細田守監督『バケモノの子』©2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

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『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』と、これまで数々のヒット作を生み出してきた細田守監督。同氏率いるスタジオ地図がこの夏に贈るのは、ひとりぼっちの少年・九太とひとりぼっちのバケモノ・熊徹との出会いと成長を描いた親子の物語だ。

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細田作品では、これまでもさまざまな家族の姿が描かれてきたが、今回、バケモノと少年という新たな疑似家族をモチーフに据えたことにはどんな思いがあったのだろうか。スタジオ地図代表取締役であり、同作のプロデューサーも務めた齋藤優一郎氏にお話を伺った。

「家族」を描き続ける理由

――『バケモノの子』では、ひとりぼっちの少年・九太が強さを求めてバケモノの熊徹に弟子入りしますが、激しくぶつかり合いながらも互いに信頼を深めていくふたりの描写には、新たな家族の形を垣間見ました。細田作品では、これまでもさまざまな家族の姿が描かれてきたと思いますが、そこには何か一貫するテーマがあるのでしょうか?

齋藤優一郎プロデューサー(以降、齋藤):おっしゃるとおり『サマーウォーズ』以降の作品では常に家族をモチーフとし、その新しい形を描くことにチャレンジしてきました。細田守監督は「映画は到達可能な理想を描くもの」という思いと哲学を持つ方なので、これまでも自身の体験を通して見た現実を描き、身近な出来事をモチーフにアニメーション映画を作ってきたのです。

たとえば、『サマーウォーズ』で描いた大家族の姿は、監督が奥様のご実家に行かれた時に感じた驚きや家族のすばらしさが着想のきっかけとなっていますし、 『おおかみこどもの雨と雪』では、『サマーウォーズ』の製作中に亡くなられた自身のお母様への思いや、親になることへの憧れが映画製作の動機となっていま す。

――「身近にあるものを描く」という監督のモットーが原点となっているのですね。『バケモノの子』は、細田監督にお子さんが生まれたことがきっかけとなり作られたとのことですが、そこにはどんな思いがあったのでしょうか?

齋藤:『おおかみこどもの雨と雪』の公開後、細田監督には男のお子さんが生まれました。我が子の成長を見守る中で、「子どもたちの成長と未来に対して大人は何をしてあげられるのか」と考えた監督は、映画を通してその課題と向き合うことにしたのです。監督は日ごろから、「自分の家族に起きている喜びや問題は世界中の家族にも起きていて、自分たちの家族の問題を解決することができたのなら、世界中の家族の問題をも解決できるのかもしれない」とおっしゃっています。そんな思いが、やがて『バケモノの子』の企画へとつながっていったのだと思います。

細田守監督が描く「少年の成長と心に抱える闇」

――今作では、九太をはじめとする成長期の若者が抱える心の闇が描かれていました。細田監督の過去作では、どちらかといえば快活で明るいキャラクターが多い印象でしたが、今回このようなキャラクターが生まれたのにはどのような経緯があったのでしょうか?

齋藤:『バケモノの子』では、少年が青年になり、やがて大人になっていく、という成長の物語がひとつの軸となっています。子どもが成長し、アイデンティティーを形成していく過程の中で抱く闇……それは言わば、思春期特有の葛藤や「自分は何者なのか」という不安や問いを意味しているのだと思います。たとえば、僕の実家の壁には今でも、高校生のころの行き場のない思いをぶつけて空いた穴が残っています。いま、その穴を見ると「あぁ、自分にもこんな時期や成長のプロセスがあったんだな……」なんて思うのです。

――私にも似たような経験があります(笑)。今でこそ笑って振り返ることができますが、当時の自分には大ごとだったりしましたよね。

齋藤:子どもの世界というのはある意味、狭く限定されているところがあって、大人になった私たちからすれば何気ない出来事であっても、世界が終わってしまうくらい重大な問題に思えてしまうことだってあります。しかし、だからこそ、その時にしか得られない大切な学びもたくさんあるのではないでしょうか。そんな思いもあり、『バケモノの子』では、九太たちの闇を「誰もが成長のプロセスで抱くもの」として、肯定的に描いています。

――確かに、アニメーションに限らず、物語の題材として闇が登場すると、それが善なのか悪なのか、ということばかりに目が行ってしまいがちですが、『バケモノの子』ではすべてが肯定的に描かれていますよね。

齋藤:子どもたちが大人になる過程で抱く当たり前の葛藤を私たち大人が肯定し、祝福してあげる。それはこの作品のテーマのひとつでもある「我々大人や社会が子どもたちの成長と未来に対して何をしてあげられるのか」という問いかけに対するひとつの解のようにも思うのです。

――なるほど。劇中では、熊徹の悪友である多々良や百秋坊が九太の成長を見守る姿も印象的でした。温かく、時に厳しいふたりの姿には、“古き良き時代のお節介焼きなご近所さん”という雰囲気もあって(笑)。

齋藤:まさにそうですよね。多々良や百秋坊は無責任な親戚のおじさんや、隣の家のお兄さんのような存在かもしれません。彼らも熊徹とはまた違った距離感で九太を温かく見守り、彼の成長を祝福し、そしてともに成長していきます。多々良や百秋坊を見ていると、たとえ肉親ではなくても子どもの成長に主体的に関わり、見守っていくことで、本来では味わえない子育ての充足感や、ある種の人生の豊かささえも味わえるのかもしれないと気付かされます。

