日本ラグビーのカリスマ 清宮克幸監督に聞く
■2015W杯 ジャパンの勝算(前編)

 ラグビー界の「勝負師」と名高い清宮克幸氏。早稲田大、サントリーに優勝をもたらし、2011年からヤマハ発動機の監督に就任。苦節4年、今年2月の日本選手権で優勝し、創部史上初となる日本一に導いた。そんな清宮監督に自チームの強化についてはもちろんのこと、サントリー時代から知るエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が率いる日本代表の現状、そして9月に開幕するワールドカップついてどのように戦うべきかを語ってもらった。

―― 早稲田大、サントリー監督を経て、2011年にヤマハ発動機ジュビロ(以下ヤマハ)の監督になりました。そしてトップリーグは就任以来8位、6位、5位、4年目の昨シーズンは準優勝、さらに続く日本選手権で優勝してヤマハを初の日本一に導きました。

清宮:6月3日に浜松駅前のホテルで、公式祝勝会という創部以来の大きな、名実ともに日本一のパーティーをしてもらい、これで「一区切り」がつき、みんなが次に向かっていく意識になりました。今シーズンのスローガンも、変わらず「ヤマハスタイル」です。
 突然、何かが伸びたわけではなく、やろうとしていることを選手たちが理解し、それがうまく連動できるようになりました。1、2年目は目の前にあるやらなければいけない基本的な事柄を追いかけるのが精一杯でした。3年目から、ヤマハの戦い方が明確になったことと、選手たちの成長のスピードがリンクしました。特に、昨シーズンの後半から明らかにチームが変わりましたね。日本選手権の決勝では自信を持って戦う選手たちが頼もしく、安心と感心を持って試合を観ていました。

―― 2010年度、ヤマハは入替戦に回っていました。そういうチームを率いることは清宮監督にとって新しいチャレンジだったのではないでしょうか?

清宮:特別なチームの監督になったということはありませんでした。ただ、私にチャレンジする場所を与えてくれたという方が大きかったです。
 そして、こんなに面白い4年間はありませんでした。1年目のシーズンは「入替戦に回った11位のチームが優勝するなんて、ヤマハにしかできないぞ」と。2年目も「8位から優勝できたら最高だな」と言っていました。常に日本一というところを意識して、戦うことができていました。実際のところ、1年目と2年目はトップ4との差を感じていましたが、3年目くらいから、差がないと感じていましたね。
 
―― 清宮監督は「ラグビーは戦略性のスポーツ」とおっしゃっていて、勝つための大きな要素としてヤマハのスクラムを強化しました。

清宮:ヤマハは総合力で比較すると、他チームの選手たちに勝てない。だけど、自分たちの強みを全面に出せたときは、どのチームよりもいいパフォーマンスが出せるということを、日本選手権の優勝で証明することができました。ふつうに考えると、身長が190センチで100メートルを11秒台で走る13番(センター)がいるチームが有利ですが、168センチの13番がいるようなチームも勝てるところがラグビーの魅力の一つです。
 こういったことは、日本代表が世界に勝つチームを作ることにつながるかはわかりませんが、チームが大切にしているもの、スタイルを守り切る意識、覚悟のようなものが必要です。ヤマハにとってはそれがスクラムです。これだけは絶対に譲れないものがあるから、チームに芯ができるという考え方です。
 日本代表では、今、元フランス代表のマルク・ダルマゾがスクラムを指導していますが、ワールドカップではスクラムの強いジョージア(グルジア)などと対戦しないので、日本代表はスクラムの強化にそれほど時間をかけていないように思えます。つまり、一年中スクラムを考えている選手はほとんどいないということになりますね。対戦相手によって強みを変えていくのは、自分たちのスタイルではありません。ヤマハは最初からチーム作りの根っことして絶対スクラムでは負けない、スクラムを軸にチームを作っていくと決めました。

―― ヤマハでは、日本代表にも選出されていたSH(スクラムハーフ)矢富勇毅選手、SO(スタンドオフ)大田尾竜彦選手のハーフ団がチームを引っ張りました。

清宮:日本代表のエディー・ジョーンズHCはトップリーグのラグビーを「スローなラグビー」と言っていますが、ヤマハのラグビーはハーフ団にすごく負担をかけています。そして、彼らがいかにゲームをコントロールするかが大きなポイントになっています。シーズン終盤は彼らの判断、パフォーマンスが試合を決めたところがありますね。ハーフ団が動き回り、ボールが大きく動いているラグビーと、狭いエリアでボールキープを念頭に入れたラグビー、見ていてどちらが退屈なラグビーかは明らかです。それを日本代表の指揮官が「スロー」と評したことは残念でした。
 話は2人の選手に戻りますが、彼らは間違いなくベストシーズンを過ごしましたね。そしてなぜそれができたかというと、ヤマハスタイルがあったから、という返答が的確だと思います。
 先日のスーパーラグビー(※)決勝は、プレー間のスピードが一段と早くなり、見ていて痛快なラグビーでした。ラグビーが新しい時代に突入したかのようでした。
 あのスタイルからは学ぶべきものが多くありますね。しかし、インプレーの時間を増やせば必ず強くなれるのかという疑念は持ち続けるべきでしょう。物事には「起承転結」があるから面白いし、そこに魅力があるのです。ストーリーが必要なんです。
※南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアの3カ国、計15のクラブチームによるラグビーの世界最高峰リーグ。毎年2月から7月まで行なわれている。2016シーズンから、南アフリカチーム、日本チーム、アルゼンチンチームの参戦が決定し、18チームで争う

―― それでは、清宮監督は今の日本代表をどのように見ていますか?

清宮:6月の合宿では1週間ごとにワールドカップで対戦する相手を想定して、練習していたようですが、ジョーンズHCはそういうところは長(た)けている。取り組んだことはきっちりと結果を出すことができるでしょう。

―― ボールをキープし続けてアタックすることだけでなく、春シーズンからは日本代表はワールドカップを想定して、キックを蹴るようになってきました。

清宮:ちょっと古いラグビーをしていたので、それをモダンにしようとした結果じゃないかと。自分たちがやってきたことに良い面でも悪い面でも慣れが生じたのでしょう。戦術的な部分でいくと、15人の選手がコンパクトにまとまってポジショニングを取るのが「ジャパン・ウェイ」です。そこからキックを使うということになると両端にいる11番と14番(ウィング)らの位置が変わってきて、今までの「ジャパン・ウェイ」が破綻してしまう。得るものもあれば、失うものもあるわけです。
 そこで、自分たちのスタイルを失ってしまうことが怖い。相手によってはゲームプランを変える準備をしているようですが、それが迷いにならないかは心配ですね。

―― そんなジョーンズHCは、一貫してアタッキングラグビーを掲げています。ワールドカップでの見どころは?

清宮:ジョーンズHCのコメントが最終的にワールドカップでは全ての試合をベストメンバーで臨むと腹をくくったようでホッとしました。前回大会(2011年)のような2チーム制はやってはいけない。日本代表のアタックの精度は高く、相手チームを翻弄できるはずです。ただし、それをやり切れるかどうか? ワールドカップのプレッシャーに負けないか? が大事でしょう。
 最初の2試合は本当に楽しみです。これまでの取り組みが試されるわけですから。もし、連敗しても選手たちはやり切るしかありません。ワールドカップです。ベスト8に入れなくて落胆するのは監督、コーチです。選手たちは迷いなく戦っていけばいい。勝利したら何が変わるか? 変えましょうよ。それはもう国中を挙げての大騒ぎでしょう。
 そういった意味ではワールドカップは、予選プール4試合のそれぞれに見どころがあると思います。
(後編に続く)

【profile】
清宮克幸(きよみや・かつゆき)
1967年7月17日、大阪府生まれ。茨田高―早稲田大―サントリーでプレー。高校、大学、社会人、各チームで主将を務め、リーダーシップを発揮した。2001年に早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、3度の大学日本一に導く。その後、2006年サントリー監督に就任して、2年目にマイクロソフトカップ優勝。2011年にヤマハ発動機監督に就任。トップリーグ降格の危機に瀕していたチームを立て直し、2014〜15シーズン日本選手権を制覇

斉藤健仁●文 text by Saito Kenji