--日本全国民が、その名前を知るところとなった噂の天才音楽家・新垣隆! 一体その音楽的原点はどこに!? ピュア音楽野郎が影響を受けた名曲の数々を尋ねてみた。

あの新垣隆サン、パクリなき音楽人生の「原点」

『N/Y』(APOLLO SOUNDS) 『N/Y』(APOLLO SOUNDS)

『N/Y』(APOLLO SOUNDS)

注目の音楽家・新垣隆とジャズ界の異才・吉田隆一がコンビを組んだアルバム。【新垣隆・ピアノ】1970年生まれ。桐朋学園大学音楽学部作曲科卒業。同大学の講師を20年近く務めた。現代音楽を得意ジャンルとする。【吉田隆一・バリトンサックス】1971年生まれ。05年よりblacksheepを結成。最新アルバムに『∞-メビウス』がある。

 4歳からピアノを習っていましたので、最初はクラシックのピアノの曲が好きになりました、はい。

 一番初めに好きになった曲は小学校2〜3年の頃。家にレコードがあったショパンの『幻想即興曲(1)』です。

 とても激しい曲で、よどみなく両手が動き続けている……。私には手の届かない、もうこの世のものとは思えない曲に思えて、そんな曲が存在するということに驚きました。

 ベートーベンの『月光のソナタ(2)』もよく聞きました。『運命』のように激しいものよりも、しっとりとした、ロマンチックな曲が好きです。

 そしてドビュッシーの『月の光(3)』。

 こんな曲がうまく弾けるようになりたいと思いながら聞いていました。

 ですが子供の頃は、クラシックよりもテレビが好きでした!

 家の居間にアップライトピアノがありまして、その隣がテレビだったんです。父はプロ野球が好きでして、夜の7時から9時は必ず巨人戦を見ているという感じでした。そんな家庭で育ちました。

 あまり音楽的環境とはいいがたいところでして。ピアノも好きでしたが、実はテレビっ子だったんです。

 小学校の頃好きだったのは榊原郁恵さんでして。『夏のお嬢さん(4)』とか有名な曲がありますが、『ナッキーはつむじ風』というドラマがありまして、それをよく見てましたね。

 岩崎宏美さんは、歌のお上手な本格派のイメージありましたね。あのコロッケさんがモノマネする曲ではなくて『ロマンス(5)』ですか。あの曲はとても印象に残ってます。

 あと松本伊代さんがテレビの『ザ・ベストテン』で17歳になったというんで、『センチメンタル・ジャーニー(6)』の歌詞の♪16だから♪を17歳バージョンで歌ったのはよく覚えていますね。

◎クラシックピアノよりアイドルときてテクノ!

 ですから『センチメンタル・ジャーニー』といえば、ジャズの曲ではなくて“松本伊代”になってちゃうんですね。音楽的な影響はまったく受けてないんですが…。

 男性のアイドルですと、西城秀樹さんの『ヤングマン(7)』とか、小ちゃかったですけど、テレビでよく見てました。コメディーとかもされてたり……『カックラキン大放送!!』ですか、はい。カッコよかったです。

 あと4つ上の兄がいたんですが、兄が買ってきたレコードを一緒に聞いたりしてまして。最初に聞いて覚えているのは寺尾聰さんの、『シャドー・シティ(8)』。

 ただ、兄が買ったレコードで一番影響を受けたのはYMO! 小学校高学年の頃はYMOブームでして。『テクノデリック(9)』というアルバムの中の『体操』という曲。プロモーションビデオではYMOの3人が体操服を着てまして、それはカッコ悪いんですが、音楽がカッコいいので、3人がカッコよく見えるという…。

 カッコいい人が、カッコ悪いことをすると、逆にもっとカッコいい。そういう感じには憧れました、はい。

 カッコいいといえばロックですが、ロックはほとんど聞いてませんでした。ただ幼稚園の頃、ビートルズの曲が『ひらけ!ポンキッキ』で流れていたのはよく覚えてます。

 コミカルな映像に合わせて♪カモン、カモン♪という……『プリーズ・プリーズ・ミー(10)』ですか。

 でもその後に、ビートルズよりも印象に残っているグループと出会いまして、それがモンキーズなんです。

 テレビ東京で『ザ・モンキーズ・ショー』が放映されまして、当時再放送だったんですが、小学生の間でモンキーズが大流行しまして。

 それで『モンキーズのテーマ(11)』とか入ってるLPも買いましたね。

 本当にテレビから音楽を聞いてましたんで、ロックというとモンキーズと、あとゴダイゴですか。ドラマの『西遊記』のテーマソングの『モンキー・マジック(12)』が好きでした!

