レッドブル・エアレース2015・前半戦を振り返る

写真拡大

全8戦で行われるレッドブルエアレース2015年シーズンも、7月4日・5日の第4戦ブダペスト大会で前半戦が終了、シーズンも折り返し点を迎えました。ここで前半戦のトピックスをいくつか取り上げて、振り返ってみましょう。

【関連:日本初開催! レッドブル・エアレース千葉大会(日曜日・決勝レース編)】

■世界遺産で行われたブダペスト大会

7月5日に決勝が行われた第4戦ブダペスト大会の舞台は、世界遺産に登録されているハンガリーの首都ブダペスト旧市街のど真ん中。
ドナウ川にレーストラックが設定され、ブダペストのシンボルであるセーチェーニ鎖橋(桁下高10.8m)をくぐってスタートするという独特のロケーションです。ここでレースが行われるのは2009年シーズン以来。その時の勝者はマイケル・グーリアン選手でした。

ブダペストのレーストラック(画像:Red Bull)

ブダペストのレーストラック(画像:Red Bull)

市街地の真ん中を流れる川の上とあって、トラックレイアウトは直線的なもの。2004年〜2009年まではセーチェーニ鎖橋がスタート・ゴールゲートを兼ねていましたが、今回は別個にゲートが作られました。直線的でスピードが出やすく、折り返しでのオーバーGに気をつけるという点で、特性としては千葉大会に似た感じです。ただし、開けた海岸線沿いに作られた千葉と違い、トラック両端を橋でふさがれている為に、折り返しのターンはさらにシビアです。前回行われた2009年の際は、オーバーGの基準が現在(2014年シーズン以降)の10Gではなく、12Gまで許容されていたので、今回のレースでは折り返しのターン(ゲート5・9・13)が大きなポイントとなりました。

実際のレースでは、ヨーロッパを襲った猛暑で気温が35度を超える場面もあり、いかにエンジンを冷却して性能を低下させないか、という戦いも。トラック攻略面では、目の前に迫る橋を意識しすぎるがゆえに、なるべく早くターンしようという心理が働いたせいか、横方向のハイGターンを行うゲート5と13「マルギット島ターン」でインコレクトフライトレベル(ゲート通過中にターンを始めてしまい、水平姿勢でなくなる)、宙返りして方向転換(ハーフ・キューバンエイト)を行うセーチェーニ鎖橋側の折り返し点、ゲート9「チェーンブリッジ・ターン」で高度超過(ゲート通過中に宙返りを始めてしまって高くなる)のペナルティ(決勝ではチャンブリス選手・ベラルデ選手・グーリアン選手・ドルダラー選手)、そして折り返しターンでのオーバーG(決勝ではラム選手の2回とイワノフ選手)が目立ちました。

▼レッドブル・エアレース第4戦 ブダペスト大会ダイジェスト
https://www.youtube.com/watch?v=t1iTmARYHZg

予選1位は、ただひとり58秒台(58秒323)のスーパーラップをたたき出したマット・ホール選手(オーストラリア)。直前まで室屋義秀選手が59秒011でトップに立っており、第3戦ロヴィニ大会(ポール・ボノム選手が予選1位)同様、予選1位の座がスルリと逃げていってしまいました。

決勝では、ラウンド・オブ14でホール選手が再び58秒400というスーパーラップを出して、2009年ブダペスト大会の勝者グーリアン選手に勝利。室屋選手は1分2秒279で、マティアス・ドルダラー選手(ドイツ)に0秒207及ばず敗退。ボノム選手(イギリス)に敗れたマルティン・ソンカ選手(チェコ)のタイムが1分1秒088でファステストルーザーになったので、ここで9位が確定しました。

これは次元の違う速さを見せるホール選手初優勝か……というムードになったものの、好事魔多し。ラウンド・オブ8でソンカ選手に0秒183という僅差で破れるというサプライズ。本人もレース直後
「参ったね。何が起きたか判らなかったよ。どこのターンでタイムロスをしたのか……後で検証してみるよ」
とコメントしていたくらい。ホール選手は5位に終わりました。
ブダペスト大会を制したのは、ハンネス・アルヒ選手(オーストリア)。第3戦ロヴィニ大会に続いて連勝となりました。2位はポール・ボノム選手、3位マルティン・ソンカ選手という結果に。

■新ルールがもたらすスリリングな決勝レース

さて、2015年シーズンから決勝のルールが大きく変わりました。2014年までは、3ラウンド制なのは変わりませんが、それぞれタイム上位が次(スーパー8、ファイナル4)に進むというシステムだったのに対し、ファイナル4は変わらないものの、緒戦のラウンド・オブ14とラウンド・オブ8で「ノックアウト(対戦)形式」が採用されたのです。

これにより、旧来は「とにかくいいタイムを出して上位に食い込む」という形でレースに臨んでいたパイロットは、ノックアウト形式により「対戦相手より速く飛ぶ」ことになり、見る側にとっては判りやすく、ゲーム性が高まりました。パイロットにとっては、相手を意識しながら飛ぶことになって、その心理戦的側面からミスが出たりして、思わぬ形で勝負が決することが出てきました。

第2戦千葉大会、ラウンド・オブ14でトラックレコードをマークした室屋選手が、ボノム選手と対戦したラウンド・オブ8でオーバーGの為にDNF(ゴールせず)となったのも、ボノム選手のプレッシャーが影響していたと言えます。第4戦のブダペスト大会でも、ファステストルーザーから勝ち上がったソンカ選手がホール選手を破る番狂わせがあり、そのままソンカ選手は表彰台を獲得しています。残り4戦でも、組み合わせによるおもしろい勝負が期待できそうです。

■ホール選手の「本格化」で、シリーズチャンピオン争いは三つどもえに

今季、特筆すべきなのがホール選手の素晴らしいパフォーマンスです。愛機MXS-Rに大きなウイングレットを装着し、速さが際立つようになりました。まだ勝利はないものの、第1戦〜第3戦まで2位・2位・3位という成績を残し、29ポイントで現在チャンピオン争いの2位タイ。トップは第1戦アブダビ・第2戦千葉を連勝し、第4戦ブダペストでも2位となったボノム選手(34ポイント)。第1戦アブダビで4位、その後第3戦ロヴィニと第4戦ブダペストを連勝したアルヒ選手も、29ポイントで2位タイにつけています。これまでの実績から「2強」と目されていたボノム選手とアルヒ選手との間に、ホール選手が割って入る形になり、シリーズチャンピオン争いがおもしろくなってきました。

ポール・ボノム選手

ポール・ボノム選手

ハンネス・アルヒ選手

ハンネス・アルヒ選手

マット・ホール選手

マット・ホール選手

■コーバスの退場と、ベゼネイ選手復活の兆し

レッドブル・エアレース創設者のひとりである「ゴッドファーザー」ピーター・ベゼネイ選手が、第3戦ロヴィニ大会を終えた際のインタビューで、気になる発言をしていました。

ピーター・ベゼネイ選手

ピーター・ベゼネイ選手

「(今使っている)ハンガリーの機体、コーバスレーサーは、個人的には好きな機体だし、エアロバティック機としては非常に優れていると思う。……ただ、レッドブル・エアレースには向いていないような気がするんだ。このレースに関しては、エッジ540の方が優れていると思う」

レッドブル・エアレース専用に設計された唯一の機体として、2010年シーズン途中にデビューしたコーバス・レーサーでしたが、実質的なベゼネイ選手専用機という存在だった為、2010年シーズンが途中で打ち切られ、その後2014年に再開されるまで開催がストップしていたこともあいまって、開発・熟成に苦労していました。2009年にデビューしたMXS-Rは、2006年から参戦していたMX2の発展型と言える機体だった上、メーカーのMXエアクラフトの全面サポートのもと、複数のパイロットがデータを共有しながら開発を進めた(2010年からメーカーサポートがなくなる)為、デビューシーズンから表彰台を獲得するほどの戦闘力を発揮したのと対照的です。

はたして第4戦ブダペスト大会、ベゼネイ選手のハンガーには、エッジ540V3の姿がありました。2009年以来の母国開催で、初めてハンガリー製の機体が舞う……という姿を期待していたであろうブダペストのファンは残念だったでしょうが、ベゼネイ選手も「トラブルに悩まされることなくレースがしたい」という苦渋の選択だったようです。

「まだ調整が不十分」ということだったようですが、レースでは予選10位からラウンド・オブ8に進出、最終的に7位に入りました。2006年〜2008年シーズンでV2を使用していたので、再びのエッジ540だった訳ですが、このパフォーマンスでまだまだ健在であることを証明したといえるでしょう。調整が進むシーズン後半に注目です。

■室屋選手「V3.5」の衝撃

室屋選手が第2戦の千葉大会から投入したニューマシン、エッジ540V3。大胆なリファインが施され、俗に「V3.5」とも言われる機体ですが、その名に違わぬ速さを見せつけています。デビュー戦となった千葉ではトラックレコードをマーク、その後のロヴィニ、ブダペストでも予選2位となるなど、スピードのポテンシャルは非常に高い機体です。ただ、その速さゆえか室屋選手の感覚と微妙なズレがあるようで、まだ完全に「人機一体」の境地には至っていないようです。しっかりハマると非常に速い機体なので、機体に習熟するシーズン後半に期待です。

室屋選手のエッジ540V3

室屋選手のエッジ540V3

■各パイロットの機体改修

2014年シーズンからエンジンとプロペラの改造(チューンナップ)が禁止された為、各チームでは機体の改修に注力しています。機体の軽量化と空気抵抗の減少が主な目的で、少しでも速度を落とさないように……という考え。キャノピーの小型化(室屋選手やグーリアン選手)、エンジンカウルのスリム化、そして主翼に発生する翼端渦の誘導抗力を軽減する為のウイングレット(ラム選手とホール選手のMXS-R)やウイングチップ(ドルダラー選手とベゼネイ選手のエッジ540V3)が代表例です。エッジ540の方でもウイングレットを装着すればいいのに……と素人考えで思ってしまいますが、MXS-Rの方がしなやかで強い翼を持っている為に、大きく重いウイングレットの重量と空力荷重に耐えられる、ということだそうです。エッジ540では、ドルダラー選手やベゼネイ選手のウイングチップの大きさが限界に近いようですね。

また、2014年のシリーズチャンピオン、ナイジェル・ラム選手は第3戦のロヴィニ大会から、水平尾翼の昇降舵を小さくしました。これにより、二つの効果が期待できます。

・操舵時にかかる空気抵抗の減少

・昇降舵自体の軽量化

操縦感覚としては「舵が軽くなる」形になり、操縦時のレスポンスが向上します。もちろん、昇降舵の面積が小さくなる為に「舵の効き」は悪くなるのですが、素早く動かせる分で十分カバーできる、という考えなのでしょう。

また、室屋選手やベゼネイ選手、ボノム選手などは、エンジンカウルに空気取り入れダクトを増設したり、エンジンルーム内に導風板を設けて冷却用の空気の流れをコントロールし、各気筒やオイルクーラーをムラなく冷やして、熱さによるエンジン性能の低下を防ぐ工夫もしています。室屋選手はブダペストから暑さ対策として、新しいエンジン冷却システムを導入したので、猛暑となっているイギリスで行われる、8月のアスコット大会でも効果を発揮することでしょう。

■次は「イギリス王室の競馬場」でのレース

8月15日(予選)・16日(決勝)に予定されている第5戦、イギリス・アスコット大会の会場となるのは、イギリス王室が所有するアスコット競馬場。イギリス社交界の一大イベントである、王室主催の「ロイヤルミーティング(ロイヤル・アスコット)」や、7月下旬に行われる夏の大レース「キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス」で知られる競馬場です。映画『マイ・フェア・レディ』でも有名ですね。このスタンド前、芝コースの内側から離陸し、広大な競馬場や、隣接するゴルフ場の敷地に設置されたレーストラックを飛び回ります。2014年のレースでマルティン・ソンカ選手が飛んだ際のコクピット映像で見てみましょう。

▼2014年アスコット大会、ソンカ選手の飛行(コクピット映像)
https://www.youtube.com/watch?v=PME5NCQyMwg

緑の多い、素敵なロケーションであると同時に、複雑でテクニカルなコースであることが判ると思います。恐らく今年のトラックレイアウトも、これとあまり変わらないものになると思われるので、8月を楽しみにしていてくださいね。

○レッドブル・エアレース公式サイト
http://www.redbullairrace.com

(文:咲村珠樹)