世界の食問題を、建築はいかに解決できるか? 建築家・重松象平がハーヴァード大で試みた考察

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ニューヨークをベースに活動中の建築家・重松象平は、ハーヴァード大学デザイン学部大学院で「食」をテーマとしたスタジオを開設し、学生たちと3年間にわたる研究を行っている。食というレンズを通して、彼は都市・建築にどのような未来を見ているのだろうか? 7月13日発売、雑誌『WIRED』VOL.17のフード特集より全文転載。

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重松象平︱Shohei Shigematsu
建築家。建築設計集団OMAのパートナーおよびニューヨーク事務所代表。主な作品はCCTV(中国中央電台)新社屋、コーネル大学建築芸術学部新校舎、 コーチ表参道フラッグシップストアなど。コロンビア・ボゴタの新都心マスタープランといった都市的規模のプロジェクトから、ケベック国立美術館新館、サンフランシスコやマンハッタンでの高層集合住宅など、世界各地で多岐にわたるプロジェクトが進行中。2013年よりハーヴァード大学デザイン学部大学院GSDにおいて「Alimentary Design Studio」を率いている。

衣・食・住のうち、食にだけは「異質さ」がある

建築設計集団OMA(Office for Metropolitan Architecture)のパートナーであり、ニューヨーク事務所の代表を務める重松象平の元に、ハーヴァード大学から連絡が来たのは2012年のことだった。

「『3年間継続してできる研究テーマを設定して、デザイン学部大学院でスタジオをやってほしい』という依頼でした」

それまでにも重松は、コーネル大学やコロンビア大学の教壇に立ってきた。教えていたのは、もちろん建築デザインだ。

教え甲斐もあるし、自分自身にとってもいい機会になったというが、建築家として知識がストックされたかというと、正直「イエス」とはいえなかったという。

「最近の建築家は、新しいテクノロジーや新しいタイポロジー(類型)と常に接するのですが、いまだに建築の教育は、『図書館をやりましょう、美術館をやりましょう』ということをやっています。

もちろんそういった基礎は大事なことですが、今回は大学院のスタジオなので、何かしら、学生もわれわれも同時に学んで、そのスペシャリストとなって社会に出ていけるようなテーマを設定したいと思いました。それに、3年間継続してやることになるので、すぐにやりつくしてしまうことのない、大きな枠組みを見つける必要もありました」

重松はさらに、建築の教育としては意外性のあるテーマにすることも重視したという。それが、自身がパートナーを務めるOMAの流儀でもあるからだ。

「2002年にレム・コールハースが手がけた、『Harvard Design School Guide to Shopping』というプロジェクトが参考になりました。このプロジェクトでは、ショッピングというテーマを掲げて多角的に研究し、その成果を本にまとめて出版するというOMAが得意とするスタイルを通じて、みんななんとなくでしか捉えていなかった〈建築とショッピングの関係性〉に、新たな視座をもたらしました。

今回のハーヴァード大学でも、そういった〈なんとなくわかっている〉ことに新しい視点を加えられるテーマにしたいと考えたんです。ファッションやツーリズム、あるいはエネルギーといった流行のテーマも考えましたが、最終的に行き着いたのが食でした」

このテーマが有効であるかどうかを検証すべく、まずは重松自身が、食についてリサーチを始めた。


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ArchitectureDesignFoodHarvard UniversityMagazineVol.17

「食」というレンズで都市や建築を見る

「食というレンズで都市とか建築を見たとき、新しい見え方だったり新しい未来への方向性を、みつけることができるのではないかとすぐに感じました。それに、建築ってテクノロジーや都市の変化によって変わっていくといいますが、もう少し違った角度で建築が変われる可能性があるのではないかとも思いました。それくらい、食というのは根本的な問題だなと」

所員とともにさらにリサーチを進めると、衣・食・住という人間の三大要素のうち、食だけが異質であることが見えてきた。

洋服と建築はグローバル化が進み、非常に均質化されてしまっているが、食だけは、グローバル化とエクストリームなローカル化が、同時に起こっているからである。

「例えばワインでいうテロワール文化のように、食には、土や気候の影響によってそこでしかできない食べものが存在します。建築がヴァナキュラーになったらいい、とはいいませんが、これからの建築にもっとそういった要素があれば、面白いのではないかと思いました。

