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2015年6月28日に発生した「ファルコン9」ロケットの打ち上げ失敗は、大きく2つの点で大きな衝撃を与えた。一つは、かねてより滞っていた国際宇宙ステーション(ISS)への物資の補給がさらに輪をかけて滞る事態になったこと、もう一つは「新たなる宇宙開発の形」という期待を受け、民間企業の主導によって開発されたロケットが、昨年10月の別のロケットに続いて、ファルコン9も打ち上げに失敗したことだ。

はたしてISSの運用と、民間の宇宙開発の今後は大丈夫なのか。そもそも今回の失敗はなぜ起きたのか。本連載では打ち上げ再開までの動きを追っていきたい。

第1回では、ファルコン9ロケットの概要について紹介した。第2回では、ドラゴン補給船の概要と、今回の失敗で失われたISSへの補給物資が、ISSの運用にどのような影響を与えたのかについて紹介した。

第3回となる今回は、スペースX社のような民間企業が主体となる「新たなる宇宙開発」の今後は大丈夫なのかにということついて、次回の第4回と分けて見ていきたい。

○NewSpaceというムーヴメント

人工衛星を打ち上げたり、有人宇宙船を飛ばしたりと、宇宙開発が本格的に動き出して以来、宇宙開発は常に国家のものだった。たとえば米国であれば、アポロ計画やスペース・シャトル計画を主導したのは米航空宇宙局(NASA)であり、軍事衛星の計画を主導したのは米国防総省やその下にある軍だった。もちろん実際にロケットや衛星を造ったのは民間企業だったが、それでも人間を月に送り込んだのはどこか、と聞かれると、多くの人は「NASA」と答えるだろうし、スペース・シャトルは「NASAの宇宙船」と呼ばれ続けた。

これには、宇宙開発を行うにはとても多くの資金が必要で、なおかつ儲からないという事情がある。つまり宇宙開発は公共事業だったのだ。

しかし1980年代になり、NASAで小型ロケットによる小型衛星の打ち上げを、民間企業に主導させてみよう、という計画が始まった。そこに名乗りを挙げたのは、当時まだできたばかりのオービタル・サイエンシズ社(現オービタルATK社)という会社だった。彼らは航空機から発射する「ペガサス」という小型ロケットを開発し、NASAや民間企業などの小型衛星の打ち上げを請け負い、多くの成果を挙げている。

そして2000年代に入ると、当時すでに建設が始まっていた国際宇宙ステーション(ISS)への物資と宇宙飛行士の輸送を、民間に任せてみようという動きが始まった。そして2006年に「商業軌道輸送サーヴィシズ」(COTS, Commercial Orbital Transportation Services)と名付けられた計画が立ち上げられ、構想を実現に移す動きが始まった。

まずはロケットと無人の補給船を開発する計画が始まり、そこにオービタル・サイエンシズ社を含む多くの企業が名乗りを挙げた。そして審査を経て最終的に残ったのは、オービタル・サイエンシズ社と、2002年に設立されたばかりのスペースX社だった。両社はNASAからの資金提供を受け、ロケットと補給船の開発に挑んだ。

その結果誕生したのが、スペースX社の「ファルコン9」ロケットと「ドラゴン」補給船、そしてオービタル・サイエンシズ社の「アンタリーズ」ロケットと「シグナス」補給船だった。

これらロケットや補給船の開発には、NASAは資金提供や審査などで関わってはいるものの、主導権はあくまでそれぞれの企業にあった。NASAが主導しないことや、またスペースX社もオービタル・サイエンシズ社もまだ若い会社であることから、本当に任せても大丈夫なのか、という声は少なからずあった。だが、ファルコン9もアンタリーズも、1号機の打ち上げに成功し、その後も順調に成功を重ねつつあったことで、徐々にその声は小さくなっていった。

折りしも、当時すでにサブオービタル(軌道に乗らない)宇宙船の開発が熱を帯びており、数年以内に乗客を乗せた運航が始まるかもしれないという機運が高まりつつあった。こうした新たな動きに対し、国が主導する「古い宇宙開発」と対比させる形で、新しい宇宙開発の形を意味する「NewSpace」と呼ぶことが流行り始めた。