いま、王道エンターテインメント映画を作る意義

――過去の作品に貫かれている「家族」というテーマに限らず、『バケモノの子』にはこれまでの細田作品のエッセンスがすべて詰まっているなと感じました。『時をかける少女』で描かれた高校生の甘く切ない青春群像は、九太と楓の掛け合いの中に確かに受け継がれていましたし、熊徹たちの格闘場面では、『サマーウォーズ』で描かれたキングカズマとラブマシーンの激しいアクションシーンがフラッシュバックしました。

齋藤:なるほど、エンターテインメントの全部盛りのような作品ということなのでしょうか(笑)。でも、それはあながち間違ってはいません。細田監督が本企画を立ち上げる際に掲げたもうひとつのチャレンジに、「子どもと大人が一緒に楽しめる夏のアニメーション映画の王道を目指したい」ということがありました。

――そう言われると、まさしく『バケモノの子』は王道アニメーション映画に仕上がっていますね。

齋藤:これまでも夏のアニメ-ション映画には、「少年が不思議なものや世界と出会って冒険をし、ひと皮むけて、大人になる」という王道のシナリオがありました。そこで私たちも、この暑い夏に爽やかでスカッとしたアクションをふんだんに盛り込んだアニメーション映画にチャレンジしてみようと考えたのです。これまでの細田作品にも言えることですが、最近の日本映画には女性を主人公とする作品が多いように思えます。そんな中で、少年を主人公にした新たな王道に挑戦することには大いに意義があると思うのです。

――ストーリーだけではなく、作中に登場する土地にも、これまでの作品との違いを感じました。過去の細田作品は、どちらかと言えば田舎を舞台とすることが多いイメージでしたが、今作では都会の象徴である渋谷を舞台としていますね。

齋藤:渋谷では今も2020年の東京オリンピックに向けて都市開発が行われていたりと、「常に変化を肯定する街」というイメージがあります。そんな変化から生じるバイタリティーやダイナミズムこそが新しい文化や価値観を絶え間なく生み出し続けるのでしょう。そんな意味では、本作のテーマである「成長」と渋谷の「変化」は、まさに同義なのだと思いますし、『バケモノの子』の舞台は渋谷以外にはあり得なかったと思っています。

キャラクターに命を吹き込む豪華キャスト陣との出会い

――細田作品を見ていると、キャラクターの顔がキャストの方々にそっくりでいつも驚かされます。今回も熊徹役の役所広司さんや、百秋坊役のリリー・フランキーさんなど、豪華俳優陣が一同に会しましたが、どのような基準でキャスティングをされたのでしょうか。

齋藤:キャスティングの際には「映画の人物と共鳴する魂を持った方と出会えるまで、あらゆる可能性を探らせていただく」という姿勢を大切にしています。その手段はオーディションなど、さまざまですが、基本的にこの姿勢は『時をかける少女』のころから一貫していると思います。

――そんな妥協のない姿勢が、キャラクターとキャストの高いシンクロを生んでいるのですね。

齋藤:「映画の登場人物の顔とキャストのみなさんの顔が似て見える」という声や、「もしかしたら当て書きをしているのでは?」という声は、前作、本作とよく耳にします。それこそが、映画の登場人物とキャストのみなさんの魂が共鳴し合っている証だと思うのです。たとえば、熊徹のチャーミングなところやドンッと心の幹が太いところなどは、役所広司さんご自身が持つ魅力や本質にも通じているのではないでしょうか。

齋藤プロデューサーが語る作品の見どころ

――いろいろと製作の裏話をお聞きしてきましたが、齋藤プロデューサーが個人的に印象に残っているシーンと、映画の見どころを教えてください。

齋藤:これは難しい質問ですね……。僕は細田作品には鏡のような機能があると思っていて、観る人々の記憶や人生観などによって、さまざまな楽しみ方があると考えています。そんな思いもあるので、これはあくまで僕の個人的な感想として聞いてくださいね。

自分の中で印象に残っているシーンのひとつに、覚悟を決めた9歳の九太が熊徹を追って路地へ向かう場面があります。このシーンは、少年が冒険の扉を開けて、未知の世界へと踏み出す“始まり”を象徴しています。これぞまさに、子どもと大人が一緒に楽しめる夏のアニメーション映画の醍醐味なのではないでしょうか。観た時は本当にワクワクしました!

――ありがとうございました。最後にこれから劇場へ足を運ぶ方々にメッセージをお願いします。

齋藤:この作品は、熊徹と九太の成長、そしてそのふたりが親子以上の絆を手に入れていく新しい家族の物語です。そして、この暑い夏にふさわしい爽やかでスカッとした新しいアニメーション映画の王道ができたのではないかと思っています。ぜひ劇場へ足を運んでいただけると本当にうれしいです。どうぞよろしくお願い申し上げます。

《作品情報》
バケモノの子
7月11日(土)TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本・脚本:細田守
企画・制作:スタジオ地図
〔声の出演〕
役所広司 宮粼あおい 染谷将太
広瀬すず 山路和弘 宮野真守 山口勝平
長塚圭史 麻生久美子 黒木 華 諸星すみれ 大野百花 津川雅彦
リリー・フランキー 大泉 洋
主題歌:Mr.Children「Starting Over」(TOY'S FACTORY)
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