スペイン女子初のW杯は惨敗…選手から噴出した独裁監督への批判と解任要求

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文=座間健司

 初めてのワールドカップに出場したスペイン女子代表はグループリーグで敗退した。コスタリカ、ブラジル、韓国と同じE組で最下位。1分2敗2得点4失点と惨敗と呼ぶに相応しいものだった。

 男子は2010年に世界一に輝いたが、女子にとっては初めてのワールドカップだった。男子はまさに世界のトップレベルを走る先進国だが、女子はそうではない。クラブレベルで見ても、国内のリーグをリードするバルセロナは、女子のトップカテゴリーのプロ化に向けた過程にいる。年間予算は昨シーズン50万ユーロ(約7000万円)だった。熊谷紗希が所属するフランスのリヨンの予算が400万ユーロ(約5億6000万円)、大儀見優季がいるドイツのヴォルフスブルクが100万ユーロ(約1億4000万円)と他国と比べると少ない。スペインの女子サッカーは発展途上で、国内でプレーする選手は、サッカーだけで生活できない。ワールドカップで中盤の底として活躍したバルセロナ所属のビリヒニアは、来シーズンからフランスのクラブでプレーする。

 発展途上ゆえの出来事なのか。ワールドカップ後、選手たちは監督に反旗をひるがえし、協会に更迭を迫った。協会に手紙を書き、メディアに代表監督への不満をぶちまけた。

 代表を率いるのは、イングナシオ・ケレダ。女子代表を率いて、27年になる。1988年から今の役職に付き、この7月で65歳になる。

 ワールドカップでは唯一勝利の可能性があったコスタリカ戦でいつもとは違うポジションで選手を起用するなど、その采配は敗退の要因のひとつだと地元メディアから指摘されていた。ただ采配が的中しなかったのは、まだ真っ当な批評だ。

 選手たちの監督への批判は、耳を疑うものだった。

 選手はまず彼の仕事ぶりについて不満を示した。トレーニング中に着信があれば、練習そっちのけで電話に応じたこともある。対戦相手のスカウティングもしていない。彼の仕事はプロフェッショナルではない。そう訴える。

 何よりも不満を溜め込んでいたのが、選手の扱い方、接し方だ。

 歴代の選手たちがメディアで話すその人物評は、まるでおとぎ話に出てくる悪い義母のようだ。スペイン紙『エル・パイス』で、過去の代表選手は多くのエピソードを語っていた。

 試合に出なかった選手に向かって「お前は太っているから、プレーできないんだ」と言った。試合前のミーティングでミスしたゴールキーパーに修正を促すのではなく、「バカなゴールキーパーがいた」と全員の前で話した。「心理的ダメージを与える」ことが多く、「独裁者」と評する選手もいた。代表経験者たちは「ワールドカップ後に監督に選手が反旗を翻したことに驚かなかった」と証言し、今いる選手たちの後押しをした。

 イグナシオ・ケレダの振る舞い対して、選手たちが訴えたのは今回が初めてではないという。1997年の欧州選手権で準決勝に進出したチームも、大会後に協会に訴えていた。しかし、イグナシオ・ケレダは今日までスペイン代表監督を続けている。スペイン地元紙は、なぜなら彼はスペインサッカー協会会長ホセ・マリア・ビジャールの“友だち”だからだと伝える。

 ワールドカップに出場し、女子代表への注目が集まった。選手たちはメディアが集まるこの機会を利用して、自分たちがどんな監督の下でプレーしてきたのか、世に訴えたかったのだろう。そして、この長く不当な独裁政権を終わらせたかったのかもしれない。

 もちろんメディアを使って、話したことに批判もある。男子のスペイン代表監督ビセンテ・デル・ボスケは「このやり方は失敗だった。人々に自由にそういうことを提示していいものではない」とコメントした。