品田遊・error403・森敬太『止まりだしたら走らない』(リトル・モア)

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ダ・ヴィンチ・恐山の存在を知ったのは、いつだったか?
何かのツイートが流れてきて、だ。





わーおもしろい人がいるなーと思ってたら、あれよあれよといろいろなところで連載をスタートし、2011年「第4回ギャグ漫画家大喜利バトル!!」で優勝。大活躍。
そして、いよいよ、品田遊という名で小説を出した。
『止まりだしたら走らない』(リトル・モア)だ。

イラストは、error403。
なにその鉄壁な布陣。





Twitter、漫画、キャラクター展開で大活躍してる人気者error403のイラストが、絶妙に絡み合うメチャクチャかっこいい本なのである。

アートディレクション・デザインは、森敬太。

品田遊・error403・森敬太、この3人が、『止まりだしたら走らない』発売記念でイベントを、青山ブックセンターでやるという情報を入手。
これは、あれだ。奇跡が起こる確率の高いイベントだ。
ってことで「乱入させてください!」と念を送り、司会の座をゲットした米光一成が、いまだ興奮冷めやらずの感ありで、『止まりだしたら走らない』を紹介しているのが、この原稿なわけです。

発売記念イベントは、3人のチーム男子っぷりと、ブックデザインの秘密をたっぷりお届けする予定。

で、だ!
『止まりだしたら走らない』、手にして一番最初に思うのは「本、かっこいいー」。
でも、かっこいい本は、凝り過ぎてて読みにくいケースが多いからな、と思って読み始めると、「読みやすぃー」。
何故だ。

コネタが面白いのは、もう読む前からわかる。ダ・ヴィンチ・恐山だからな。ここは不安なし。
でも、コネタが面白いのと、小説として通して読んで面白いのとは違う。
ありがちなのは、コネタをつなげただけだったねーの残念パタン。
だが杞憂。
コネタが絡み合って大ネタに化ける。

松尾スズキ『同姓同名小説』、井上ひさし『ブンとフン』、中島らも『超老伝ーカポエラをする人』、舞城王太郎『煙か土か食い物』、筒井康隆『俗物図鑑』。そういった小説たちを思い出した。
いちいちコネタがおもしろいのに、それでいて全体もおもしろい。贅沢すぎる小説たちだ。

『止まりだしたら走らない』は、12のショートストーリーの間に、自然科学部の二人が東京駅から高尾山目指して移動する長い物語が挟み込まれるスタイル。
ショートストーリーのひとつ「苺に毛穴」の語り手は「村沢真澄(むらさわますみ)・24歳・繊維メーカー勤務」。
彼女は、じっと見てしまう。
じっと見て、ディティールの生々しさを気味悪く思う。
“イチゴもよく見ると気持ち悪い。まずあの赤さが以上だし、無数の窪みの奥に小さい種が埋まっているのを見ると鳥肌が立つ。スイカの断面も赤さと種の配列が不気味で、長いあいだ見ていられない。メロンの表面の網目模様もまるで神経が通っているようでぞわっとする。中心にジュクジュクの種がみっしりと詰まっているのも嫌だ。”
さらに、
“気持ちの悪いものはそこらじゅうに溢れている。サンゴ礁・コメがつかないしゃもじ・蓮の根・マンガに出てくるたんこぶ・点描・ウーパールーパー・銀河系・もつ煮・ザクロ・刺繍の裏地・クリオネ・ピザ・頭だけ異様に大きいプロ野球選手のフィギュア・防音室の壁・ミカヅキモ・坊主頭の後頭部・ちらし寿司・うろこ雲・レゴブロックの突起・マスゲーム・心臓マッサージ練習用のマネキン・仏像の頭・プリクラで拡大された目・キノコ・皮膚に残る畳の跡・ヒマワリなど、そういうものたち。”
さすがTwitter王、大喜利王のダ・ヴィンチ・恐山ってな感じだが、さらにその後が凄い。
“神は細部に宿ると言うけれど、だとすれば神はグロテスクな姿をしているに違いない”。
ぐっとくる。
さらに凄いのは、これが「よく見ると気持ち悪く見えてくるもの」という大喜利のネタを羅列しただけにとどまらないところだ。
語り手の生き様というと言葉が大げさか。語り手が、どうしてそれを感じるのか。そう感じる人物はどう行動するのか。そこに結びつく。
そもそも「苺に毛穴」は、彼女が、こどものころ動物園に行った様子から語られる。
そこにいる動物たちが、絵本のような姿でなかったことに悲嘆するのだ。
“実物のゾウは全然違った。間近で見せられたゾウの目は思いのほか鋭く、皺だらけの硬化した皮膚には、無数の産毛が生えている。だらりとたれた鼻を振り回して体に泥を塗りたくる動物は、絵本で見た「ゾウさん」ではなかった。くすんだ灰色と皺の塊だった。”
品田遊は、コネタが得意なだけではない。
憑依する能力がある。
あの人は、何を考え、どう行動するか。
じっと見て、そいつの思考系統をシミュレートする。文章で、人のこころをモノマネする。
『止まりだしたら走らない』に登場する人物は、変なヤツばかりだ。
ゴーストとタイムアタックする男が語る「タイムアタック」。
質問投稿サイトに嘘の真実を書き込む男が語る「アンゴルモアの回答」。
盗撮の疑いをかけられた不審な男が語る「夜の鳥類たち」。
子供扱いされても受け入れる少女が語る「春」。
などなど、立ち止まって考えてしまう人ばかりだ。
いざ進めの号令を聞きながらも、「え、なんで、そこで立ち止まるの?」というところで立ち止まってしまう。
みんなが見過ごしていることを、見つけてしまう。
見つけたからといって何がどうなるということもないかもしれない。でも、見つけてしまう。
そういった変なヤツが、どうしてそんな変なことをするのか、読む者に理解させてしまう。
ヘタすると「俺だ、これ俺だ」となる。
そんなわけはないのに。
登場する12の短編の語り手は、いろいろな変さを持っている。
世の中は多様だ。多様に変だ。変だらけだ。だから、おもしろいのだ。
だから、俺だって許されるはずだ。
めちゃくちゃおもしろい本だが、それだけじゃない。
救済の書でもある。立ち止まって、読むといいと思います。
(米光一成)