上海証券取引所は開業してから四半世紀しか経っていない【撮影/大橋史彦】

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2006年に中国に移住し、蘇州、北京、広州、そして08年からは上海に在住。情報誌の編集長を経て現在はフリーランスとして活躍する大橋さんの中国レポート。中国株暴落が騒がれるなか、大橋さんが出会った中国人個人投資家。夫婦そろって年金受給者という、質素な生活を送る男性の投資体験とは?

 某週刊誌からの依頼で個人投資家5人を取材したが、原稿に使用されたのは2人だけだった。

 大きな損失を被った投資家にスポットが当てられるのは、この世界では当然のことではあるが、私はむしろ、取り上げられることのなかった1人の男性に惹かれるものがあった。メディアに登場する“いわゆる個人投資家”とは一線を画すタイプだったからだ。

エアコンのない部屋に生活

 エレベーターのない6階建て団地の3階の自宅を訪れると、リビングにはエアコンもなかった。その質素な生活ぶりからは、“投資家”という言葉がイメージできない。

 迎え入れてくれた黄さん(仮名)は58歳だが、すでに年金生活者だった。手術を受けたことがあるほど心臓が悪く、機械工の仕事を早期退職していた。妻もすでに定年退職し、夫婦そろって年金受給者である。

 株式投資について話を聞きたいと申し出ると、黄さんはおもむろに箱を持ち出し、大事そうにしまわれた紙切れを取り出した。そこには、「1992年 股票認購証」と記載されている。つまり新株予約権だ。

 上海証券取引所が開業したのは1990年末。開業当初は上場企業の数も少なく、抽選に当たらなければ株券を購入できなかった。ところが予約券は無料だったため、希望者は殺到した。そこで当局は、予約券を有料にすることにした。それが股票認購証なのだ。

 認購証は1枚30元(当時のレートで約690円)で売り出された。黄さんの月給が50元だったそうなので、相当な高額だ。有効期限は1年で、抽選に当選すると株券を手にすることができたが、外れても30元が戻ってくることはない。

 当選率はそれほど低くなかったというが、銘柄は指定できないし、株価の分析が入り込む余地もない。中国株は、その創成期から博打性が高かった。当局の発表では、認購証の売上は福祉団体に寄付することになっていたという。まるで宝くじだ。

 黄さんは持っていた1枚が当たり、百貨店の株券を獲得。なんと7200元(約16万5000円)という大金を手にした。

 翌年も認購証を購入したが、1枚2元(約46円)まで下がっていた。当時から当局の試行錯誤ぶりがうかがえる。当然、購入者は増え、当選率は低下。黄さんも当選することはなかったという。

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