ノンアルビール「夏の陣」

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 本格的な暑さが日本列島を覆い、ノンアルコール業界の競争が激しくなってきた。今夏の勝負所は「糖の吸収をおだやかにする」ところのようだ。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

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 ノンアルコールビール界に新たな潮流が起きている。アルコールだけでなく、糖質、カロリーなどにも「ゼロ」をうたった健康志向の製品が各社から発売されている。トクホや機能性食品は、ついイメージで買ってしまいがちなアイテムだが、どうせ飲むなら”機能”が高いに越したことはない。そこで各社の製品を比較してみよう。

 まずは市場に先鞭をつけたサッポロの特定保健用食品――トクホの「SAPPORO+」から。パッケージで一番目立つのは「ALC.0.00%」という表示と「ノンアルコール」という表記。上部に「糖の吸収をおだやかにする」と書かれているが、フォントは色もサイズも控えめな印象だ。350mlあたりのエネルギー4〜18kcal、糖質は0.4〜2.8。いずれもゼロではないが、気になるほど含まれているわけではない。かたや”トクホ”としての目玉成分、難消化性デキストリンは4g。食物繊維との合計だと4.6gとなる。

 ここで念のため、難消化性デキストリンについて触れておこう。「糖の吸収をおだやかにする」と書かれているような飲料の主役となる成分で、以下のような作用があると言われている。

1.糖の吸収スピードの遅延作用(食後血糖の上昇抑制作用)

2.整腸作用

3.脂肪の吸収スピードの遅延作用(食後中性脂肪の上昇抑制作用)

4.内臓脂肪の低減作用    

5.ミネラルの吸収促進作用

 ざっくり言うと、食事とともに摂取することで糖や脂肪の吸収がゆるやかになるということ。つまり難消化デキストリン入りの食品は「ゆるめの糖質制限食」に近い状態が作りやすくなる。メーカーとして直接、ダイエットや減量効果は謳えなくとも、少なくともユーザーに一定の期待感はあるはずだ。

 各社の商品に話を戻そう。後発組を見ると6月16日に発売された「キリンパーフェクトフリー」、6月23日発売の「アサヒスタイルバランス」(ビールテイスト)は「脂肪の吸収を抑える」「糖の吸収をおだやかにする/糖分の吸収を抑える」などと表示されている。どちらもトクホでもないのに、「SAPPORO+」よりも効果・効能の表記が大きく目立っている。

 この2種類の成分表示の内容はほぼ同じ。1本350mlあたりのエネルギーは「0」で、たんぱく質、脂質、糖質が0。機能性表示食品のキモとなる、難消化性デキストリンは5g。食物繊維の合計が5.6gというところまで両者とも同じ。意外なことに難消化性デキストリンはトクホの「SAPPORO+」よりも1g多く含まれている。

 実際、特定保健用食品(トクホ)と機能性表示食品の差は、成分や期待できる作用の違いとは限らない。両者ともに一定の健康維持・増進機能をうたっているものの、最大の違いはトクホの「食品ごとに消費者庁長官が作用の表示を許可」に対して、機能性食品は「科学的根拠に基づいた(成分の)安全性機能性を、事業者が消費者庁長官に届け出て表示」となっている。どちらもお上のお墨付きではあるが、認められた内容がトクホは「商品自体の作用」、機能性表示食品は「商品に入った『成分』の機能」が基本線となっている。

 前述の難消化デキストリンを例に挙げると、「SAPPORO+」は製品自体がトクホのテストを通過したのに対し、キリンとアサヒのような機能性表示食品であれば難消化デキストリンに関して、すでにある論拠を引用して届出を出せばいいということだ。機能性表示食品のほうが超えるべきハードルが少ない。

 もっとも、機能性表示食品も届け出ればすべて受理されるというわけではない。制度スタート直後の4月の時点では、3ケタの届け出に対して受理されたのは10%以下。そろえるべき資料が膨大で、書類の不備が起こりがちだったという。結果として機能性表示食品を発売したのは、これまでトクホを扱っていた(≒手慣れていた)企業がほとんどだ。

 よほど画期的な新成分を投入した製品や、斬新な切り口の製品が発売されればともかく、現時点ではトクホと機能性表示食品には、商品(の成分として)のスペックに大きな違いはないと言っていい。

 それにしてもビアテイスト飲料業界(という業界があるとして)の競争は苛烈である。6月30日にはサントリーがトップブランド『オールフリー』に「カロリーゼロ」「糖質ゼロ」「プリン体ゼロ」「コラーゲン2000mg入り」というアイテムを投入した。健康志向は強化されているが、トクホでも機能性表示食品でもない「ふつうのビアテイスト飲料」としてだ。いっぽうで「ヘルシア」シリーズというトクホブランドを持つ花王は、「ヘルシアモルトスタイル」というビアテイスト飲料ですでにトクホの表示許可を得ており、虎視眈々と市場参入を狙っている。

 各メーカーは、健康志向の消費者に何をどう訴えかけるのか。ビアテイスト飲料はコンビニなどの冷蔵フェースで横並びになることも多い。つまり消費者の目の前で、棚での展開量や、減り方が比較される商品であり、「人気を演出する」のが難しいアイテムだ。「棚に大量に並んでいる=売れている」と思い込むほど、現代の消費者は単純ではない。本稿では触れなかったが、もちろん「味」も欠くことのできない商品の力である。