日本代表、W杯予選シンガポール戦・バックヤードレポート(その1)

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こんにちは、お久しぶりの駒場野です。

そして、今更ですがシンガポール戦の話です。本当にすいません……。

とにかく、私がちっとも書けない間にも、サッカー界の激変は止まりません。本当はなでしこの話も、ビーチサッカーの話も書きたかったんですけどね。

そういえば、5選からたった4日後に辞意表明したFIFAのゼップ・ブラッター会長。2002年のW杯開催国決定では日本を支持した事も理由になって、2009年には日本政府から「旭日大綬章」が与えられました。今でも在スイス日本大使館のサイト内で、その叙勲祝賀レセプションが写真付きで紹介されています。

「ブラッター国際サッカー連盟(FIFA)会長に対する勲章授与について」
http://www.ch.emb-japan.go.jp/jp/nichisuisukankei/fifa_orden_jp.html

勲章を着けたブラッター会長(右)を祝福する小松大使
勲章を着けたブラッター会長(右)を祝福する小松大使(2009.09.08、スイス・ベルンの日本大使公邸にて)

この時に勲章を渡した駐スイス大使は、その後に安倍内閣の内閣法制局長官として集団的自衛権容認へと憲法解釈を変更し、ほどなくガンのため亡くなった小松一郎でした……なんか違う分野で書く文章になりそうなので、この辺で止めます(苦笑)。

まあ、そんな話はともかく(ただ、編集部の方にはこんなテンションでアイディア出しを手伝っていただいてます)。トルクメニスタンに続いてインドまで破ってグループDの首位になったグアム代表の話や、その裏でやっていたCONCACAFの2次予選(H&Aの直接対決方式)ではグアテマラがバミューダ相手にホームでスコアレスドローをやった後のアウェーで1-0と勝ち切って辛くも3次予選に進んだ一方(コパ・アメリカ参加中のジャマイカはここから参加)、キューバにプエルトリコにドミニカ共和国といった「ベースボールカントリー」は軒並みここで消えました。

残念ながら「同志フィデル」はクレムリンに行けません……と書いて、裏取りに検索したら何ですかこの記事は(笑)!

「ブラジル3部クラブの“チェ・ゲバラ”ユニフォームが大人気」
http://qoly.jp/2013/11/08/19755-20131108-madureira-w-a-sport-2013-che-guevara-kit

でも、そういうお気楽で興味深い小ネタも拾いたいのですが、でもやっぱり埼玉でのあのスコアレスドローに触れない訳にはいかないですよね。

この大会の予選でも「FIFA.com」のテキスト速報担当として活動する事になったので……本当に今さらですいませんが、そこで見た様子をこのQolyでもお伝えしていきます。

FIFA.com Live Scores
http://www.fifa.com/world-match-centre/index.html

2018 FIFA World Cup Russia
http://www.fifa.com/worldcup/index.html

Asia Round 2 Group E 16 JUN 2015 - Full Time Japan 0-0 Singapore
http://www.fifa.com/worldcup/matches/round=275171/match=300317465/index.html

そして、今回もいつも通りに敬称略で。両監督や関係者の皆さん、そして記者の皆さんには申し訳ないと思うのですが、いつものスタイルなのでご勘弁下さい(苦笑)。

日本代表vsシンガポール代表

ただ、最後の最後に、本当は敬称なんか付けたくないな……と思った話が出てきます。

協会も「世界規準」化へ?