さらに2009年から始まったオバマ政権は、こうした民間主体の宇宙開発を積極的に支援する方針を示し、NASAも当然それに賛同した。こうしてISSなど地球低軌道の輸送は民間の手に委ね、NASAは月や火星など、より遠くの宇宙の探査に注力するという、現在の路線が確立された。

○アンタリーズの失敗の余波

しかし2014年10月28日、シグナス補給船を積んだアンタリーズが、打ち上げ直後に爆発し、墜落した。いくつかのメディアは「民間主導の宇宙開発は本当に大丈夫なのか」という部分を論点として採り上げた。とくに、爆発した箇所が、オービタル社がロシアから購入したロケット・エンジンだったことも、そうした風潮に火に油を注ぐ形となった(*1)。民間が開発を担ったために、コストを重視しすぎて安価なロシア製エンジンに頼ることになった、したがって多少高価でも米国製にこだわるべきだ、という主張だ。

また、オバマ政権が民間主導という方針を積極的に進めていることも、そうした声が大きくなる要素となった。つまりはロケット云々を飛び越え、単なるオバマ政権への批判材料となったのだ。

しかし、その風潮の歯止めとなったのはファルコン9の存在だった。アンタリーズが失敗した時点で、ファルコン9は13機が打ち上げられており、ほぼすべてが成功し、順調に実績を重ねていた(*2)。

その実績は、ロケットの信頼性を何よりも重要視する衛星通信会社も認めるもので、多くの会社から打ち上げ契約を取り付け、現在も多くの受注を抱えている。ファルコン9の存在は、アンタリーズが失敗してもなお、民間主導の宇宙開発という道が間違いではないことを示していた。

また、今年5月には、米空軍がファルコン9による軍事衛星の打ち上げを認める決定を下している。軍事衛星を打ち上げるには厳しい審査が要求され、ファルコン9は約2年をかけてクリアした。この背景には、米空軍がファルコン9に期待している節が見て取れる。現在、米国の軍事衛星の打ち上げを主に担っているのは、航空宇宙大手のロッキード・マーティン社が開発した「アトラスV」と、ボーイング社の「デルタIV」だが、そもそもこの2機は、米空軍が軍事衛星を打ち上げるためのロケットとして両社に開発させたものだった。にもかかわらず、ファルコン9を同じ土俵に上げる決定を下したということは、過去の経緯にこだわらず、コストや信頼性の面で最良の道を選ぼうとする意図があるのだろう。

そして、民間主導という道を鼓舞した当のNASAももちろん、ファルコン9には大きな期待を寄せ、すでにドラゴン補給船によるISSへの物資輸送が6回も成功していたことからも、その期待はほぼ確信へと変わっていた。

さらに、現在NASAは、ISSへの宇宙飛行士の輸送をロシアのサユース宇宙船に依存しているが、ファルコン9と、同じスペースX社が開発するドラゴンV2宇宙船によってその依存から抜け出し、米国の地から、米国の宇宙船で、米国人の宇宙飛行士を打ち上げられる時代が復活すると喧伝していた。民間が担うということは米国の宇宙産業にそれほどの力があるという勝利宣言であり、何よりISSの輸送を民間に委ねることで、NASAは他国がまだ足を踏み入れたことがない宇宙への挑戦に集中することができるのだ、とされた。

米国内外からの、これほどまでに大きな期待を背負っていたファルコン9が、アンタリーズに続いて失敗したことで、批判の声が堰を切ったように大きくなったのかといえば、しかしそうではなかった。

(続く)

【脚注】
*1 アンタリーズの失敗原因について、現時点ではまだ結論は出ていないが、ロシア製ロケット・エンジンのターボ・ポンプに問題があったのではないかという説が有力視されている。
*2 2012年10月8日に打ち上げられたファルコン9の4号機では、9基ある第1段エンジンの燃焼中に、1基のエンジンが止まる問題が起きた。残りの8基を予定より長い時間燃焼させることによって、ドラゴン補給船を予定通りの軌道に投入することには成功したが、副ペイロードとして搭載されていた小型通信衛星は計画から外れた軌道に入ってしまった。ただ、スペースX社では、あくまで主のミッションはドラゴン補給船を送り届けることだったため、打ち上げは成功だったとしている。

(鳥嶋真也)