9月から10月にイングランドで開催されるワールドカップ(W杯)を控えるラグビー日本代表(世界ランキング13位)はパシフィック・ネーションズカップ(PNC)に参戦している。7月29日、カナダ・トロントで同10位と格上のフィジー代表と相まみえた。前半途中まで9−0でリードしたものの、22−27で惜敗した。

 W杯まで残り50日を切った。日本代表は初めて、南半球のプロリーグ「スーパーラグビー」を経験した8選手がスターターに顔を揃える"最強の布陣"を敷いた。特に、優勝2回のチーフスで主軸として活躍したFL(フランカー)リーチ マイケル主将、ハイランダーズの初優勝に貢献したSH(スクラムハーフ)田中史朗、レッズで持ち前の突破力を見せていたNO8(ナンバーエイト)ツイ ヘンドリックは今シーズン初先発となった。3人が加わった全体練習は1日のみだったが、本番を見据え、国内組との「融合」に期待感は十分だった。

 一方、フィジー代表は、フランスやイングランドなどの欧州組中心で「身体能力が高く、大きくて速い。PNC(出場国)の中で一番強い」と指揮官は警戒。フィジー代表はセブンズ(7人制ラグビー)が世界一盛んで、スペースを与えてカウンターで走らせるのは危険だ。どう守るかが焦点の一つだった。またフィジー代表は、日本代表にとってはW杯本番で対戦する「仮想・サモア代表」という位置付けでもあった。

 そんなフィジー代表に日本代表は「15人制をやる」(ジョーンズHC)と臨んだ。SH田中のタクトの下、FWの近場の持ち出しの「ピック&ゴー」と、優位と予想されていたセットプレーを軸に攻め、80分間中70分はゲームを支配。名将の指示通り、ある程度、戦略的に戦えていた。

 特にFW周辺では、海外組が勢いをもたらした。「味方がしっかり声を出してくれて、スペースもあったのでFWを前に出せた」とSH田中が言えば、FLリーチ主将も「冷静に考えてプレーできた。チーム内の連携も接点も、フィットネスも悪くなかった。自分たちのボールが出せた。あとは接点で人数をかけ過ぎないようにしたい。ワールドカップまで時間があるから、まだまだいける」と、一定の手応えを口にした。スクラムも相手の反則を何度も誘っていた。FW出身のジョーンズHCは「満足していませんが、FWはよくやっていた。相手を圧倒していた」と高評価を与えた。

 ただ、セットプレーとラックで圧倒したのに、なぜ勝てなかったのか――結論から言えば、ジョーンズHCが「ここ最近で一番酷い試合だった。BKの走るコース、キック、状況判断と悪かった。フミ(田中史朗)は良いプレーをしていたが、残りのBKは非常に悪かった。W杯のスタンダードではない」と評した通り、BK陣のケアレスミス、集中力の欠如が原因となった

 前半20分まではキックを上手く使い、ディフェンスで相手にプレシャーをかけて9−3とリード。だが20分からの7分間、主にBK陣がキックミス、タックルミスを連発して、相手にスペースを与えて3トライを献上。前半を終わって9―24となったことが、試合を難しくした。

 昨年6月以来の代表戦となったSH田中、ケガから復帰したばかりのSO小野晃征らの息も合っていなかった。「ハル(立川理道)やコス(小野)ともっとコミュニケーションを取っていきたい。(SOの)立ち位置が浅すぎるかもしれないが、それは相手の陣形に応じて変えるということを練習からやっていきたい」(SH田中) ただSO小野が「何度もフミさんとはハーフ団を組んだことがあるので、そんなに時間がかからない」と言うように、この点に関しては、すぐに修正可能だろう。

 ジョーンズHCが掲げる日本代表の攻撃ラグビーはフィジカルや身体能力で上回る相手に、フィットネスで優位に立ち、数的有利を作ってチームで戦うのが信条。FWとBKが一体となって相手を崩し、BK陣のクイックハンズ(素早いパス回し)とランでトライをあげるラグビーこそ「JAPAN WAY(ジャパン・ウェイ)」である。

 BKが機能しない日本代表は、いわば片肺飛行のようなもの。この試合でも、後半22−27と追い上げて迎えた終了間際に相手がスクラムで反則し、2人がシンビン(10分間の途中退場)で数的優位になっても、FWは、BKに積極的にボールを展開することはなかった。試合の流れから見ても、BK陣がトライを取る姿が想像つかなかった。「(今後はゴール前で)BKと連携を取った戦術をとっていきたい」とFLリーチ主将は気丈に語っていたが、FW陣も、外から見ているものと同じ心持ちでなかったか。

 SH田中は「ミスをなくして、コミュニケーションを取って、スキルを上げれば、そんなに修正点はないのかな」と語り、FLリーチ主将は「(逆転負けした原因は)チームではなく、一人ひとりの判断ミス。今後はもっと厳しくやる。ピック&ゴーだけではW杯で勝てない」とキッパリ言った。

 一方でジョーンズHCは「スクラム、ラインアウトはともに成功率は100%、ボールポゼッションも64%、ゲインラインも85%は超えていた。前半の(3トライを許した)10分間以外はディフェンスも良かった。それでも勝てなかった原因、解決法を探さないといけない。BKの平均体重は9キロ差があった。バックスラインにバックロー(FL、NO8のこと)の選手を入れないといけないかもしれない。(W杯に向けて)いろいろ発見できた試合だった」と振り返った。

 この試合がW杯でなくて良かった、と言えよう。この負けから何を学び、次にどう修正するか―― 選手はミスを限りなくゼロに近づけ、リーダー陣を中心に試合の中での修正能力を高める必要があろう。指揮官は大きな変更は難しいものの、戦略、戦術をどう駆使するか、もっと的確に落とし込むことが問われている。決してラクな宿題でないが、この4年間で数々の歴史を塗り替え、築き上げてきた「エディー・ジャパン」。その自信を礎(いしずえ)に反発力を見せつけてほしい。

 9月19日に初戦を迎えるW杯本番まで日本代表は、8月3日のPNCのトンガ戦(カナダ・バーナビ−)、そして帰国して、15日(東京・秩父宮)で世界選抜戦、22日(福岡・レベスタ)と29日(東京・秩父宮)にウルグアイ代表と2度戦い、9月1日に渡英して、5日にグルジア代表戦(イングランド・グロスター)と計5試合を残す。6月の「過酷な練習」を経験してきたBK陣の奮起に大いに期待しつつ、チーム力を向上させることが9月の歓喜につながっていく。

斉藤健仁●文 text by Saito Kenji