MCのナイナイは絶対必要。
『ナインティナインの上京物語』黒澤裕美/大和書房

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2015年7月12日、『ENGEIグランドスラム』(フジ)が放映された。5月の放送に続き2回目の放送。今回は23組の芸人がネタを披露した。

芸人のネタ披露がメインの「ネタ番組」は数が少なく、執筆現在では全国レギュラーで毎週芸人のネタを見られる番組は無い。

ただ、『ENGEIグランドスラム』はいわゆる「テレビのネタ番組」と構成が異なる。
ネタ以外の要素を極力省いているのだ。
その姿は、『エンタの神様』に近いのである。

『エンタの神様』との類似と違い


『エンタの神様』は2003年〜2010年まで日本テレビで放送されていたネタ番組。現在もたびたび特番で不定期に放送されている。テレビでは無名な芸人を発掘するのが特徴で、サンドウィッチマンがテレビに初出演したのもエンタである。

『ENGEIグランドスラム』と『エンタの神様』の構成を比べると、驚くほど似ているのがわかる。

・劇場を模したセット
・芸人のネタのみで構成し、VTRやコーナーを挟まない。
・呼び込みがある(エンタ:坂上みき、ENGEI:RYO-Z)
・芸人はネタ披露後にはける。ひな壇に座るなど、スタジオには残らない。
・司会と芸人は基本絡まない
・審査員や観客ゲストなど、司会と芸人以外の芸能人はいない。

正月の『爆笑ヒットパレード』はネタ披露後に司会と絡みがある。『北野演芸館』ではビートたけしとのトークコーナーがある。『有吉のお笑い大統領選挙』は審査員が票を入れる。『すべらない話』や『IPPONグランプリ』は芸能人のゲストが観覧する。

純粋に「ネタだけ」で構成している番組は意外に少ない。コーナーやVTRなど他の要素で見どころを作る「保険」の意味もあるし、告知や番組宣伝などの「PR」に使われる面もある。

「芸人のネタ」だけにスポットを当てた『エンタ』と『ENGEI』。
似ているポイントは多いが、ここからが決定的に異なる。
「番組側からネタへの介入」だ。

『エンタの神様』はネタ中に編集が入る。字幕も出るし、カットもする。ネタそのものに番組サイドの放送作家が入っており、テレビ的な演出を盛り込まれたものになっている。

無名の新人を発掘する特性上、内容や長さをテレビサイズに演出しているのだ。お笑いを見慣れない層にも見てもらえるように、字幕でわかりやすさも追求する。ネタを「テレビ的」なものにコンバートする。

『ENGEIグランドスラム』は、ネタの編集がほぼ無い。
登場するのは既に実績のある芸人たち。テレビの事情もわかっている。手をいれる必要がない。「手をいれない」という方針は、ネタを編集なしのフルサイズで放映することからもうかがえる。

テレビでネタ番組を作ろうとすると、ネタ以外の要素もいれがちになる。
ネタだけで構成しようとしても、テレビサイズに演出してしまう。

『ENGEIグランドスラム』は「純粋培養」とも言うべき、真の「ネタだけのネタ番組」なのだ

「司会のナインティナイン」が必要な理由


となると、「ネタだけのネタ番組なのに、なんで司会がいるの」という疑問がわく。

『ENGEIグランドスラム』の司会はナインティナイン。幕間にトークを挟むが、芸人とは直接絡まない。

しかしテレビである以上、司会の時間が必要なのだ。「編集点」である。

7月12日放送の『ENGEIグランドスラム』の放映時間は19:00〜21:54の約3時間。23組のネタをこの時間にピッタリ収めないといけない。

ネタに手を入れないという方針上、他のどこかで時間調整をするしかない。トークやコーナーを入れば編集ポイントを作りやすいが、それも入れない。となると、司会のパートで時間を調整をするしかない。

約3時間の限界まで芸人をラインナップし、わずかな時間調整を司会パートで行う。これだけの芸人が揃うのだから、司会もそれなりのポジションでなければいけない。お笑いに明るいコメントができる人材がベストだが、大御所すぎると番組のカラーが変わる。

そこでちょうどいい選択が「ナインティナイン」だった、と想像する。同じお笑い芸人という目線からコメントできるし、先輩目線からのフォローもできる。『爆笑ヒットパレード』『THE MANZAI』での実績もある。

「ネタだけ」に特化した番組だからこそ、「司会のナインティナイン」というのは必要不可欠なポジションなのである。

テレビで「劇場」を再現する


ネタ番組が「ネタだけ」に特化できない理由には、編集や視聴率や番宣など、様々なしがらみが絡む。

それでも『ENGEIグランドスラム』が「ネタだけ」に特化している理由は、「劇場の再現」にあるのではないかと思う。

『ENGEIグランドスラム』は、スタジオ内に劇場のセットを作った。ただ舞台と客席を設けただけでなく、観客席は2階席まであり、両脇に壁がある。「2階席まである劇場」の密室空間を作っている。

言うまでもなく、お笑いは芸人だけでは成立しない。客が笑って初めて成立する。芸人と客が同居する「劇場」という空間を、番組内で再現しているのだ。

ネット全盛の時代、ネタを披露するだけならYoutubeでもいいかもしれない。コメント欄で反応が確かめられるかもしれない。でも、ネットは今のところライブに敵わない。

2014年12月14日、博多華丸・大吉が『THE MANZAI 2014』で優勝したときの、博多大吉のコメントを引用しよう。

「真面目な話、今日この空間でたぶんちゃんとできたのが僕らで、この予選に出ていない方も、僕らの先輩たちも、本当に面白い漫才師さんは劇場にいますので、是非皆さん劇場に足を運んでください。」

芸人が発する。客が受ける。空気が揺れる。
劇場に行くのが一番いい。近くに劇場がないなら、せめてテレビで追体験したい。
『ENGEIグランドスラム』は劇場の至福の時間を運んでくれる番組だと思う。

既に『ENGEIグランドスラム』は9月の放送が決定している。今から楽しみで仕方がない。

(井上マサキ)