 そしてテレビといえばやはり『太陽にほえろ!(13)』ですね。

 井上堯之バンドの大野克夫さんが作られたテーマ曲。当時は“堯之”という字を“たかゆき”って読めないで、わからないままでしたが……。

 でも大野克夫さんよりも、もっと影響を受けたのは、再放送で見ていた『ルパン三世(14)』の音楽を担当されていた大野雄二さんでして……。

 私よりも年上の方は『ルパン』でも第1シリーズがイイっていうのですが、私が音楽的に好きなのは第2シリーズなんです。

 大野雄二さんはジャズの方ですので、第2シリーズの音楽は特に大野さんのすばらしさがアニメの中で際立っていて、カッコいいんです。

 後になって思うと、私の音楽にもそういうところから影響を受けているんですね。当時はビデオも一般的でなかったですから、全然忘れているんですよ。それが30代くらいになって、改めて見てみると、知らない間に染み込んでいるんですね。

あの新垣さんにカーツが斬り込む!

あの新垣さんにカーツが斬り込む!

◎ラジオのエアチェック&映画音楽に没頭

 あと影響を受けたといえば、ジョン・ウィリアムスの映画音楽もスゴかったですね。完全にオーケストラでしたし。何といっても小学2年で『スター・ウォーズ(15)』。3年の時に『スーパーマン(16)』でしたから。

 実はレコードあまり持ってないんです。中学に入るとラジオをよく聞くようになりまして。ラジオの曲をカセットに録音していた時代ですね。エアチェックです、はい。

 FM雑誌もよく読みました。小学館さんは『FMレコパル』がございましたが、でも私は……すみません、『FMファン』が好きでして(苦笑)。

 あの、いろんなジャンルがゴタマゼなところが、なんかすごく良かったんですね。

 中学校の全体集会で坂本龍一さんの『戦場のメリークリスマス(17)』を弾いたこともありました。

 何で弾くことになったかわからないんですが、全生徒の前で弾きましたんで、ちょっとカッコつけたりして。

 それでモテたか? 全然ダメでした。がんばったんですけど……。

 その頃、偶然FMで聞いてしまった曲に、現代音楽家のジョン・ケージの曲がありました。ピアノの弦にいろんなモノを挟みまして、音を変えてしまうという。

 バリ島のガムラン音楽にも似たような、おもしろい音色で、

「これは、何だ!?」

 と。ピアノの弦にゴムやネジといったいろいろなモノを挟むことを“プリペアドピアノ”といいまして、いろいろな曲があるのですが、『ソナタとインターリュード(18)』というのがおすすめです。

 その後はジャズも聞いたり。特にビル・エヴァンスのピアノはすてきで、いいなって思いましたね。

 でも、こうやって曲を思い出してみると、私の今の音楽は80年代前半あたりの音楽に、ジャンル問わずに完全に影響を受けてますね。今、確信いたしました、はい。

--新垣サンが影響を受けた音楽を聞けば、誰でも彼のような天才音楽家になるか? それはまた別の話である。

《新垣さんセレクト 聞かずに死ねるか! 18選》

『別れの曲、幻想即興曲ショパン・ピアノ名曲集』
(1)『別れの曲、幻想即興曲ショパン・ピアノ名曲集』

新垣サンが小学校時代に驚愕を受けた『幻想即興曲』を含むショパンのピアノ名曲集。演奏・ケンプ、ボレット、カッチェン、アシュケナージ。(ユニバーサルミュージック)

『ベートーヴェン・四大ピアノソナタ集』
(2)『ベートーヴェン・四大ピアノソナタ集』

小学生がロマンチックを感じてしまった『月光』を収録。大人も聴くべき。演奏・ウィルヘルム・バックハウス。(ユニバーサルミュージック)

『ドビュッシー・ピアノ名曲集』
(3)『ドビュッシー・ピアノ名曲集』

こんな曲が弾けるようになりたい、天才だったらそう思う。『月の光』を含む。演奏・パスカル・ロジェ。(ユニバーサルミュージック)

『夏のお嬢さん/榊原郁恵』(1978)
(4)『夏のお嬢さん/榊原郁恵』(1978)

とにかく元気!そしてボイン(当時の表現)。弾ける魅力炸裂のヒットナンバーに新垣サンはノックアウトされてしまった。(※)

『ロマンス/岩崎宏美』(1976)
(5)『ロマンス/岩崎宏美』(1976)

『スタ誕』出身歌手では森昌子以来といわれた圧倒的歌唱力と伸びやかな声質。音楽的才能にいち早く気付きファンに。(※)

『センチメンタル・ジャーニー/松本伊代』(1981)
(6)『センチメンタル・ジャーニー/松本伊代』(1981)

音楽的には何の影響も受けなかったが、テレビの時代の申し子で、当時、そのパフォーマンスには大いに影響を受けた。(※)

『YOUNG MAM(Y.M.C.A)/西城秀樹』(1979)
(7)『YOUNG MAM(Y.M.C.A)/西城秀樹』(1979)

ワイルドさ爆発、男の中の男・秀樹が魅せるジャンプスーツのイカした世界!日本中がYMCAを踊る。もちろん新垣サンもYMCA!(※)

『シャドー・シティ/寺尾聰』(1980)
(8)『シャドー・シティ/寺尾聰』(1980)

『ルビーの指環』は大ヒットしたが、この曲はルビー以前にリリース。引きずられてヒットした、いわくつきのこの曲がお気に入り。(※)

『テクノデリック/イエロー・マジック・オーケストラ』(1981)
(9)『テクノデリック/イエロー・マジック・オーケストラ』(1981)

YMO6枚目のアルバム。新垣さんいわく、カッコ悪くするところが逆にカッコよかった『体操』が収録。再発盤あり。(アルファ)

『プリーズ・プリーズ・ミー/ザ・ビートルズ』(1962)
(10)『プリーズ・プリーズ・ミー/ザ・ビートルズ』(1962)

ビートルズ2枚目のシングル。全英ヒットチャート1位を記録。同じ写真を使用したベストアルバム、通称・赤盤は今も根強い人気がある。

『モンキーズ/ザ・ベスト』(1979)
(11)『モンキーズ/ザ・ベスト』(1979)

新垣サンが小学生時代に体験したモンキーズリバイバルブーム時に発売されたベスト版。『モンキーズのテーマ』他ヒット曲満載。(※)

『モンキー・マジック/ゴダイゴ』(1979)
(12)『モンキー・マジック/ゴダイゴ』(1979)

堺正章主演のテレビドラマのテーマソングとして大ヒットしたシングル。この曲を含むアルバム『西遊記』は現在も発売中。

『太陽にほえろ!オリジナル・サウンドトラック 70’sベスト/大野克夫』
(13)『太陽にほえろ!オリジナル・サウンドトラック 70’sベスト/大野克夫』

マカロニが、ジーパンが、瞼の裏に甦り、鼻唄唄いたくなるメロディーの数々!(ユニバーサルミュージック)

『ルパン三世 オリジナルサウンドトラック/ユー&エクスプロージョン・バンド』(1977)
(14)『ルパン三世 オリジナルサウンドトラック/ユー&エクスプロージョン・バンド』(1977)

新垣サンイチ推しの『ルパン三世』第2シリーズのシングルサントラ。ユー&エクスーバンドは大野雄二氏のバンド。再発盤あり。

『スター・ウォーズ オリジナルサウンドトラック/ジョン・ウィリアムス』(1977)
(15)『スター・ウォーズ オリジナルサウンドトラック/ジョン・ウィリアムス』(1977)

ジョン・ウィリアムスが自ら指揮し、ロンドン交響楽団が演奏。アカデミー作曲賞を受賞。現在はアンソロジー盤など様々なCDあり。

『スーパーマン オリジナルサウンドトラック/ジョン・ウィリアムス』(1978)
(16)『スーパーマン オリジナルサウンドトラック/ジョン・ウィリアムス』(1978)

アメコミ超大作映画化の原点。どんな時でもグッと勇気が湧き上がる旋律。心が折れた新垣さんをこの曲が元気づけた。再発盤あり。

『戦場のメリークリスマス Merry Christmas Mr.Lawrence -30th AnniversaryEdition-/坂本龍一
(17)『戦場のメリークリスマス Merry Christmas Mr.Lawrence -30th AnniversaryEdition-/坂本龍一』

誰もが知ってるあの名曲の30周年記念盤。未発表バージョンも収録の2枚組。英国アカデミー賞作曲賞受賞。(ミディレコード)

『ソナタとインターリュード/ジョン・ケージ』
(18)『ソナタとインターリュード/ジョン・ケージ』

アメリカの前衛音楽家、ジョン・ケージの実験的代表作。世界中の様々な音楽家たちにより、複数のアルバムが発売されている。

※は、すでに廃盤となっておりますが、ベスト盤などで聴くことができます。

取材・文/カーツさとう
撮影協力/レストランバー『銀座サンク』