図1:60歳時(定年直前)の預金額

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年金が頼りの貧乏ジイさんと、貯蓄たっぷりの金持ちジイさんは、現役時代のいつ、どこで差がついたのだろうか。

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▼「金持ちジイさん」「貧乏ジイさん」の定義
老後の生活を年金だけで支えるのは難しい。余裕のある老後を送るためには、定年までに3000万円の貯蓄が必要と言われる。そこで、楽天リサーチの協力を得て、都市部に住む定年退職した60〜65歳の男性300人を対象に、リタイア前のお金と生活についてのアンケート調査を実施。この記事では調査の結果から、60歳時点の預金額3000万円以上の人を「金持ちジイさん」、1000万〜2999万円の人を「中流ジイさん」、1000万円未満の人を「貧乏ジイさん」と定義する。調査期間は2013年8月20〜23日。

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■リタイア世代の7割がお金に不安を抱えている

定年を迎えるまでに貯めておきたい額は3000万円と言われている。ただ、リタイア時点で3000万円を貯められている人は意外に少ない。プレジデント誌のアンケートで60歳時点での預金額を尋ねたところ、3000万円以上と答えた人は29.0%にすぎなかった。

一方、老後が盤石と言えない預金額1000万〜2999万円の人は29.7%、年金頼りの生活になる預金額1000万円以下の人たちは41.3%いた(図1)。リタイアした人の約7割が、お金に不安を抱えたまま老後に突入しているのだ。

老後に備えてお金を貯められる人と貯められない人では、いつ、どのように差がついたのか。それがわかれば、これから老後に備える現役世代の参考になるはずだ。そこで、60歳時点の預金額によって「金持ちジイさん」「中流ジイさん」「貧乏ジイさん」に分け、それぞれのお金の貯め方や使い方について、家計の見直し相談センターの藤川太氏に分析してもらった。

まず注目したいのは、預金額の推移だ。30歳時点での預金額を比べると、貧乏ジイさんでは「100万円未満」と回答した人が43.5%と最も多く、金持ちジイさんでは「1000万〜1499万円」が26.4%で最多だった。すでにこの時点で差がついているが、その後も貧乏ジイさんの預金額が伸び悩むのに対して、金持ちジイさんは年齢とともに順調に増える(図2)。

年収の推移にも似た傾向が見られる。年収の場合、30歳時点では各ジイさんとも「300万〜499万円」が最多で、目立った差はない。ただ、その後は金持ちジイさんほど急激に増えていく(図3)。藤川氏は、この傾向を次のように解説する。

「一般的な会社では、出世する人なのか、頭打ちになる人なのか、35歳前後で選別が終わります。年収の差が開き始めるのは40代から。それがそのまま老後資金の形成のしやすさにつながっているように見えます」

金持ちジイさんと貧乏ジイさんでは、学歴も異なる。金持ちジイさんは大卒・院卒が79.3%を占めるが、中流ジイさんは76.4%、貧乏ジイさんは56.5%で、60歳時点での預金額が少ない人ほど学歴も低い(図4)。

転職についてはどうか。定年まで同じ会社に勤めあげた人は、金持ちジイさんでは56.3%を占めたが、貧乏ジイさんでは35.5%と少なめ。逆に転職回数が3回以上の人は、金持ちジイさんでは8.0%にすぎなかったが、貧乏ジイさんでは30.6%に達した(図5)。どうやら転職回数と預金額は逆相関の関係にあるようだ。

「外資系を渡り歩くエリートをイメージして“転職イコール年収増”ととらえる人もいますが、実際に転職でステップアップできる人は一握り。たいていは転職のたびにそれまでのキャリアが白紙に戻り、年収も下がります。それを考えると、転職が少ない人のほうが資産形成しやすいのは当然です」

転職は、退職金の額にも影響を与える。金持ちジイさんのうち、退職金が1000万円に満たない人(退職金なしを含む)の割合は5.6%にすぎないが、中流ジイさんは23.5%、貧乏ジイさんは42.0%にのぼる(図6)。中流・貧乏ジイさんほど退職金が低い人が多くなるのは、転職回数が多く、そのたびに勤続年数がリセットされるからだろう。

定年前にやっていた資産運用については、意外な結果が出た。高利回りが期待できるリスク商品で運用する人ほど資産が増え、逆に低利回りの安全な商品で運用する人ほどお金が貯まりにくいのかと思いきや、実際はリスクの程度に関係なく、どの運用方法についても、金持ちジイさんが中流・貧乏ジイさんを上回った(図7−1)。

「お金を貯める王道の方法は、毎月の給与から天引きして積み立てることです。お金を貯められるのは、こうしたあたりまえのことをコツコツやれるタイプ。金持ちジイさんに、財形や定期預金などの堅実な方法で運用してきた人が多いのは納得です」

金持ちジイさんが堅実派だとしたら、なぜ株や投信、外貨預金などのリスク商品で運用している人も多いのか。藤川氏は、その疑問にこう答える。

「銀行が放っておかないからです。預金が3000万円あれば、『眠らせておくのはもったいない』と電話がかかってきます。金持ちジイさんになる人は、コツコツと貯蓄しつつ、一部をリスク商品に振り分けるのです」

資産運用の開始年齢は早いほどいい。40歳未満で運用を始めた人は金持ちジイさんで61.5%、中流ジイさん64.4%だが、貧乏ジイさんは46.8%で半数を切った(図7−3)。

「実はほとんどの人は運用で失敗します。実際、リーマンショックの損失をまだ取り返せていない人がほとんど。ただ、どうせ失敗するなら若いうちのほうがいい。若いうちは運用額が小さく、勉強料としての損失額も小さくて済みます。そうやって経験を積むことでコツをつかみ、ようやく運用で利益をあげられるようになっていく」

■「若いうちからコツコツ」が金持ちジイさんへの近道

金持ちジイさんは、老後を意識して貯蓄を開始した年齢も早かった。40代前半までに始めた人は、金持ちジイさんで34.4%、中流ジイさんで21.4%、貧乏ジイさんで16.9%と、預金が多いグループほど若いうちから老後資金を準備していた(図8)。

「老後資金を貯めるパターンは2つあります。1つは、若いうちからコツコツと貯蓄。もう1つは、教育費、住宅ローンという2大ハードルを跳び終えてから定年までの短期間に貯めるやり方です。場合によっては後者もありですが、教育費と住宅ローンが終わったところですぐ定年を迎えて、老後資金を貯められなかった人も多い。できるなら若いうちから、教育費や住宅ローンと並行して貯めたいところです」

教育費や住宅ローンのハードルをいつ跳び終えるのか。それは結婚や出産などのライフイベントとも深く関わっている。

(文=村上 敬 図版作成=ライヴ・アート)