彼らが「リアルビジネスファンド」を始める理由:8人の起業家による「TOKYO FOUNDERS FUND」始動

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若き日本の8人の起業家がファンドを立ち上げた。彼らの目的は「これまでにない投資のしくみをつくる」こと。自らが経験してきたことだからこそ、これからスタートアップの世界に足を踏み出す後輩たちのためにできることがある。投資家集団が立ち上がるその瞬間に、同席した。(7月13日発売『WIRED』VOL.17より転載)

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都内某所、週末、21時。ペットボトルのジュースとポッキーを手にソファに腰掛けモニターを囲む8人の姿は、それだけ見ればいかにも気楽で和やかなホームパーティの参加者だ。

しかし、彼らが手にしたノートPCからApple TVを通してモニターに映し出されるのは、ベイエリアにおけるスタートアップたちの新たなトレンドをまとめたドキュメントであり、VCたちがこれからどこに投資の的を絞ろうかとリサーチを重ねて導き出されたビジネスの未来予想図だ。

彼ら8人が一堂に会しているという事実について、日本のスタートアップシーンに詳しい者ならばニヤリとさせられるかもしれない。同時に、彼らの「企み」に心騒がされるはずだ。

2015年のいまも、数多くのスタートアップが生まれ淘汰されている。そのなかで彼ら8人は自社のクレディビリティを高め、あるいは確固たる成長企業にし、あるいは業界最大手に自社をバイアウトした起業家たちだ。彼ら「成功者」たちが、いま、いったい何をしようというのか?

結論を先に伝えよう。彼らの目的は、「これまでにない投資のしくみをつくる」こと。そして、そのしくみを通して、「ビジネスに新しい新陳代謝を起こすこと」だ。名前は既にある。起業家による投資家集団、「トーキョー・ファウンダーズ・ファンド(TFF)」だ。

日本のシーンは、あまりに未成熟だ

その夜は、ファンド立ち上げに向けて歩みを進める彼らにとって、8人全員が揃う最初で最後の夜だった。このキックオフ・ミーティングのための時間は限られている。モニターには彼らのありようを法的に定める設立趣意書が映し出され、一文一文が読み合わされる。TFFのロゴ・アイデンティティのデザイン案が十数パターン提示され、多数決でひとつに絞り込んでいく。約款に代表者名、所在地が必要だからと、その場で誰かが手を挙げる。

起業家たちの決断は速い。ここまで、わずか1時間弱。ファンドとしてのかたちが整い、朝までの時間は、全員が揃って本当に決めるべきこと、すなわち「どこに投資するのか」「なぜ投資するのか」「投資を通して何を得ようとするのか」を決めるための議論に費やされていくことになった。

そもそも、起業家による投資集団というアイデアを発想したのは、現在ベイエリアに在住する小林清剛だった。当地でVCやスタートアップたちと交流を深めていくなかで、改めて日本国内のスタートアップシーンの未成熟さに気づかされたという。

では、その状況に対して自分に何ができるのか? 起業家として日本国内で苦労したからこそできる役割があるのではないか? その想いは、同じく現在アメリカで研究職にある朝倉祐介とのコミュニケーションを通して磨かれ、「ファウンダーズ・ファンド」の絵が描かれていった。優れた想いは、語られずとも共感を生む。ファンドを現実のものとするためのメンバーは、自然と集まっていった。

では、実際のところ、彼らはTFFで何をしようというのか。自らの手でもって起業するだけでなく、そのフィールドを投資へと拡大することの意義はどこにあるのか。以下、ミーティングから彼らの言葉を拾っていくのが、その趣旨を理解するのによさそうだ。

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InvestmentMagazineStartupVol.17WIRED JAPAN
SLIDE SHOW FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN founders-9-q

1/8佐藤裕介 | YUSUKE SATO
フリークアウト取締役COO、イグニス取締役。2010年、2社の創業に参画。2014年夏、両社ともに東証マザーズに上場。1984年生まれ。

「これはいけると思ったチームの『試行錯誤』に参加したい」。どんなスタートアップに投資をしていくか。8人が自分の意見を出し合って投資対象を選んでいく過程には、それぞれがもつ独自の「判断基準」が表れる。きっとそのプロセス自体がエキサイティングな作業になるはずだ。

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2/8中川綾太郎 | AYATARO NAKAGAWA
ペロリCEO。女性向けキュレーションメディア「MERY」を運営。2014年には同社をDeNAに売却している。1988年生まれ。

「信頼できるパートナーたちとひとつのエコシステムをつくる。これがいずれ大規模になり、日本中に拡がるといい」。ポジショントークではなく、心の底から「一緒にビジネスをしたい」と思える相手と、忌憚ない意見を交換する。そうしたつながりの連鎖が、日本のシーンを変えていく。

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3/8小林清剛 | Kiyotaka Kobayashi
Chanoma CEO。2009年ノボットを創業。2011年、同社をmedibaに売却。現在はサンフランシスコで創業中。1981年生まれ。

