日本ラグビーのカリスマ 清宮克幸監督に聞く
■2015W杯 ジャパンの勝算(後編)

 前編では「ラグビーは戦略性のスポーツ」と語る清宮克幸監督が、自ら率いるヤマハ発動機と、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が率いる日本代表の戦略・戦術やチーム作りなどを比較しつつ、持論を展開した。後編では、ベスト8という目標を掲げる日本代表がワールドカップの予選プールで、それぞれどう戦うのか、そして、プロ監督である清宮氏の2019年に日本で開催されるワールドカップへの思いも聞いた。

―― それでは、日本代表が9月に開幕するワールドカップの予選プールで対戦する相手についておうかがいします。まず、日本代表は初戦で、史上初めて南アフリカ代表と対戦します。

清宮 初戦の南アフリカ代表戦は、互いに大会の1試合目なので、両チームともベストメンバーを組むでしょう。日本も良い試合ができると思います。ジョーンズHCには南アフリカ代表に「勝つ」と言ってほしいですね。僕は、チャンスは必ずあると思っている。フィジカル勝負で圧倒的に負けて、相手の勢いを止められなかったらしょうがないですけど、そんなにフィジカルの差はないと思っています。

―― 2試合目は、中3日でスコットランド代表と対戦します。

清宮 僕は中3日という悪影響はないと思っています。前からわかっているし、気持ちも入っていますし、準備もしているはずです。選手たちは何とか頑張れると思いますよ。
 スコットランド代表はシックスネーションズ(※1)からどのくらいチームが成長しているか、ですね。いろんなことをやろうとしていた印象がありますし、ワールドカップでも、もしそうだったら逆にチャンスです。ただ、本番は伝統的な強みを出して、シンプルに戦ってくると予想しています。そうなると日本代表にとっては結構、しんどい展開になります。
 しかし、日本代表がスコットランド代表に勝つことになれば、1989年に日本代表がスコットランドXV(※2)に勝利したように、その勝利にはラグビーの魅力が散りばめられているような試合になるはずです。そして、最後は攻められていても、我慢してしっかり止めて勝つでしょう。
※1 イングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズ、フランス、イタリアのヨーロッパの強豪6カ国が参加して、毎年行なわれる国際ラグビー大会
※2 スコットランド選抜。キャップ対象外の国際試合を意味する

―― 予選プール3戦目は中9日空いてサモア代表戦です。

清宮 サモア代表戦は、どちらに転んでもかなりポジティブに戦えそうですね。2連敗していても開き直ればいいわけだし、初戦、2戦目で勝利していれば...。もう説明は要りませんね。やはりワールドカップの大舞台なので、選手たちは一つ一つの試合に対して、命がけで戦おうとするでしょう。2試合目までがすべて、というのは指揮官側の話であって、日本ラグビーとしてはサモア代表に勝ったとしても、ものすごく大きな意味を持つし、世界的なニュースになります。最後のアメリカ代表戦だって、アメリカ代表はセブンズのワールドシリーズで優勝するくらいですから、怖い存在です。

―― FB(フルバック)五郎丸歩選手、CTB(センター)マレ・サウ選手と日本代表に選出されているヤマハの選手に期待することは?

清宮 五郎丸は日本代表で、一番顔と名前が知られている選手であることには間違いないですし、本人もそこは認識しているはずです。しっかり責任感のある仕事はしてくれると思います。彼は外から認められたことが一番の成長につながりました。そういう意味ではジョーンズHCが彼を選出したことが、彼を成長させた要因の一つになりました。
 サウだけはスペシャルな存在です。跳ねて消えてしまうようなステップを踏んでいた若さは、もうありませんが、ここ一番の集中力でチームを支えることでしょう。コンディションが悪くなると、どうしてもパフォーマンスが落ちてしまうので、ワールドカップから帰ってきたら、(ヤマハでの活躍は)あまり期待できないと思います。仕方がないところですね。

―― ジョーンズHCは、ワールドカップの目標をベスト8と言い続けています。

清宮 良いことだと思います。それほど時間とお金をかけてきたことですし、今シーズンは国内リーグ戦を半分にするということも許容しているわけですから。目標を達成すれば、(次回ワールドカップ開催の)2019年まで日本ラグビーをリードしてくれればいいし、もし、逃したら潔く去るべきだと思います。
 日本ラグビーに必要なことは、誰がどうやって代表監督を評価するのかという部分です。事前に、ルールと責任を決めておかないとおかしなことになりますよね。

―― 日本代表がベスト8に進出しなければ、日本協会はジョーンズHCを解任した方がいいのでしょうか?

清宮 僕は日本代表がワールドカップでベスト8を目標とすることは、当たり前だと思っています。そうでなければ、現状のさまざまな強化策との整合性がとれません。トップリーグへの大きな負担、選手の拘束時間世界一、世界一の給料、目標未達のときははっきりと解任すべきです。

―― ということは清宮監督も条件が整えば、2019年日本で開催されるワールドカップで日本代表監督としてチャレンジしたいと思っているのでしょうか?

清宮 日本代表の監督とは、立候補してなれるものではなく、選ばれて就任するものです。

―― 改めて、2015年のワールドカップを戦う日本代表に期待することは?

清宮 日本人は、やはり「サムライ魂」といったような気持ちで臨むことになるでしょう。エンジョイなんて誰も言わないでしょう。そういうところから生まれるプレーにファンは感動すると思います。体を張ってタックルしたり、セービングしたり、最後に気持ちで押し込みながらトライするようなところを見たい。そして、最後はタックルです。魂のこもったタックルを日本のファンが期待しています。
 ワールドカップでは、日本人の可能性を存分に見せて、「俺たちにもできる」それを証明してほしい。日本代表の躍進に期待しています。

 ヤマハを初の日本一に導いた清宮監督は、将来の日本ラグビーを考慮し、2015年のラグビーワールドカップの結果が持つ大きさを鑑(かんが)み、冷静かつ情熱を持って厳しい意見も述べたはずだ。サントリー時代から旧知の仲である、日本代表のジョーンズHCに対してはプロフェッショナルな指揮官として、尊敬しつつも、どこかライバル心のようなものも感じられた。清宮監督が言うように「日本のラグビー界の未来」がかかったラグビーワールドカップの初戦までもう70日を切った。「ベスト8」という目標を後押しすることはもちろん、ラグビーファン、ラグビーに関わるものたちの願いは、まずは24年ぶりの白星である。

【profile】
清宮克幸(きよみや・かつゆき)
1967年7月17日、大阪府生まれ。茨田高―早稲田大―サントリーでプレー。高校、大学、社会人、各チームで主将を務め、リーダーシップを発揮した。2001年に早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、3度の大学日本一に導く。その後、2006年サントリー監督に就任して、2年目にマイクロソフトカップ優勝。2011年にヤマハ発動機監督に就任。トップリーグ降格の危機に瀕していたチームを立て直し、2014〜15シーズン日本選手権を制覇

斉藤健仁●文 text by Saito Kenji