問題が多いホルマリン固定した臓器の処分 shutterstock.com

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 医療機関からは、検体や臓器などの"医療ゴミ"が大量に発生する。もちろん、これには一般と異なる処理が求められる。ところが、この処理については、医学的な感染のリスクだけでなく、倫理的な問題や法的な解釈、現実的な処理の実態など、考えるべき課題は多い。

 病理学的検索が終わった生体材料は、必ず廃棄処分されなくてはならず、その際に「倫理的問題」が積み残されてはいけない。これは、生体材料の「所有権」の帰属にも関わるため、適切な説明を行った後、廃棄についてのきちんとした同意書を作成することが必要だ。

 臓器や血液については、その所有権が問題となり得るが、尿や便などの排泄物に関する所有権意識は、一般に希薄だ。私が勤務する藤田保健衛生大学(愛知県)では、血液・尿の目的外の使用について、説明書と同意書を準備して運用している。標本の「所有権」の問題に関連しては、検体・臓器から被写体を選んだ写真、特に肉眼で確認できる写真の所有権問題も、クリアしておくべき課題である。

医療ゴミから感染? 焼却処分で滅菌処理必要か

 一般に、体液や血液、滲出液が付いた"医療ゴミ"は、現行法である「廃棄物処理法=廃掃法」の下では「感染性廃棄物」とみなされる。そのため、焼却処分を中心とする滅菌処理が求められる。

 だが、環境に悪影響を与えるこうした処理が、本当にすべての「感染性廃棄物」に対して必要なのだろうか。実は、医療ゴミから感染が生じる可能性がどの程度なのか、きちんとしたデータはない。少なくともゴミの中で、MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)や肝炎ウイルスが増殖することはありえない。

 ちなみにドイツにおける「感染性廃棄物」の定義は、環境からヒトに感染するおそれのある病原体(赤痢菌、コレラ菌、結核菌やエボラ出血熱ウイルスなど)が付着した、あるいは付着のおそれのある廃棄物とされる。少量の血液は下水に流してかまわない(環境に負担をかけないため、消毒剤や熱で消毒してはならない)。ホルマリン固定された臓器・組織は、倫理的観点からきちんと焼却処分されることになっている(日本の廃掃法では、血液や臓器はあくまで感染性のあるゴミとして取り扱われる)。

問題が多い「ホルマリン固定」の臓器の処理

 特に問題が多いのが、病理学的検索が終了したホルマリン固定された臓器の処理だ。廃掃法で定められた感染性廃棄物は、「特別管理一般廃棄物」と「特別管理産業廃棄物」に分けられる。廃掃法では、血液が特別管理産業廃棄物であるのに対して、臓器は特別管理一般廃棄物に分類されている。

 ホルマリン固定によって「感染性がなくなった」と医師が判断すれば、たとえ臓器を「生ゴミ」として取り扱っても、法解釈上は違法とはいえない。

 そもそも、臓器を取り扱う業者は「一般廃棄物処理」に対する許可を受けている。その他多くの医療廃棄物を取り扱う「産業廃棄物」、あるいは「感染性廃棄物」の処理業者とは別の場合が多い。

 現実的には、業者が臓器をホルマリンごと引き取っていることが少なくない。この場合、臓器の焼却処分がきちんとなされていない可能性がある(臭いのきついホルマリン漬けの臓器は取り扱いにくい)。臓器を斎場で焼却処分している"良心的な"病院も多いが、ゴミである臓器を燃やすためには、ダイオキシン規制をクリアした焼却炉としての届け出が求められる(そのような斎場はほとんどない)。

 分娩で排出される胎盤については、多くの医療施設で凍結保存ののちに専門業者に有料で引き取ってもらっている。だが、この未固定臓器(感染性廃棄物の代表格)の処理の実態は、ほとんど不明である。監視の目はゼロに近い。

紙おむつは家庭から出れば一般ゴミ

 最後に、紙おむつにまつわるゴミ問題をつけ加えたい。

 高齢化社会では、小児用のみならず大人用の紙おむつが大量に使用される。ずっしりと重い使用済みの紙おむつは、医療施設から出る場合は感染性廃棄物として取り扱われることが多い。一方、家庭から出れば一般ゴミである。そもそも、紙おむつは基本的に感染性廃棄物として処理される必要はない。

 女性の生理用品に関しても、入院患者が使用した場合だけが感染性廃棄物でいいのか。健康であっても、肝炎ウイルスやエイズウイルスの保因者は決して少なくない。当然、家庭からも感染の可能性のあるゴミが交じる。

 しかし、廃棄物処理最先進国であるドイツでは、こうした感染危険度の低いゴミは一般ゴミと同等に処理されていて、とても合理的だ。いずれにせよ、こうした排泄物に関しては、その所有権が論じられることはほとんどないのが現状である。


堤寛(つつみ・ゆたか)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『堤先生、こんばんはo(^-^)o』(三恵社)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)、『感染症病理アトラス』(文光堂)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『Pathology of Skin Infections』(Nova)など。