日本ラグビーのカリスマ 大畑大介さんに聞く
2015W杯 ジャパンの勝算(後編)

 熱い。ラグビーのワールドカップ(W杯)など数多くの大舞台を踏んできた元日本代表エース・ウイングの大畑大介さんの言葉にはラグビーに対する情熱が満ちあふれている。
 
 W杯イングランド大会まであと2カ月半。2019年W杯日本大会のアンバサダーを務める大畑さんは、今年のW杯をラグビーの人気アップの起爆剤と位置付け、日本代表の決勝トーナメント進出を期待する。そのポイントとキープレーヤーは誰なのか。

日本ラグビーの将来を真剣に考えている大畑大介さん。「7人制 ラグビーの五輪予選が11月にあります。男女ともリオに行って ほしい」

――日本躍進の原動力はフォワード(FW)のパワーアップです。元バックス(BK)から見て、FWの強弱って大きいのでしょうか。

大畑 バックスって、キックオフでFWの力関係が大体、わかるんですよ。感覚なんですけど。キックオフでの一連の攻防が終わって、ゲームが切れた時、FWの顔を見た瞬間、「あっ、今日はいけるんじゃないかな」と感じる時があるんです。一番、前線で体を張っているプレーヤーはFWですから。ラグビーって、人間同士のぶつかりあいなので。

――それは興味深いですね。W杯(1999年、2003年)の出場した7試合で、そういう感覚になったキックオフはありましたか。

大畑 なかったです(笑)。だから、全部、負けたのでしょうね。例えば、(2003年、後半途中まで接戦だった)フランス戦、正直、相手は強いなと感じながらやっていました。あの大会ではフランスが一番強かった。相手の余力みたいなものを感じていました。まだ、初戦のスコットランドのほうが、なんとかなるんちゃうかなと思っていました。
 僕が見るのはスクラムより、一発目のFWの攻防です。その時の顔って、すごいリアクションなんです。スクラムやラインアウトは準備しているから、表情を結構、ごまかすことができるんです。でも、キックオフは相手の力をまだ想定してないから、その瞬間に"イケるやん""ヤバい"って顔に出るんです。そういった意味で、FWが一番しんどそうな顔をしていたのは、(1999年W杯の)アルゼンチン戦です。これはハンパなくきつそうでした。あの時の経験からベースになるものがあれば、チームは崩れないと思った。だからこそ、今の日本代表の進む道は間違っていないんです。

――今年のW杯のポイントは2戦目のスコットランド戦です。勝負の分かれ目は?

大畑 もう我慢比べ。とくにスクラムは日本の生命線でしょう。スコットランドはオーソドックスなチームです。大きな穴があるわけじゃないし、ベースも上がってきているチームです。真正面からのぶつかり合いになるんじゃないですか。小細工なし、相撲でいえば"がっぷり四つ"みたいなものです。
(スコアは)読めません。取り合いになると厳しいと思う。まあ、取り合いにはならないでしょ。スコットランドはディフェンスもしっかりしているので、(キッカーを務める)ゴロー(五郎丸歩・ヤマハ)の存在がすごく大きくなるでしょう。どれだけしっかりとゲームを運び、点数をきっちり重ねていくのか。スコットランドに限らず、W杯に関してのカギはすべてゴローだと思います。最後尾を守らないといけないし、日本の一番の得点源だと思っています。あれだけの距離と精度のキック力を持っているキッカーは過去にもそう、いないでしょう。

――いま日本代表への生き残りをかけて、厳しい争いが繰り広げられています。大畑さんのポジション、ウイングの競争もおもしろいですね。

大畑 ウイング当確は山田(章仁・パナソニック)ぐらいじゃないですか。山田には(代表に)入ってほしい。この2、3年でプレーが抜群に安定してきました。オフ・ザ・ボール(ボールを持っていない時)の動きがよくなっています。テレビを見ればわかるように、画面に映ってくる回数が増えています。非常に意識が高くなり、パフォーマンスが安定したんです。

――大学生の藤田慶和(早大)、福岡堅樹(筑波大)も注目ですよね。

大畑 2019年の(日本開催の)W杯に向けても、この2人にはラグビー界のため、がんばってほしいと思います。特に福岡は一発で局面を打開できる。あれだけのスピードを持っている選手は日本人ではなかなかいません。(W杯で)海外のチームの度肝を抜いてほしい。
やっぱり、スピードは、明日すぐに手に入るものじゃない。天性ですから。(福岡が)走っている姿を見ると、気持ちいいだろうな、と思います。ほかにも松島(幸太朗・サントリー)もいいじゃないですか。ぐんぐん成長している。各ポジション、いい選手が多いですよね。あとはサプライズ的な人間が誰か出てくるのかなという楽しみがあります。

