専門誌では読めない雑学コラム
【木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第13回】

 この度、ゴルフのスコアで『89』を出せたら幸せ、という本を出すことになりました。今回は、その『89』という数字の意味を語っていきたいと思います。

「89ビジョン」を語る前に、まずは本家本元の「54ビジョン」について、語っておかねばなりません。

 スウェーデンのトッププロ、アニカ・ソレンスタム選手のコーチである、ピア・ニールソン氏らが提唱しているのが、「54ビジョン」です。通常パー72のゴルフコースで、すべてのホールでバーディーを取ったら、そのスコアは『54』。これは、論理的に可能なので、プロはそこを目指してがんばろう、みたいな話です。しかし、それはちょっとレベルが高過ぎますよね。だいたい、トッププロでも『59』のスコアを出したりすれば、大ニュースになっていますから。

 プロの話は置いておいて、じゃあ、我々アマチュアが目標とすべきはどこなんだ、と。ぎりぎり80台である『89』を出せば、アマチュアゴルファー全体の最大公約数的には幸せになれるんじゃないか、と思ったわけです。

『89』は、ひとつのパーと、残り全部をボギーで回れば出せるスコアです。「簡単じゃん」という方もおられるでしょうが、「89ビジョン」のミソは、あくまで平均89.99を出せば万歳! という考え方です。

 さすれば、「オレは平均80台なんだぜ!」と自慢できます。その先には、平均70台というスコアがありますが、そこは無理なので無視しましょう。

 平均『89』のスコアは、感覚的に言うと、3ラウンドして2回は80台を出さないと達成できません。ハンデでいうと、10〜12ぐらいですか。シングルでなくても達成できます。

 私も鶴舞カントリー倶楽部(千葉県)で、ハンデ12で頭打ちとなり、シングルプレイヤーにはなれませんでした。そこで、自分をどう納得させればいいのかと、たどり着いたのが、「89ビジョン」です。

 ゴルフは、上を見ればキリがないスポーツです。

 どこぞのゴルフクラブのメンバーになり、死ぬ思いでやっと(ハンデが)シングルになったと思えば、次はクラブ代表の選考、競技会に向けての練習の日々が待っています。そして、スクラッチ選手権、クラブチャンピオン選手権など、クラブナンバーワンを決める戦いに参戦です。

 ひと度、クラブを飛び出せば、パブリック選手権、ミッドアマ、日刊アマなどの試合があって、その先には日本アマがあり、果ては日本オープンが待っています。ほんと、キリがない。

 ゴルフは上手くなればなるほど、果てしない荒野が延々と広がり、どこかで歯止めをかけないと、人生がゴルフじゃなくて、ゴルフが人生になってしまいます。

 この"無間荒野地獄"に歯止めをかけるヒントが、中国の戦国時代に生まれた「鶏口牛後(けいこうぎゅうご)」ということわざです。大きな国の下っ端で働くよりは、たとえ小さな国でも先頭に立てる王のほうがいい、という教えです。

 これを「89ビジョン」的に解釈しますと、クラチャン(クラブチャンピオン選手権)の予選に出て、ボコボコにされるよりも、商店街のコンペに出て、「ゴルフ、上手いですね」と褒められながら優勝したほうが、なんぼ人生楽しいやら、です。

 人生一度は、自分の可能性を求めて、チャレンジして結構です。でも、そういうテンションは長続きしません。おそらく普通の人ならば、7〜8年、長くて10年がいいとこです。あとは、マンネリになり、頭打ちとなります。

 そんな、ややお疲れのアマチュアゴルファー、あるいは今からゴルフをばんばんやっていこうという人たちが目標とするべき数字が、『89』なのです。

 人生のピークを過ぎると、今度はその80台すら、なかなか出せなくなります。「あぁ〜、ときどきでいいから80台を出せると、妙にホッとする」――そうした心境に、いつかは誰でもたどり着くのです。

 アマチュアにとってのゴルフとは何か?

 それは「ヘボに始まって、ヘボに終わる」ということです。

 途中、やや上手い時期もありますが、結局は元に戻ってしまいます。常に80台を出せ、とは言いませんが、常に80台を意識したゴルフをする、これだけでゴルフがシャープになり、気を張ってプレイできます。

 充実したゴルフライフのためにも、ぜひ「89ビジョン」を目指してください。

【プロフィール】
■木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。

木村和久●文 text by Kimura Kazuhisa