激しく抵抗するみかん農家の男性が、むなしく職員に抱きかかえられて排除されていく――そんな映像がテレビで繰り返し放映され、世間の注目を集めた「東九州自動車道」問題。果たして、建設のメリットはどれほどあるのか。

西高東低の高速道路整備

九州地方の高速道路の整備状況は、いわゆる「西高東低」だ。福岡〜熊本〜鹿児島の西海岸回りが1本でつながっているのに対し、北九州〜大分〜宮崎〜鹿児島の東海岸回りは、未開通区間が残る。

東九州自動車道の整備はここ1、2年で大きく進捗した。北九州JCT〜大分ICのうち、未開通区間は椎田南IC〜豊前IC間の7.2キロだけとなった。


九州の高速道路網(編集部作成)

道路建設に反対する地権者はみかん園の経営者。彼は代替案を出していて、「山裾ルートにすれば建設費は半分以下で済む」と独自の試算結果を明らかにしていた。しかしその主張は認められず、2015年7月14日に一部の畑が強制収用された。

東九州自動車道の福岡県内全通はなにをもたらすか

同日付の朝日新聞デジタルによると、強制収用の対象となったのはみかん園(約12ヘクタール)のうち約1.4ヘクタールの畑部分。強制収用した畑とは別に、農業用倉庫の土地約0.2ヘクタールが残っている。県収用委員会が明け渡しを命じた22日までに地権者が応じなかった場合、県は改めて強制収用する見通しと、同紙は報じている。

強制収用されたコースが妥当だったかという問題はさておき、北九州と大分が高速道路1本でつながることによる時間短縮効果は確かにある。NEXCO西日本の資料によると、椎田南IC〜豊前ICの開通により、北九州市と大分市の所要時間は約10分短縮されるという。


東九州自動車道 椎田南IC〜豊前ICの整備効果(NEXCO西日本公式サイトより)

地元のドライバーはどう考えているのか。『このままでも特に問題ない』という声もあれば『面倒くさい』という声もあり、意見は賛否両論様々のようだ。

下の地図は未開通区間とみかん園の場所を示したもの。

椎田南ICと豊前ICの間を行き来する場合、国道10号線を利用することになる。信号が多く設置されていて、ジョイフルやセブン-イレブン、ローソン、その他ロードサイドショップが軒を連ねる。車の流れがよくない場所だったが、4車線化が進み改善された。

4車線になった現在も、将来を見据えて計画通り高速を通すべきという声は強い。というのも国道10号線の交通量は増加傾向にある。2004年に東隣の大分県中津市にダイハツ九州の本社と工場が置かれ、豊前市を含む一帯で自動車関連企業の進出が相次いでいるからだ。
北九州地域にはトヨタ自動車と日産自動車九州の工場がそれぞれ置かれている。人件費が安く、アジアに近く、船舶輸送に好都合なことに目をつけた自動車メーカーは「九州シフト」を始めている。九州北部は東北や近畿を超える自動車産業集積地となった。その中心が北九州から中津にかけてのエリアだ。

運送コストを重視する物流会社は、完成後も国道10号線を選択すると見られるが、複数のルートを選択できるのは企業にとって魅力に映る。


椎名南IC〜豊前ICおよびみかん園周辺の地図(編集部作成)

東九州自動車道にシフトするのは、スピードと快適性を重視する高速バスや観光バスだろう。マイカーで九州巡りをしたいというドライバーにとっても朗報に違いない。大分を訪れる観光客は、自家用車で来県するケースが最も多く、2番目はバス。鉄道利用者は10%に満たない。本州からの旅行者にしてみれば、高速を下りずに済むことは、所要時間の短縮以上にメリットが大きい。

東九州自動車道(北九州JCT-椎田南IC)(豊前IC-宇佐IC)+国道10号線(YouTubeより。椎田南IC→豊前ICの映像は25:09くらいからスタート)

未開通区間は2016年3月に完成の予定。みかん農家の犠牲の上に建設される東九州自動車道は、期待通りの経済効果をもたらすだろうか。