大苦戦を強いられた日韓戦で意地の同点弾…山口蛍が示した前回MVPの存在感

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文=元川悦子

「韓国は今大会で最も強いチーム。フィジカル面も韓国の選手たちはかなり整っている」とヴァイッド・ハリルホジッチ監督が絶賛した通り、5日に対峙した宿敵・韓国は非常に攻めの迫力があるチームだった。

 序盤25〜30分は一方的な韓国ペース。森重真人(FC東京)と槙野智章(浦和レッズ)の両センターバックが2人がかりで196cmの長身FWキム・シンウク(蔚山現代)をうまく抑えていたが、繰り返しクロスを入れられれば、どこかで破たんが生じる。案の定、前半25分に右FWイ・ヨンジェ(V・ファーレン長崎)のクロスに反応しようとしたキム・ミヌ(サガン鳥栖)を防ごうとした森重がペナルティエリア内でハンドを取られ、PKを与えてしまう。これをチャン・ヒョンス(広州富力)が確実に沈め、日本はいきなりのビハインドを背負った。

 この時間帯は中盤もなかなか落ち着かなかった。この日は代表デビューの藤田直之(鳥栖)がアンカー気味に入り、インサイドハーフに柴崎岳(鹿島アントラーズ)と山口蛍(セレッソ大阪)が並ぶ逆三角形の形だったが、藤田が相手トップ下のチュ・セジョン(8番)をマンマーク気味につくように指示されたことで、スペースが生まれ、そこを韓国に使われる悪循環に陥ったのだ。「FWにデカい選手がいたからそこに放り込んでくることは予想してましたけど、それ以上に全体的なマークの受け渡しがハッキリしていなかった。ナオさん(藤田)がずっと8番についとけって言われて、僕の後ろくらいまで来てもついてたから、ボランチの空いたスペースを使われた。そこを修正するまでは難しかった」と山口も振り返る。

 その悪い流れを断ち切る最大の原動力なったのが、彼自身が叩き出した同点弾だ。柴崎のFKの流れから左サイドの倉田秋(ガンバ大阪)がタメを作り、中央にパスしたところに走りこんだ背番号16は目の覚めるようなミドル弾を決め、試合を振り出しに戻す。山口にとっては代表19試合目の初ゴール。2014年ブラジル・ワールドカップ全試合に出場したダイナモも意地の一発だった。

 これを境に日本のリズムもガラリと変わった。「監督も『ミドルシュートはどんどん狙っていけ』と言っていたし、秋君がよく見てくれたんで。秋君とはセレッソでやってるからお互いにやりやすさもあった。タメも作れるし、なおかつ上下に走れるからすごくいいアクセントになっていたと思います」と山口が言えば、お膳立てした倉田の方も「細かいところを崩していくのが自分の特徴。蛍とはセレッソでやってたしね。あのシュートはホンマすごかった。蛍を褒めたい」とかつて同じクラブで戦った後輩の一撃を賞賛した。

 彼らのホットラインが日本攻撃陣の1つの軸になったのは確かだ。前半終了間際も後半も何度かチャンスはあった。だからこそ追加点を奪いたかったが、それは叶わなかった。結果は1−1のドロー。日本の東アジアカップ連覇の夢が早くも断たれた。2年前の韓国大会MVPの山口にしてみれば、この結果はやはり納得できないだろう。

「前回MVP? 周りからそういう見方をされるから、もっとやんなくちゃいけないとは思いますけど、僕としては前回MVPに値するプレーをしたとは思ってない。そのことは気にしてないし、とにかく今やれることを精一杯やろうと思うだけです。今回の韓国戦は相手が強い中、前の試合から改善されたことも沢山あるし、自分たちができたこともあった。少しは前向きに捉えたいなと。僕自身も前目のポジションで使われたからゴールという結果が欲しかった。代表ではずっと点を取ってなかったですしね」と彼は悔しさを押し殺しながら、努めて前向きにチームと自分自身のパフォーマンスを振り返っていた。

 とはいえ、日本が勝利に手が届いていないのも事実。ハリルホジッチ監督就任後、公式戦ではまだ1勝もしていない。その関門を突破するためにも、9日の最終戦・中国戦では得点力アップの方策を何とか探っていくしかない。そのあたりは山口自身も強く認識しているところだという。

「ドリブルから仕掛けて打つとか、もう少し思い切りのよさが必要ですね。今回もシュート打てるシーンとかでもドリブルしたり、切り返しをしたりする場面があったから。もちろん長い間、コンビネーションを作ってきているわけではないんで難しさはありますけど、できることはあると思うので」

 確かに韓国戦の日本代表は浅野拓磨(サンフレッチェ広島)がシュートできる場面でキープしたりと消極的な場面が目についた。ラストの中国戦では同じミスを繰り返してはならない。中盤のリーダーの1人である山口には、今こそしっかりとチームをけん引してほしいものだ。