「経験があって、ネットワークもある。次は、アメリカの地にぼくらのつながりを拡げたい」。異国に打って出ようとするとき、言葉を選ばずに言えば「つるむ」ことも必要だ。実際にサンフランシスコの地で現地スタートアップと交わりながら創業に挑んでいるからこそ、その価値の大きさを知っている。

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4/8古川健介 | Kensuke Furukawa
nanapi CEO。2000年に学生コミュニティサイトを立ち上げて以来、インターネット事業を展開。2014年nanapiをKDDIに売却。1981年生まれ。

「投資は手段でしかない。アメリカの最前線を知り、いずれ海外を目指す土台にしたい」。起業家に対して、投資に見合ったリターンを求めないことが絶対的に正しい、とは限らない。その「リターン」は金銭的なものに限らず、得られた学びだったり、築かれたつながりだったりする。

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5/8有安伸宏 | Nobuhiro Ariyasu
コーチ・ユナイテッドCEO。同社は、個人レッスンのマーケットプレイス「サイタ」を展開。2013年、同社をクックパッドに売却。1981年生まれ。

「起業家集団だからこそ、できることがある。成功事例を世界で生み出し、次につながる道をつくりたい」。日本にたくさんいる優秀な経営者たちと情報を交換し、競争し、高め合う。世界に対して存在感を発揮していくために必要なのは、実際にビジネスを展開するという具体的なアクションだ。

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6/8柴田 陽 | Yo Shibata
元スポットライトCEO。現在に至るまでに4社を起業、うち3社を売却。東京大学卒業後、マッキンゼーを経て独立。1984年生まれ。

「経験を蓄積する、皆のアイデアを集積できる場をつくる。これはすぐに、自分たちの事業に大きなリターンを生む」。先達が、あとに続く者たちに対して知恵を共有し、支援をする。これはなにもまったく新しいことではなく、かつての日本の商社などが、率先して行っていたことだ。

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7/8村上太一 | Taichi Murakami
リブセンスCEO。2011年、創業5年目の同社の東証マザーズ上場を果たし、株式公開の最年少記録を更新した。1986年生まれ。

「尊敬できる同世代のライヴァルたちが何を考え、どのような『判断基準』をもっているかを知りたい」。同じ世代の起業家同士は、共通した理想を抱く仲間でもあり、ライヴァルでもある。ある投資対象に8人それぞれがどう判断を下すのか。尊敬できる相手だからこそ、その基準を知りたくなる。

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8/8朝倉祐介 | Yusuke Asakura
スタンフォード大学客員研究員。学生時代に創業したネイキッドテクノロジーをミクシィへ売却、2013年に同社の代表取締役となる。1982年生まれ。

「このままでは日本は世界に置いて行かれる。ぼくらはそれを変えるための『大義』をここに見ている」。日本には、世界がまだ気づいていない価値があるはずだ。言語のバリアに守られた内需だけに甘んじていては、進んでいく世界の動きのなかでプレゼンスを発揮できないままになってしまう。

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佐藤裕介 | YUSUKE SATO
フリークアウト取締役COO、イグニス取締役。2010年、2社の創業に参画。2014年夏、両社ともに東証マザーズに上場。1984年生まれ。

「これはいけると思ったチームの『試行錯誤』に参加したい」。どんなスタートアップに投資をしていくか。8人が自分の意見を出し合って投資対象を選んでいく過程には、それぞれがもつ独自の「判断基準」が表れる。きっとそのプロセス自体がエキサイティングな作業になるはずだ。

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中川綾太郎 | AYATARO NAKAGAWA
ペロリCEO。女性向けキュレーションメディア「MERY」を運営。2014年には同社をDeNAに売却している。1988年生まれ。

「信頼できるパートナーたちとひとつのエコシステムをつくる。これがいずれ大規模になり、日本中に拡がるといい」。ポジショントークではなく、心の底から「一緒にビジネスをしたい」と思える相手と、忌憚ない意見を交換する。そうしたつながりの連鎖が、日本のシーンを変えていく。

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小林清剛 | Kiyotaka Kobayashi
Chanoma CEO。2009年ノボットを創業。2011年、同社をmedibaに売却。現在はサンフランシスコで創業中。1981年生まれ。

「経験があって、ネットワークもある。次は、アメリカの地にぼくらのつながりを拡げたい」。異国に打って出ようとするとき、言葉を選ばずに言えば「つるむ」ことも必要だ。実際にサンフランシスコの地で現地スタートアップと交わりながら創業に挑んでいるからこそ、その価値の大きさを知っている。

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古川健介 | Kensuke Furukawa
nanapi CEO。2000年に学生コミュニティサイトを立ち上げて以来、インターネット事業を展開。2014年nanapiをKDDIに売却。1981年生まれ。

「投資は手段でしかない。アメリカの最前線を知り、いずれ海外を目指す土台にしたい」。起業家に対して、投資に見合ったリターンを求めないことが絶対的に正しい、とは限らない。その「リターン」は金銭的なものに限らず、得られた学びだったり、築かれたつながりだったりする。

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有安伸宏 | Nobuhiro Ariyasu
コーチ・ユナイテッドCEO。同社は、個人レッスンのマーケットプレイス「サイタ」を展開。2013年、同社をクックパッドに売却。1981年生まれ。