速報レポートをするため、私はFIFA.comを運営しているオランダの「Infostrada Sports」社と打ち合わせをします。その際に言われるのが、「試合開始の60分前までにはスタジアムに入って、30分前には両チームのスタメンや審判団を送ってくれ」というリクエストです。これが世界中のW杯予選での共通ルールです。

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ところが、日本担当だけは「ベストは尽くすけど、多分無理」という泣き言が入った、ひどい英語のメールを返してきます。「だって、プレスにメンバー表が回ってくるのが早くても大体30分前で、そこからリストを照合して、正確なデータを打ち込んで送るとなると、ですね……」と。

これは事情が事情なのでやむを得ないのですが、2008年のオマーン戦では試合当日の朝に長沼健元会長の訃報が入り、協会はそちらの対応にも追われたため、向こうに最後のスタメン情報メールを送り終えたのは「君が代」の演奏中でした。

なので、今回は先方も「日本の事情は分かっているので、とにかく可能な限り最速で送ってね」、そして「危ないと思ったら、英文のメンバー表を携帯で取って、画像でこっちに送ってくれてもいいよ」と提案をしてきました。事前に両チームの登録選手一覧は送っているので、とにかくラインアップさえ分かれば向こうで何とかするという判断です。

ただ、代表戦の取材は「記者」と「カメラマン」が厳密に分けられ、場内での写真撮影は厳しく規制されているので、「紙1枚だけ撮らせてもらう特例の交渉か……」と思いながら控室に入ったら、貼ってあったシンガポール代表メンバーのリリースには背番号と「ムハンマド・サフワン・ビン・バハルディン選手は離脱した(なので、カンボジア戦で先発だったこの21番が抜け、あの試合は22人が登録)」という手書きのメモ入り。

さらに、何と18時25分、英文のスタメン表が回ってきました!これなら全く問題なく作業ができます。テキストベースで最後のデータを送ったのは18時40分で、この仕事を請け負ってから初めて、試合前練習やスタンドの様子を、余裕を持って眺められました(苦笑)。

でも、18時55分、つまりいつもと余り変わらない時間に、日本語と英語のスタメン表が回ってきました。そう、もう一度英語。そして、これで今までFIFA.com/Infostrada Sportsや私が困っていたかの謎を解くカギでした。

報道関係者に配られるこの資料は、恐らく一般公開を前提としていないので、ここでは上げません。ただ、私はこれに良く似た紙を前に見ていました。それは武蔵野陸上競技場、横河武蔵野FCの試合です。

横河はJFLなので、当然有料のチケットを買ってスタジアムに入ります。ただ、それとは別に「運営協力金」の募金箱がメインスタンドの正面入口にあり、試合の見所案内などが書かれたガイドを配っていました(2015年もこの方式かは未確認)。募金をした人にこのガイドと一緒に配っていたのが、その試合のメンバー表だったのです。書かれていたのは、両チーム選手の背番号・ポジション・名前・年齢・身長・体重、そして前の所属チーム。そして両チームの平均年齢が入り、これに2人の監督と審判団の名前、試合開始時刻や気温などの基本データが入ったものでした。

埼玉スタジアムの控室に30分遅れで入ってきたのは、ほぼこの書式でした。無かったのは両チームの予想フォーメーションぐらいです。

つまり、今までは自分達のフォーマットでリリースを出すため、名前と番号しか入っていない速報を自分達でチェックして、付加情報を揃えた上で日本語に翻訳したものを配る事が一番重要と考えていたのですが、「とにかく早い球出し」を実現するため、FIFAによる簡素なフォーマットでの即時配布へと方針を変えた協会側の「改革」のおかげで、今回は非常に助かりました。こういう部分でも、協会は世界の流れに付いていくのでしょうか。

テレ朝システム

そして、このスタメン表を見て、別の疑問も解決しました。

今回はテレビ朝日ですが、私がやきもきしている間にもテレビ局は前番組のニュースの中でいつも「日本代表のスタメン」を流していました。正式発表ではないのでこちらは使えなかったのですが、このFIFAスタイルの英文速報を元に作っていたんでしょう。こちらでは先発GK以外は全部混ざった背番号順ですが、「サムライブルー」の布陣は当然分かっているので、各選手の守備位置を当てはめて並び替えできるし、視聴者からの要望は圧倒的に少ない相手のシステムは試合が始まってから確認すればいいと割り切れます。

あそこにいるペン記者にも英語のできない人はいないでしょうが(……多分)、テレビ局なら当然問題はないので、あの対応が取れたのでしょう。

そんな感じで、こまめに切れるWi-Fi接続以外は万事順調に始まった2018年W杯予選でしたが、とにかくシンガポールGKのモハマド・アズワンが大当たり。

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考えてみれば、2004年にやったドイツW杯の2次予選でも2試合とも大苦戦だったな、あの時もGKが良かったはず(初戦でゴールを守ったハッサン・サニーがこの試合でベンチ入り)、そういえば控室で11年前の事を話題にした人っていた?と気付いて……

とハーフタイムに呟いたのですが、結果はあの通り。夏場は静かな日本海のはずが、後半途中から突然吹き始めた寒い突風に煽られたかのように、思わぬ嵐の船出となりました。

ただ、確かにシンガポールが良く守ったのですが、夜中にNHK BS-1での再放送を見ると、精度を欠いたパスも結構ありましたね。本田のFKがバーを叩いた瞬間には記者一同がのけぞってましたが、改善点はいろいろとあったようです。

そして、前半はチラホラ混ざる程度だったのですが、試合終了の笛は5万3千人の大ブーイングへの合図となりました。

……え?テレ朝は「励ますようなどよめき」と実況してたんですか?

そんな「きれいな表現への言い換え」が、今の日本の流行なんでしょうか?

シュタンゲの意地

試合直後と比べるとぐっと人が少なくなった観客席の前で、日本の選手達がピッチを一周する中、ライオンズ達は中に入ってきたスタッフも一緒に笑顔で集合。ACLで横浜F・マリノスと対戦したベトナムのクラブが「W杯決勝のスタジアムで試合をした」といって写真を撮った話を聞きましたが、あれは確か前日練習の時の「記念撮影」(違っていたらごめんなさい)、これはアジアのトップレベルを相手に勝ち点1をもぎ取った「栄光の記録」。意味合いが全然違います。

そうして、少し遅れて入ってきたベルント・シュタンゲ監督が英語で切り出したのは、"unexpectable result"と"sensational reach"。まさに「予測できない結果」で「センセーショナルな(素晴らしい)到達」を成し遂げた成果への自己評価でした。

記者会見の全文はスポーツナビで掲載されているので、そちらをご覧下さい。すいませんが、今回も手を抜ける所は抜きます(笑)。

スポーツナビ シュタンゲ監督「選手たちを誇りに思う」
試合後、シンガポール代表監督会見
http://sports.yahoo.co.jp/sports/soccer/japan/2015/columndtl/201506160006-spnavi

ただ、文面だけでは伝わりにくい面白さがつまった会見でした。こういうのもテレ朝のネットチャンネルか、無理ならJFA TVで配信すればいいのですが(笑)。

文中の通り、この日の戦い方が魅力的だとは思っていなかったわけです。ただ、現在持っている戦力ではあれが精一杯、チャンスがあればカウンターを仕掛けようと狙ったが、そこまでの力はなかったのを認めていました。実際、吉田と槙野はこれを全く問題なく処理していたので、後からハリルホジッチ監督が言ったように「シンガポールには怖さは無かった」のです。

ただ、それは自分にとっては現状でのベストチョイスで、本当はもっと攻撃的なチームを好み、実際に作る力があるのだというプライドが、このスポーツナビのコラムニスト、宇都宮徹壱からの質問で出てきました。「2004年、イラク代表で0-2と敗れた経験を踏まえて、今回の結果をどう思うか?」と聞かれて、まずは「忘れていた」と答えておきながら、「当時の仕事に誇りを持っている」し、「その後2007年に優勝した当時のイラク代表チームの選手達とは今でも関係を持っている」のです。

とても「忘れていた」人の答えではありませんし、それはイラクを去ったシュタンゲがキプロスリーグのアポロン・リマソールを指揮した時に単独取材をした宇都宮も承知していたでしょう。

宇都宮徹壱公式サイト「徹壱の部屋」2005年11月19日付(原典:エルゴラッソ同日号)
「元イラク代表監督、ベルント・シュタンゲの居場所」
http://tetsumaga.com/tete_room/archives/47

「今はこれだけの選手でも、自分はこれだけの結果を残すチームを作ったのだ」という本音は、東ドイツ時代のシュタージ(国家秘密警察)との関係を取りざたされ、イラクでは無数の暗殺予告のために辞任が避けられなかった、オシムやハリルホジッチとは違った形の修羅場で培った「屈折した意地」だったのでしょう。

それは「大半の選手は欧州の長い長いシーズンの後だったし、チャンピオンズリーグ・マンシャフトもあったし(?)、ブンデスリーガもドイツカップもあったから、疲れていたんだろう」という、何か香川の事しか頭にないのか?というような少しずれた気遣いを前置きした上で「我々を過小評価していたかもしれない」というフレーズにも現れてきます。

「5年後」の意味

最後の質問権は、私に当たらず。ただ、その記者の方がほぼ代弁して下さっていました。「この結果はどういう意味を持つのか」、です。

ただ、「最終予選とアジアカップ本大会への出場が見えてきた」かと考えた私の予測は外れました。アウェー2連戦でグループ首位に立った監督が話し始めたのは、もっと遠い未来の話。東南アジアの域外にある日本やオーストラリア、韓国という強豪と公式戦で対戦するのは若年層に大きな刺激になるだろう、シンガポールには去年天然芝の素晴らしいスタジアムができ(日本対ブラジルをやったスタジアムです)、育成についてもプランができていると。

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祖国が消滅し、東欧や中東を変転としたシュタンゲ監督は、地元のパース・グローリーを指揮した際に家を買い、ここには今も夫人が住んでいるようです。シンガポールからオーストラリア西海岸の中心都市までは5時間かかるものの、直行便が毎日6-7本という便利さ。引退も視野に入れた66歳にとって、これが最後の挑戦になりそうです。

そして、彼が口にした「5年後」のフレーズ。もちろん2020年は東京五輪です……いや、何と言いますか、本当にすいません。いろいろと溜まってるんですけどね……。

いろいろとアレな人達の話はまあ別として、シンガポールにとっても大きなチャンスです。アジアからの出場国は通常3つですが、この時には開催国の日本が予選から外れます。このチャンスを見逃す手はないですね。どこまでシンガポールサッカー協会とシュタンゲ監督が話をしているか、そもそも監督としての契約はどこまであるのかが分かりませんが、長期的な視野に立った強化策の途上にある、その大きな一歩としてこの結果を持ち帰りたいというのが良く分かる会見でした。

シンガポール代表という事もあり、この会見はずっと英語。しかし最後の質問に答えて立ち上がった時、少しだけ違うトーンで。

「前に置いてあるこのビールは、飲んじゃダメなのかい?ドイツだったら会見が終わったら1本もらってOKなんだけどね」。会場では「イズワンをJリーグのビッグクラブでやらせたいんだ」という言葉で外国人記者達が反応したのに続く、今日2度目の笑いが起きました。日刊スポーツの記事によると、その後でシュタンゲ監督には無事にキリンビールがもたらされた模様です(笑)。

シンガポール監督上機嫌で「ビールもらっていい?」
http://www.nikkansports.com/soccer/japan/news/1493292.html

そうですね、私はアルコールがダメなので、読者の皆さんには次のシンガポール戦の前には「タイガービール」でも飲んでいただくよう、お願いしたいですね(笑)。

1996年から始まり、2008年からは「スズキカップ」となった東南アジア選手権ですが、2004年までの最初の5回はこの会社がスポンサーだったので、「タイガーカップ」という名称は割となじみがあります。

Tiger Beer Official Site(英語、年齢認証有り)
http://tigerbeer.com/

日本ビール株式会社 (Tiger Gold Medal/タイガー(瓶))
http://www.nipponbeer.jp/lineup/iview.php?pvw=dt&pid=48

その後で「勝ち点2を落としてしまった」ハリルホジッチ監督がやってきたのですが……長いので、続きは次のコラムにします。

≪その2(後編)へ続く≫