伏幸太が“本屋プロレス”を行った。伊野尾さんはDDTを長く応援している。ガンプロも旗揚げ当初から見てきた。

「大家、がんばれ。がんばってくれ。

あなたは私だ。世界の中で何もできずに、でも何かできるんじゃないかともがいている私だ。周りを見渡してしまい、あいつすごい、こいつもすごい、でも俺は何やってるんだろう…と思ってしまう私だ。自分の弱さを直視できずに、大きな声を出したり、他人に当たることで心の穴を埋めようとする、悲しく弱い私そのものだ。

だからがんばってくれ、大家。リングに立つ限り、あなたの人生はあなただけのものではない。ガンバレ大家。次は10分ではなく、せめて一日はチャンピオンでいられるように」

<取材・文・撮影/尾崎ムギ子>

●ガンバレ☆プロレス「knockin’on your door 2015」
開催日:8月29日(土)開場 17:30 試合開始18:00

会場:東京都 王子Basement MON☆STAR
チケット:立ち見・自由席3,500円(当日500円UP) 当日別途ドリンク代500円
チケット予約・問い合わせ:1600.sekigahara@ezweb.ne.jp(代表:大家健)

●ガンバレ☆プロレス「BAD COMMUNICATION2015」
開催日:9月23日(水・祝)開場 17:00 試合開始18:00

会場:東京都 新宿FACE
チケット:(前売り)スーパーシート5,000円、カウンター席5,000円、指定席4,000円(当日)+別途ドリンク代500円

チケット発売:7月28日(火)より、チケットぴあ・ローソンチケット(Lコード36713)・e+等チケットサイトで発売中