『へこたれない子になる育て方』(高濱正伸著・プレジデント社)

■不利な形勢を逆転できる強さの秘密

「昨今、もっとも成長著しいスポーツ選手は?」と尋ねられたら、テニス錦織圭選手が思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。

2014年の全米オープンで準優勝し、一気に世界ランクを上げました。そしてこの年、アジア人として初めて、世界のトップ8の選手が戦うATPワールドツアー・ファイナルに出場したことでも注目を浴びました。

14年の全米オープン終了後に錦織選手に対して行われていたインタビューの中でのことです。やや劣勢になりかけた局面があったものの、見事に勝利した試合についてインタビュアーがふれた際、彼はこう言っていました。

「逆境になるということを想定していました」

これを聞いて、錦織選手の強さの秘密を思い知った気がしました。最悪の事態を想定して、それを乗り越え、自分自身の力に変えていく術を持ちあわせていたというわけです。

この発言からも分かるように、自分にとって不利な形勢を逆転できる強さを持っていれば、向かうところ敵なしと言えるでしょう。

錦織選手と、マイケル・チャンコーチの対談(コーチに就任する以前に行われた対談)で、錦織選手から「背が低いので、サーブの改善がテーマなんです」という発言が出ました。それに対しての、チャンコーチの言葉はこうでした。

「高い打点からのサーブは打てないのは自覚しなければならない。ただ、背が低いことで有利なのはすばやく動け、より広い範囲をカバーできること。ストローク戦でスピードを活かしていけば、大きなアドバンテージになる」

一見、不利な条件でも、とらえ方次第でどうとでもなるということをチャンコーチはアドバイスしているわけです。

■自分の心理状態をコントロールできるか

ふたりが師弟関係になってから、錦織選手は明らかに実力を増しました。精神面においても、大きく成長したのではないでしょうか。そのことは、たとえば、次のような発言からも感じます。

「以前は、格上の選手と対戦するときは構えてしまったり、勝ちを信じる気持ちと疑う気持ちがフィフティ・フィフティというか……、100%勝ちに行くという思いがなかなかつくれなかったりしたが、それがいまはまったくない」

技術の細かな部分での向上に加え、実力を余すところなく発揮できるような「ものの考え方」を身につけていったのではないでしょうか。

テニスというスポーツは1対1で行うものですし、ポイントがテンポよく決まっていきます。その中で試されるのは、局面を読み取る知性に加え、どんなときでも自分の心理状態をコントロールできるかどうかということです。

単に心が頑強であるだけでなく、ゆらぎつづける試合の「流れ」を掌握できる「心のしなやかさ」が、錦織選手の成長のカギなのかもしれません。

※本連載は書籍『へこたれない子になる育て方』からの抜粋です。

(花まる学習会 代表・高濱正伸)