そもそも建築の研究テーマを決めるとき、非常に大きな範囲だけれど、自分だけの特殊な領域を見つけて知識にできるようなテーマを探すことは案外難しいんです。

確かに食のようなテーマを選ぶと、表層的だと批判を受ける可能性はあります。ただ、図書館の建築を突き詰めて勉強したけれど、実際社会に出て図書館の設計に携われる人がどれだけいるのかを考えると、範例ばかりを習うのではなく、テクノロジー系やビジネス系の勉強のように、社会に出たときに自分がなにを武器にして生きていくのかを意識できるようなテーマを学ぶことが大切だと考えました」

当初ハーヴァード大学は、「デザインに長けているOMAのノウハウを学生に伝えてほしい」という思惑をもって重松に声をかけたはずだが、綿密にリサーチした重松のプレゼンテーションを聞くや、即座に食というテーマに共感を示したという。


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発売中の雑誌最新号では、「未来の食糧は深海から生まれる」、「港を変えれば、生鮮食品はもっとフレッシュになる」、「視覚と嗅覚に訴える栄養補給食品をつくれ!」など、重松がハーヴァード大学デザイン学部大学院で立ち上げたAlimentary Design Studioから生まれたアイデアを紹介している。

果たして2013年、ハーヴァード大学デザイン学部大学院の後期セメスターにて、重松が率いる「Alimentary Design Studio」がスタートした。本誌で紹介している9つのアイデアは、これまでの2年間に重松が指導した一部の学生たちの、研究成果というわけだ。

「学生たちは誰もが非常に優秀なのですが、リサーチ力が飛び抜けている人ばかりというわけではなく、半分は慣れていないという印象でした。答えもないまま情報をどんどん掘って集めるのがリサーチだと思っている学生は、間違いなく最初から苦しみます。

リサーチというのは研究と一緒で、仮説を立ててそれに向かって進んでいくものだとぼくは思っています。だから毎年最初の2週間は、仮説を立てられる程度の知識を得るための時間にあてています。

その後、具体的な仮説を立ててリサーチを進めるにあたって、今度は『クライアントを選べ』といっています。リサーチの過程で特殊な状況や面白いプロジェクトを生み出せそうなとき、『あなたのクライアントは誰になりますか?』という視点をもつことで、より具体性のあるプロジェクトになりうるからです」

建築家であるにもかかわらず、重松は、ハーヴァード大学での活動についてこう考えているという。「学生たちには、課題の解決方法として必ずしも建築に落とす必要はないといっています。建築にしてしまうと、どうしてもカタチとか敷地といった、ある種制約された着地点にならざるをえません。みんなをインスパイアさせるような抽象的な問いを投げかけるためには、建築はむしろ邪魔なんです」

抽象的なレヴェルで疑問を投げかける

面白い学生は、重松たちも知らなかったことを探し出してくることがあり、それこそが、このスタジオを開いている醍醐味だと重松は話す。

「図書館のリサーチをやらせると、結局ぼくらの知っていることしか出てこないのですが、今回のようにみんなで新しいことに挑戦すると、ぼくらも知らないことがどんどん出てきて、それを一緒に掘り下げていくことで、ぼくらにも知見が貯まっていくというのがとてもいいなと。教員と学生というより、ラボラトリー的にみんなで探究している感覚です。ただ、ハーヴァードの学生は野心的かつ社会的な責任感も強いので、問題があれば、すぐに解決したいと思ってしまう(笑)。

でも、建築とか都市がなんでも解決できると思ってしまうことは、思想としてモダニズムを反復しているにすぎないと思うんです。OMAがこれだけの影響力をもちえたのは、安易な結論をもたず、ジャーナリスティックな手法でみんなにその問題を広め、みんなで考えていくなかで新しい思考法が発生していく、という方法をとっているからだと思います。

それを無責任だという人もいますが、やはり最終的に建築に落とすよりも、抽象的なレヴェルで疑問を投げかける方が、みんなをインスパイアさせるという意味では効力があると、ぼくは信じています」

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