「起業家集団だからこそ、できることがある。成功事例を世界で生み出し、次につながる道をつくりたい」。日本にたくさんいる優秀な経営者たちと情報を交換し、競争し、高め合う。世界に対して存在感を発揮していくために必要なのは、実際にビジネスを展開するという具体的なアクションだ。

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柴田 陽 | Yo Shibata
元スポットライトCEO。現在に至るまでに4社を起業、うち3社を売却。東京大学卒業後、マッキンゼーを経て独立。1984年生まれ。

「経験を蓄積する、皆のアイデアを集積できる場をつくる。これはすぐに、自分たちの事業に大きなリターンを生む」。先達が、あとに続く者たちに対して知恵を共有し、支援をする。これはなにもまったく新しいことではなく、かつての日本の商社などが、率先して行っていたことだ。

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村上太一 | Taichi Murakami
リブセンスCEO。2011年、創業5年目の同社の東証マザーズ上場を果たし、株式公開の最年少記録を更新した。1986年生まれ。

「尊敬できる同世代のライヴァルたちが何を考え、どのような『判断基準』をもっているかを知りたい」。同じ世代の起業家同士は、共通した理想を抱く仲間でもあり、ライヴァルでもある。ある投資対象に8人それぞれがどう判断を下すのか。尊敬できる相手だからこそ、その基準を知りたくなる。

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朝倉祐介 | Yusuke Asakura
スタンフォード大学客員研究員。学生時代に創業したネイキッドテクノロジーをミクシィへ売却、2013年に同社の代表取締役となる。1982年生まれ。

「このままでは日本は世界に置いて行かれる。ぼくらはそれを変えるための『大義』をここに見ている」。日本には、世界がまだ気づいていない価値があるはずだ。言語のバリアに守られた内需だけに甘んじていては、進んでいく世界の動きのなかでプレゼンスを発揮できないままになってしまう。

これは、VCではない

「ぼくらの資金で投資するのだから、ファウンダーの立場に寄り添ったファンドでなければならない。自分たちの事業経験に基づいたメンタリングを行うことに意味があるのではないか」。朝倉がTFFの意義を提起すれば、小林が言葉を重ねる。「日本と海外のスタートアップの結びつきを強化できるのではないか。ひろく海外のファウンダーたちからすれば、日本を視野に入れた事業展開に道が拓けるというインセンティヴは大きい。アメリカのスタートアップにとっても、それは同じくらい価値があるはずだ」。

最年少のメンバーである中川綾太郎が「ぼくらが若い、ということはファンドの『売り』につながるのではないか」と投げかければ、古川健介が「いかにそのメッセージをネット上で伝えていくか」と広報的な戦略にまで話を展開させる。深夜に及ぶ議論は、熱を失うことなく続いていく。

議論を締めくくった柴田陽の言葉を借りるならば、ここは彼らにとって、「自分たちのもてる資産を活用した、リアルビジネスへの学びを深める場」だ。ほかの誰でもない、自分自身の責任で動けるのだから、投資先を決めるのにも、それぞれの価値観を優先すればいい。多くのVCたちがそうであるように金銭的なリターンを追求する必要はTFFにはなく、目をつけて投資したスタートアップがいかに育っていくかを見守ることができる。

投資の動機は、未知なる領域に対する純粋な好奇心かもしれないし、これと信じたファウンダー個人の可能性かもしれない。いずれにせよTFFは、8人それぞれのこれまでの事業経験から得た知見が若いスタートアップたちに共有されるとともに、8人それぞれのこれからの事業展開に生かされる知恵が得られる場となるわけだ。

真に「日本を変える」ために

「日本は世界でいちばん“簡単”なマーケット」だと、小林は言う。日本のスタートアップたちが世界へと事業を拡大する妨げとなる言語の壁は、逆に言えば、世界で起きている大きな変革の波から日本の市場を守ってくれるバリアでもある。そして、そのバリアこそが日本のシーンを「未成熟」たらしめているひとつの要因だ。

「日本のスタートアップは、決してサステイナブルではない」と語る小林に続けるように、「新陳代謝を起こしていかなければ」と、柴田は言う。同時に、有安伸宏は日本の若い経営者たちのポテンシャルが、世界と比較して劣っているわけではないと言う。

では、足りないのは何か? 8人それぞれが、自身が起業したばかりのころを想起しながら、いま日本に何が必要かを考えた。そして導き出された結論として、TFFには「あのとき欲しかった」情報と、それを生むつながりを提供するハブとしての役割が託されることになった。いかな連続起業家であっても、1人ではできないことがある。多様なファウンダーたちにコミットできるファンドというありようは、広く市場を見渡して影響を与えようとするとき、立派な大義名分をもつわけだ。

8人が次に顔を合わせるのは、半年後の年末になるという。それまでの間はFacebook上のグループでディスカッションを繰り広げていこうと言って散会した1カ月後のいま、どうやら彼らの準備は整ったようだ。スタートアップならではのスピード感のなかで、TFFはまさにこの7月、立ち上がる。

関連記事いまこそ、VCが日本のスタートアップを成熟させる(佐俣アンリ寄稿)

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