――注目選手は山田、五郎丸ですか。山田のことを話す時はトーンが上がりますね。

大畑 そりゃ、山田にはずっと期待していますから。僕が引退する時、彼に後を託したのです。"僕みたいなキャラクターになってくれ"って。"おまえが出て行け"と。キャラクターとしても、彼にはすごくおもしろさを感じています。彼の存在は僕と一緒、賛否両論だったでしょ。でも必要だと思う。ラグビー界にとって、情報が発信できる人間が絶対、必要だと思うんです。僕は引退しているから、その発信力は現役には勝てない。要は現役に"勘違い"している選手が何人出てくるかです。

――大畑さんはいつも、ラグビー界の人気アップを考えていますね。

大畑 そうです。カッコよく言えば、ラグビーを広めたい。正直言えば、自分がやってきたことを否定したくないんです。だから、ラグビーを1人でも多くの人に知ってもらいたい。正直、僕の下の年代のやつはみんな後輩だと思っています。みんなに幸せになってほしい。その辺でラグビーをやっている子どもでもそうです。僕は神戸の人間ですけど、パナソニックが勝ったらうれしい。だって、パナがいいラグビーをしているから。

――これから日本選手にとって、W杯までの強化ポイントはなんでしょう。

大畑 エディーになって今まで勝ってきたのは、日本が海外から研究に値するチームじゃなかったからだと思うんです。水泳で言えば、相手が息つぎしているところでも、我慢して、最後まで潜水し切って勝ち切ったところがある。でも、今度は日本代表が研究対象となると思うんです。そこでどんなラグビーをするのか。相手の出方を見て、戦い方を少し変えていくとか。選手がグラウンドで、どれだけ自立したラグビーができるのかが、僕は一番重要なポイントだと思います。

――ジャパン・ウェイ(日本流)の戦い方はどうでしょうか。

大畑 それは結果が出ているので僕らは何も言えませんよ。正直、僕のポジション柄、もうちょっと自由性の持てる選手が出てきたからおもしろいんじゃないかと思いますが。

――今月、山田らスーパーラグビー(※)でプレーしていた選手が代表チームに合流します。うまくチームに融合できるでしょうか。
※南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアの3カ国、計15のクラブチームによるラグビーの世界最高峰リーグ。毎年2月から7月まで行なわれている。2016シーズンから、南アフリカチーム、日本チーム、アルゼンチンチームの参戦が決定し、18チームで争う。

大畑 やっぱり日本代表のラグビーと各チームのラグビーはスピード感など違いますから、フィットするのかな、という心配はあります。日本にいた組のほうが体力は上でしょう。でも、むしろ(スーパーラグビー組の)問題は精神面です。海外でチャレンジしてきて、これから代表では(スタメン争いなど)一番厳しい環境になるわけじゃないですか。それからW杯に行く。常にフルでやり切っていますから、どこまで精神的な部分が持つのかなというのはありますが。まあ、しんどいだろうなと思いますが、スーパーラグビーに行っていた連中は意識が高いので、そんなに心配はしていません。

――W杯での目標は決勝トーナメント進出でした。目標を実現できたら、日本ラグビーは変わるのでしょうか。

大畑 これはもう、過去の選手としては羨ましくてしょうがない。嫉妬しかないです(笑)。これまで見たことのない景色を見ることができる。その後の景色も変わってくるでしょ。その先を語ることもできるでしょ。数多くの選手がW杯という舞台で結果を手に入れて、自信を持って次の世代の人間にその景色を伝えていってほしい。風景が変われば、プライドも変わります。

 大畑さんは9月のラグビーW杯イングランド大会の開会式で、世界の「レジェンド」の1人として参加する予定である。今年のW杯も2019年W杯も日本ラグビー成長の過程にすぎない。日本のラグビーの顔が、後輩の日本代表にエールを送る。
「選手それぞれ、日本を背負っているんだという責任を持ってやってほしい」
 
 もっと短く、とキーワードをお願いすると「プライドかな、使命かな、責任かな...」としばし考え、こう短く言った。

「自覚」。

【profile】
大畑大介(おおはた・だいすけ)
1975年11月11日、大阪府生まれ。東海大付仰星高―京産大でBKとしてプレーし、神戸製鋼に進んだ。海外のクラブにも挑戦。日本代表キャップが58で、テストマッチでのトライは世界最多記録の「69」をマーク。W杯には1999年、2003年大会の全試合に出場。2010年に現役引退。2019年W杯のアンバサダーを務めるほか、メディアでも「日本ラグビーの顔」として活躍している

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu