日本ラグビーのカリスマ 大畑大介さんに聞く2015W杯 ジャパンの勝算(前編)

 9月18日に英国イングランドで開幕するラグビーワールドカップ(W杯)まで、70日を切った。上昇気流に乗る日本代表への期待度は高まる一方である。では、日本ラグビーのレジェンドたちは今年のW杯と日本代表をどう見ているのか。

 まずはトライの世界最多記録(69)を持つ元日本代表エース・ウイングの大畑大介さんの登場である。39歳とは思えない精悍な風貌。今にも走り出しそうな雰囲気を醸し出しながら、W杯に対する心情を熱く語ってくれた。

――W杯を実際に戦って感じたことは?

大畑 僕自身がW杯ってすごいなと感じたのは、初めて出場したウェールズ大会(1999年)です。そのウェールズ戦のカーディフ。朝起きて、ホテルの窓のカーテンを開けたら、街が(ウェールズ応援団で)真っ赤っかになっていました。相手の国歌斉唱で目をつぶって立っていたら、全方位から歓声が聞こえてきて、自分がどこにいるのかわからなくなった。ラグビーというものが街というか、国を動かすものだと感じたのがW杯でした。

――そのウェールズ戦でトライをしました。

大畑 その前のサモア戦でパフォーマンスがよくなかったので、バショップ(スクラムハーフ)から気持ちが入ってないって怒られたのです。"覚悟を決めてくれ"と。だから、気持ちが入っていた。"絶対、勝負するから1本放ってくれ"と言っていたんです。

――W杯と他の試合の違いはどこにありますか?

大畑 選手の本気度ですね。ワンプレー、ワンプレーごとの、1センチ、1ミリごとの激しさが違うのです。ラグビーって陣取り合戦じゃないですか。そのわずかなすき間に対して、躊躇なくすべてをぶつけてくる。一瞬一瞬の気持ちの入りようが全然違いました。わかりやすく言えば、ラグビー版オリンピックと言ってもいいのかもしれません。サッカーと同じように、もうW杯がすべてなんです。4年間の道程は正直、どうでもいい。W杯で何を成したかが大事なんです。道程で一喜一憂しても意味がない。4年間のテストマッチは学校でいえば、中間テストや期末テストのようなもの。W杯が入試や入社試験なのです。それがターゲットなんです。

――日本代表候補の選手はハードワークを続けています。コンディショニングの必要は?

大畑 まだ早いでしょ。まだ競争ですから。まだ選手は成長できる。ラグビーは15人といっても、個人の集合体です。個人の力が上がれば、チーム力も上がっていく。熱い情熱を持った選手たちにはメンバー争いを勝ち抜いてほしい。だから、W杯に出られることに重みを感じるのです。

――でも、けがの心配はないでしょうか。

大畑 それはもう、仕方ない。(チーム強化に)近道はない。エディー(・ジョーンズヘッドコーチ=HC)はたぶん、まだ力が足りないと思っている。伸びしろがあると思っているから鍛えているのでしょう。期待しているから、ハードワークなのです。エディー自身は選手をまだ信用していないというか、日本のラグビー界自体を信用していないのかもしれません。逆にいえば"日本はもっともっとできるんだ"という確信が当然あると思います。

――そういえば、大畑さんは2007年のW杯直前、古傷のアキレス腱を断裂しました。

大畑 あの時はW杯でピッチに立つことが目標ではなく、チームが勝利するために何ができるかということを考えて、途中でアウトになったら仕方ないという覚悟を持って挑んでいました。それが僕の美学です。自分の存在意義を確かめるのがW杯でした。だから後悔はしていません。僕はW杯で勝ちたかったんです。もし出場してW杯で勝っていたら、正直、あのシーズンで(現役を)辞めていたでしょう。

――日本代表は昨年、世界ランキング9位まで上昇しました。どう見ていますか?

大畑 評価通りの力だと思います。これまで日本のウィークポイントのセットプレーが改善されたことが大きい。僕は日本人の勤勉性というか、自分たちで型にはめたことをやり切る能力が、すごく飛び抜けた民族だと思っています。その部分が今までできなかった。でも、スクラム、ラインアウトで計算できるところまでいった。土壌ができたことは大きいでしょう。変わったのは、自分たちで決めたことは最後までやり切るという意志の強さです。それは何より、エディーの力です。がちっと型にはめて、やり切っています。正直、僕がそこに入ってやりたいかといったら別ですよ。選手はきついやろなと思う。
先日、現役ではない選手と話したんです。「大介、今の代表だったら、どうだった?」と聞かれたから、「ちょっと、もたへんやろうね......でも、ちょっといいやろうね」って(笑)。とにかく、勝てる代表でプレーできるというのはいい。羨ましい。

――エディーさんは、どんなコーチですか。

大畑 僕が初めて代表入りした時もコーチをしていた。めちゃいい人です。もともと先生ですからね。"ラグビー版金八先生"って書いてください(爆笑)。選手の気持ちもすごくわかっているし、生徒を信頼する。エディー自身が選手としての実績を持たないから、弱い選手の気持ちもより理解できるでしょう。平尾さん(誠二・元日本代表監督)やJK(ジョン・カーワン・前日本代表監督)と比べると、エディーさんはより細かいと思います。今までの代表は出来上がった選手をチームとして作るパターン。エディーは代表でも選手をさらに鍛えようというパターンです。

――W杯1次リーグでは相手が南アフリカからスコットランド、サモア、米国の順です。どう見ていますか。

大畑 めちゃきついと思います。世界ランキングが高い国があれば、歴史がある国もあり、W杯になれば力を発揮する国もあります。どれとして、勝利を計算できるチームはありません。エディーとしたら、当然、頭から100%(のベストメンバーで)でいくと決めているでしょう。去年のサッカーのW杯もそうですが、日本にとって大事なのは、やはり初戦なんですよ。日本人は農耕民族だから、急にはスイッチが入りにくいタイプだと思う。だから、初戦でしっかりしたパフォーマンスをすることによって手応えをつかみ、次につないでいく。初戦で変な試合をすると全敗もあると思う。1勝も、2勝もあると思うし、すべてにおいて可能性はあるでしょ。

――日本の成績はどうなりそうでしょうか? 星勘定は?

大畑 希望的な部分を含めて、3勝2敗ですね。正直、南アに勝つのは厳しいと思う。でも戦い切ってほしい。もし敗れたとしても、やり切ったという顔を見せてほしい。初戦のカギは先手です。相手に合わせるのではなく、自分たちが持っているものをどれだけ出せるか。常にプレッシャーをかけていくことです。逆にスクラムでプレッシャーをかけられたらダメです。自分たちが信じているスクラムで力を出せたら、精神的な部分で上回れると思います。その勢いで、スコットランド、サモア、アメリカに勝って、3勝1敗で決勝トーナメントにいってほしい。そこまでいけば、準々決勝はもう負けても、十分な結果だと思います。

――南ア戦と次のスコットランド戦は中3日です。どう見ますか。

大畑 ハンパなく、きついでしょ。2003年W杯は全試合出場したんですが、試合をするたびに間が中5日、中4日、中3日と短くなっていった。もうきつくてきつくて。でも、今回の中3日は序盤だからまだいい。全然、がんばれる。この最初の2試合(南ア戦とスコットランド戦)にすべてがかかっている。正直、サモアに勝つより、スコットランドに勝ってくれるほうがうれしい。W杯で勝って初めて、日本の力がホンモノだと言われるんです。
(後編に続く)

【profile】
大畑大介(おおはた・だいすけ)
1975年11月11日、大阪府生まれ。東海大付仰星高―京産大でバックス(BK)としてプレーし、神戸製鋼に進んだ。海外のクラブにも挑戦。日本代表キャップは58で、テストマッチでのトライは世界最多記録の「69」をマーク。W杯には1999年、2003年大会の全試合に出場。2010年に現役引退。2019年W杯のアンバサダーを務めるほか、メディアでも「日本ラグビーの顔」として活躍している。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu