10月にも予定される日本郵政グループ3社の大型IPO(新規上場)。日本郵政の株式は政府が100%、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式は日本郵政が100%保有する関係にある。政府保有株の放出としては、1987年に上場したNTT株、1998年上場のNTTドコモ株に続く大型案件とされ、市場からの調達額は3社合計で1兆〜2兆円規模に上ると見られる。

「今回の巨額IPOによって個人投資家が65万人誕生するといわれている。市場に与える影響は絶大だ」

 そう証券会社幹部が興奮するのも無理はないだろう。バブル真っ只中に上場したNTT株は日本経済に強烈なインパクトをもたらした。民営化企業の初上場ということもあり、1986年11月17〜26日の申し込み期間中には、165万株の売り出しに対して1058万件の申し込みがあった。何としても手に入れたくて一族の名前を借りまくって申し込んだ人や、証券会社の営業マンに泣きつく人まで出現した。

 翌1987年2月9日に東証に上場すると、買い注文が殺到して初日は値がつかないまま取引を終え、翌日の取引終了間際にようやくついた初値は、売り出し価格119万7000円を約40万円上回る160万円だった。その後も騰勢は加速し、4月22日には318万円の高値を記録。

「申し込み抽選で当たった投資家はわずか2か月余りで資産を2.5倍以上に増やした。まさに“濡れ手で粟”でした」(当時を知る証券マン)

 このフィーバーでNTT株長者が続々と誕生した。「新車を買った」「マンション購入の頭金にした」といった話が世に溢れ、それを聞きつけた主婦が次々と証券会社の店頭を訪れる姿も見られた。当時の熱狂を知る日経CNBCコメンテーターの平野憲一氏(ケイ・アセット代表)が述懐する。

「株をまったくやったことのない主婦が『隣の奥さんがNTT株で儲けたそうなんですけど、私も儲けさせてください』と証券会社の窓口に殺到していました」

 当時、165万株のNTT株に群がった個人投資家の約3割は株式投資の初心者だったといわれる。

「とにかくNTT株を買えば儲かるという伝説をみんなが信じ込み、大勢のビギナーが買いに走った。NTTの上場は国家的事業であり、売り出す証券会社も煽りに煽った。官民一体となって神輿を担いだわけです」(株式評論家の植木靖男氏)

 しかし、そんな“祭り”はいつまでも続かなかった。1987年10月には米国発のブラックマンデーによって世界同時暴落に見舞われ、NTT株も急落。最高値から半年後の悲劇に、「300万円台で高値掴みをして、泣く泣く200万円台で損切りした人も続出した。『まだ上がるはず』と信じて売るに売れず、塩漬けになった人もたくさんいる」(前出・証券マン)という。

 そうして多くの日本人が株の魅力と恐怖を実感した。日刊株式経済新聞の冨田康夫・編集長が「NTT株で株式投資を始めたという個人投資家は多く、それによる株ブームが1989年末を天井としたバブル相場につながった」と指摘するように、NTT株は単なる「株」というより、日本の「一般投資家」を誕生させるメルクマールになったことは間違いない。

※週刊ポスト2015年8月14日号