マットペインターの木村俊幸さんのアトリエにて。木村さんと、箱庭 haconiwa のみなさん。

写真拡大 (全5枚)

 構想15年、撮影になんと4年も費やした、ロイ・アンダーソン監督の『さよなら、人類』が、8月8日(土)に公開されます。『散歩する惑星』『愛おしき隣人』に続く"リビング・トリロジー"の最終章にも位置づけられている本作。ヴェネチアでは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を抑えてグランプリを獲得しているのですが、ものすんごく地味! でも、ものすんごくクセになって何度も観たくなる謎の作品です。

映画『さよなら、人類』は、8月8日(土)より公開です。

 そんな本作、CG全盛時代を丸無視したアナログ巨編であることも話題になっています。全39あるすべてのシーンは、精巧なスタジオセットに膨大な数のエキストラ(馬含む)を呼んで、固定カメラで1シーン1カットの長回しという独特すぎる手法で撮影されています(これが撮影に4年もかかった理由でもあるらしい)。そこに多用されているのが、「マットペイント」という技法です。
 何すかそれ?という人も多いと思いますが、実は、妄想遊びとしても面白いマットペイント。日本におけるマットペイントの第一人者であり、『さよなら、人類』大好きの木村俊幸さんと、女だらけのクリエイター集団「箱庭 haconiwa」が、マットペイントの楽しみ方を指南してくれました!

●そもそも「マットペイント」って何ですか?

 マットペイントは、"マッド"なペイントのことではありません。木村さん曰く、マットペイントのマットとは、"隠す"という意味。20世紀初頭のアナログ映画時代からある背景画の技術のことです。

「映画の撮影現場で、背景のすべてをセットで組むのが難しい場合などに、部分的にセットを組んで、"ない部分"を隠す=補足するのがマットペイント。昔は、カメラの前にガラスを置いて、ガラスに直接"ない部分"の絵を描いて合成する"グラスショット"という手法がよく使われていました」(木村さん)

木村さんは飄々としたゆるい雰囲気を醸し出しているけど、実はめっちゃすごい人なのです。

 ちなみに木村さんの師匠は、本多猪四郎監督の『ゴジラ』や夏目雅子さん版の『西遊記』、大林宣彦監督のデビュー作『HOUSE ハウス』などでマットペイントを手掛けた石井義雄氏。そして木村さんは石井氏に就いてアナログ時代を経験した後、CG草創期の頃から様々な映画作品でデジタルでのマットペインティングを手掛けている、現代日本におけるマットペイントの第一人者なのです!

●マットペイントで遊んでみよう!

「みんな、子どもの頃に布団の中でいろんな妄想をしたでしょう? 妄想の中で冒険していると、だんだん布団の中が洞窟のように見えてきたり。いつも見ているものが違うものに見えてくる......マットペイントは、そんな妄想を形にするものでもあるんです」(木村さん)

 ちょっと前に、唐揚げで爆発シーンを作るのがネット上で流行りましたが、それも言ってみればマットペイントのようなもの。実は木村さんはそれよりもはるか昔、映画『SPAWN』(マーク・A・Z・ディッペ監督/1997)で、スキャンした「筋子」をベースに地獄のシーンを描き上げたことがあるということで、今回は箱庭さんが用意した「野菜」でマットペイント遊びをしてみました。

キャベツに挑む、木村さん。

 用意したのは、キャベツ、ゴーヤ、豆苗と、映画『さよなら、人類』に登場するセールスマンコンビ、サムとヨナタンの切り抜き写真。野菜を風景画の前に置いて草むらや謎の地形に見立てて、映画とはまた違う、不思議な世界に迷い込んだサムとヨナタンを演出。いろんな方向から光を当てながら写真を撮りまくって、その変化を楽しみました。

背景に使用したのは、木村さんのマット画です。

 今回は木村さんが描いた風景画のマットペイントを背景に使用するという豪華すぎる遊びでしたが、空の写真とか宇宙の写真とか適当な背景に野菜を組み合わせて、みなさん流に遊んでみるのも楽しいと思います! ポイントは、光を利用して奥行き感を出すこと!です。

<後編につづく>

(取材・文/根本美保子)

***

Profile

木村俊幸(きむら・としゆき)
1969年岩手県生まれ。LOOPHOLE 代表/VFXアーティスト。映画の背景画であるマットペイントを中心に、TV・CM・MVなど様々な映像の特殊効果に参加。また、映画のコンセプチャルデザイン、VFXスーパーヴァイズやディレクションなども手掛ける。主な参加作品に『リング』『CASSHERN』『映画 怪物くん』など。最新作はAcid Black Cherry「INCUBUS」、ももいろクローバーZ「『Z』の誓い」、DANCE EARTH「BEAUTIFUL NAME PARTY」のMV、「人にやさしく」(下山天監督/VFX監督・ミニチュア造型)。
府中グリーンプラザとLOOPHOLEにて「LOOPHOLE10周年記念展」を開催(9月20〜23日)。また、9月に『木村俊幸作品集 MATIM 〜SAY YES〜』刊行予定!


箱庭 haconiwa
女子クリエイター集団による日々の中に見え隠れする「なんかいいな」と共感できるモノ・コトを同じような仕事をしている人たちとシェアするための"ライフスタイル作りWEBマガジン"。
http://www.haconiwa-mag.com


『さよなら、人類』
8月8日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

監督・脚本:ロイ・アンダーソン
配給:ビターズ・エンド
2014/スウェーデン=ノルウェー=フランス=ドイツ/100分

英題:『A Pigeon Sat on a Branch Reflecting on Existence』
公式サイト:http://bitters.co.jp/jinrui/
©Roy Andersson Filmproduktion AB