日本代表は、なぜロングボールを簡単に上げられてしまうのか

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文=川本梅花

 中国の武漢で開催されているEAFF東アジアカップ2015。日本代表は、8月5日、今大会2試合目として韓国代表と戦う。おそらく日本は、北朝鮮戦とは全く違ったスターティングメンバーで構成してくる。韓国は、今大会初戦で日本に勝利した北朝鮮代表のように「ロングボールをフォワードに放り込む」という戦い方はしてこない。さらに、ワールドカップアジア予選で日本と引き分けたシンガポール代表のように「自陣に深く退いて守る」という戦い方もしてこない。アジアの代表チームの中で、韓国代表はシンガポール代表とも北朝鮮代表とも違うサッカーを行ってくる。

 韓国戦を前にして、日本の北朝鮮との戦いを整理してみたい。そうすることで、日本代表が置かれて現実が見えてくるに違いないからだ。

 日本代表は、8月2日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表との初戦を1−2で敗れて、今大会黒星スタートとなった。この敗戦には、いろいろなエクスキューズがつけられる。そして、敗戦には敗れるだけの理屈がともなう。つまり、日本代表が敗れるのにはそれなりの理由があるのだ。考えられる理由のいくつかを挙げてみよう。

[1]Jリーグの試合と今大会の日程が過密なので選手のフィジカルの調整が不足だった。
[2]代表としての全体練習をする時間が少なすぎて、選手に戦術的指導をする時間が不足していた。
[3]招集した選手の中に怪我人がいたため、予定したスタメンが組めない状態になって人材の不足が起った。
[4]気温の高い地域での試合のために、選手のコンディションが不調になった。

 さらに、次のような理由も挙げられることができる。

[1]海外組と呼ばれる選手たちを招集できなかったので、監督の戦術を理解している選手が少なかった。
[2]代表に選ばれていなかった選手や若手の選手中心で臨む予定だったので、ベテランと言われる選手、たとえば遠藤保仁や豊田陽平などを呼ばなかった。
[3]決定的な得点チャンスは何度も作ったのだが、いつものように攻撃陣の決定力不足に泣かされた。

 日本が敗れた理由はいくらでも考えられる。だか、少しだけ考えてもらいたい。これらの理由が本当に日本の敗戦を語っている理由になるのかどうかということだ。本当の理由は、もっと根本的なもので致命的なものなのではないのか、と、この試合を観て筆者は懐疑した。

 そこで、最も疑問に感じたことを中心に述べていこう。

ハリルホジッチ監督が宇佐美の交代を選択した場面

 日本のシステムは、[4−2−3−1]で川又堅碁がワントップを務める。トップ下には武藤雄樹、右サイドハーフに永井謙佑、右サイドバックは遠藤航、左サイドバックに藤春廣輝、センターハーフは谷口彰悟というフレッシュな顔ぶれを並べた。ゴールキーパーの西川周作をはじめにして、センターバック、センターハーフ、サイドハーフには馴染みの顔ぶれを配置する。Jリーグの試合を視察して、今のコンディションを配慮した監督が考える初戦のためのメンバーだろう。選手の組み合わせには疑問をもった点もあったが、実際に、北朝鮮の激しい守備に耐えきれなかった選手もいたので、監督にとっては国際大会などの実戦で使える選手の一定の基準となった試合でもある。

 55分に宇佐美貴史に替えて柴崎岳を投入したシーンがあった。この交代をハリルホジッチ監督に決断させたきっかけは、おそらく52分の場面にあった。韓国のコーナーキックのボールを日本はクリアする。ボールは右サイドバックのシム・ヒョンジンに渡る。シムはセンターバックのリ・ヨンチョルにボールを下げる。宇佐美はそのボールを追いかける。となりにいるセンターハーフのリ・チョルミョンにパスを出す素振りをして、宇佐美を自分に引き付けてから、パスをくれたシムにボールを戻す。この時点で、シムは前を向いてフリーの状態でボールを受けられる。

 この場面で問題なのは、谷口のポジショニングである。誰もプレスに来ないので、シムは、余裕をもってロングボールをフォワード目がけて放り込むことができる。前線に送られたボールは、背番号11番のチョン・イルグァンのヘディングによって危なく得点を与えるところだった。

 日本のシステムは[4−2−3−1]。北朝鮮のシステムは[4−4−2]で中盤がボックス型を採用していた。谷口の背中にはフォワードの影があって、前方にはセンターハーフがいる。また、左サイドハーフの動きも気になって、どっちつかずのポジショニングになっていた。しかし、この前述した場面では、左のセンターハーフにいる谷口がシムへプレスに行かないとならない場面だった。

 ここで、監督は考えたに違いない。

 ――日本の左サイドを起点にして北朝鮮は攻撃をしかけている。だから、得点力のある宇佐美を下げても、左サイドからの攻撃を止めないとならない。そのためには、柴崎を投入してシステムを[4−3−3]の中盤を逆三角形にする。谷口にアンカーのような役割をさせて、前にいる2人にはサイドをケアさせよう。

 おそらく、こうした思考の行き来があって、宇佐美の交代とシステムの変更に繋がったのではなかろうか。

■監督が意図を伝えられないのか、選手が意図を理解できないのか

 この試合をスタジアムで観られた人は、よくわかったに違いない。なにがよくわかったのかと言えば、選手の動きがまったくバラバラだったということだ。テレビで観戦していても、それぞれのポジションがあってないような動きをして、決まった約束事などないに等しいプレーだった。

 試合中に、監督がやれることは限られている。やれることの最大にして最上位の手段が、選手交代と戦術変更の二つである。ハリルホジッチ監督は、選手交代もしたし戦術変更もした。しかし、監督の意図が選手に伝わっているようには見受けられない。1−0で守り切る試合をしようとしたが、同点にされたので逆転を狙って浅野拓磨をピッチに送り込む。しかし、浅野が活かされるボールの運びは見られない。日本だって、中盤を飛ばして浅野の速さを活かすために、ロングボールをディフェンスの裏に放り込んだってかまわない。だが、誰が投入されようが、状況によって試合のテンポを変える1本のパスも見られない。

 65分に長身の背番号20パク・ヒョンイルが投入されると、北朝鮮はよりいっそうロングボールを放り込んできた。日本の失点は、すべてフォワードへの放り込みからもたらされている。ここで最も問題なのは、高さとフィジカルで日本の選手が劣っていたという点ではなく、ロングボールを簡単に上げさせてしまっていたことだ。誰からもプレッシャーを受けずにフリーで前を向けてボールを蹴れたなら、フォワードの頭を狙ったパスを出すことができる。

 日本が今までやってきたことは、高さやフィジカルでは劣ってしまう部分を、頭を使って組織的に、なおかつテクニックをもって対峙していこうということだったのではないか。つまり、パスを出す選手に対してフリーで前を向かせないために、コンパクトに陣形を保って連動したプレスで相手の自由にはさせないという戦い方をしてきたはずだ。しかし、北朝鮮戦の日本代表には、もはやその面影さえ見ることができなかった。

 これは、ハリルホジッチ監督が、サッカー日本代表を再構築するための道程なのだと理解して、韓国戦を見ることにしよう。