「SWITCH」Vol.22 No.10(スイッチ・パブリッシング、2004年)

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 今月7日に翁長雄志・沖縄県知事と会談することが決定した安倍晋三首相。安保法制の強行採決で明らかになった「国民無視」の姿勢を少しでも挽回しようという目論見らしいが、会談を控えたいま、沖縄の基地問題をめぐって、ある夫婦がバトルの様相を見せている。

 その夫婦とは、内田裕也樹木希林夫妻。昨日2日、内田がTwitterにこんな投稿をした。

〈オキナワの基地問題は本当に難しい!『安保条約』によって、米銀基地によって、日本は守られてきた。KKさん、軽々しい発言はヤメロー!JOKEではすまされない。祈る 正論!ROCK'N ROLL! 内田裕也〉(原文ママ)

 内田がイニシャルで名指ししている「KKさん」とは、明らかに樹木希林のこと。というのも、樹木は7月30日に辺野古の新基地建設を反対する人びとが集うキャンプ・シュワブのゲート前に現れ、大きなニュースになったばかり。このことに対して、夫・内田裕也は反応したのだろう。

 それにしても、「ロケンロー!」「ラブ&ピース」が決め台詞で、ジョン・レノンの「パワー・トゥー・ザ・ピープル」を十八番にする内田が"日本は米軍基地によって守られてきた"と言い出すなんて、「あれ? ロックンローラーじゃなかったの?」という気がする。

 そもそも内田裕也は、若いころから"反体制"を謳ってきた人物である。ベトナム反戦運動の高まりから生まれた伝説のロックフェス・ウッドストックにも多大な影響を受け、1974年には日本初の大規模ロックフェスとなったワンステップフェスティバルをプロデュースしたし、反体制を貫いた映画監督・若松孝二の作品にも多数主演してきた。さらに、昨年の終戦記念日にはTwitterでこうもつぶやいている。

〈69回目の終戦記念日を迎えた!310万人の人が亡くなった!若者は戦争のあったこと、戦争の悲惨さを知らない。SMAP、嵐、関ジャニ∞、AKB48、ももいろクローバーZ、きゃりーぱみゅぱみゅ、日本の人気者達、戦争のヤバさを一回くらい歌ってくれ!〉

 体制に唾を吐き、"愛と平和"を口癖にし、「民衆に力を!」と高らかに宣言する歌を歌ってきた内田が、政府に虐げられ、この地に平和をと声をあげている沖縄に"基地移設は正論"と言う......。これではロックンローラーの名が廃るというものだ。

 他方、そのロックンローラーの妻・樹木希林は、逆に夫よりもずっとロケンローしている。

 今回、樹木は東海テレビ制作のドキュメンタリー番組の収録のために辺野古を訪れたというが、彼女は事務所にマネージャーも置かず、自分自身で仕事を選び、現場に趣くのは有名な話だ。しかも、今回収録した番組と思しき『戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅』(6回シリーズ/沖縄をテーマにするのは8月15日放送分)のHPによれば、その番組は沖縄戦にスポットを当てたもので、平和祈念公園の「平和の礎」を訪れる予定だとある。これまでの樹木の行動力を考えると、今回、樹木は、スタッフも想定していなかった辺野古行きを自らの意志で決めた可能性も高いのではないだろうか。

 その日、辺野古のキャンプ・シュワブ前を訪れた樹木は、炎天下のなか基地移設反対を叫ぶ人びとの言葉に耳を傾けた。そして、座り込み運動をつづける86歳のおばあ、島袋文子さんの隣に座り、「沖縄戦から辺野古問題までを熱く語」った島袋さんの手を握り、「辺野古問題を俳優仲間に広める」と応えたという(「News Watch」記事より)。

 樹木が熱い握手を交わした島袋さんは、今年の春、「女性自身」(光文社)の取材にこう話している。

「もし本土の人が沖縄は米軍部隊がいるから生活できているんでしょう、という感覚をいまだに持っているとしたら、それは大きな間違いです」

 本土の人間として米軍基地は必要だと沖縄の痛みも無視して言う内田裕也と、権力に抵抗する人びとを元気づけ、表現者として沖縄の声を届けようとする樹木希林。そう考えると、樹木のほうが圧倒的に「ラブ&ピース」で「ロケンロー」だ。
(水井多賀子)