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それはあまりにも間が悪いときに起きた失敗だった。

米国時間2015年6月28日に打ち上げられた「ファルコン9」ロケットは、離昇から2分19秒後、突如として機体が分解した。ファルコン9の打ち上げは今回で19機目で、失敗は初めてのことだった。

ファルコン9の先端には、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を輸送する「ドラゴン」補給船の運用7号機が搭載されていたが、この失敗で物資は届けられなかった。間が悪いことに、今年4月にはロシアの補給船が、さらに昨年10月には米国の補給船も打ち上げ失敗で失われており、ISSへの物資補給に滞りが生じていた。少しでも多くの物資が必要とされていた最中に、今回の事故が起きてしまったのだ。

さらに間が悪いことがもう一つあった。米航空宇宙局(NASA)は現在、国際宇宙ステーション(ISS)への補給物資や宇宙飛行士の輸送を民間企業に担わせる計画を進めており、ファルコン9はその計画の中で、米国のスペースX社によって開発されたロケットだ。しかし、昨年10月には同様の計画で開発された別会社のロケットが打ち上げに失敗し、「民間に任せて大丈夫なのか」という声が上がりつつあった。そして今回、ファルコン9が失敗したことで、よりその声は大きくなりつつある。

はたしてISSの運用と、民間の宇宙開発の今後は大丈夫なのか。そもそも今回の失敗はなぜ起きたのか。

本連載では打ち上げ再開までの動きを追っていきたい。

○ファルコン9ロケットとはどんなロケットなのか

ファルコン9ロケットを開発したのは、米国カリフォーニア州に本拠地を置くスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ社、略してスペースX社という会社だ。設立は2002年とまだ若いが、すでに大手のロケット会社から脅威と認識されるほどの実力を持つ会社にまで成長している。

創業者はイーロン・マスク氏という人物で、インターネット決済サービスでおなじみのPayPal(正確にはその前身のX.com)の創業者でもあり、そのPayPalを売却して得た資金を基に立ち上げられたのがスペースX社だ。マスク氏はもともと宇宙が好きで、ファルコンというロケットの名前も、映画『スター・ウォーズ』に登場するミレニアム・ファルコン号にちなんだものだという。

同社はまず、「ファルコン1」という小型のロケットを開発し、打ち上げ試験を繰り返した。2006年から2008年にかけて行われた最初の3回は失敗に終わったが、2008年9月28日の4号機の打ち上げで成功を収め、続く2009年7月14日の5号機も成功している。

そして2005年には、同社は、米航空宇宙局(NASA)が立ち上げた国際宇宙ステーション(ISS)への補給物資や宇宙飛行士の輸送を民間企業に担わせる計画に名乗りを上げ、新たに大型ロケットの「ファルコン9」の開発も始めていた。ファルコン9はファルコン1をそのまま大きくしたような姿をしており、ロケット・エンジンも、ファルコン1の第1段エンジンとして開発された「マーリン1C」を9基まとめて装着するという、手堅いものだった。

2010年7月4日に行われたファルコン9の1号機、また同社にとってわずか6機目に過ぎないロケットの打ち上げは、しかし見事に成功した。その後5号機まで連続で成功し、6号機からは改良型のファルコン9に切り替えられた。名前は同じだが、姿かたちが変わり、打ち上げ能力も大きく増えており、ほとんど別物のロケットと言ってよい機体になっている。先代のファルコン9はv1.0、この改良型をv1.1とも呼ぶ。

ファルコン9 v1.1は、全長が68.4m、直径は3.66mと、たとえばH-IIAロケットと比べると細長く、華奢な印象を受ける。打ち上げ能力は、ISSなどが回っている地球低軌道に13トン、通信衛星などを打ち上げるための静止トランスファー軌道へは4.8トンと、H-IIAロケットよりも若干大きく、世界のロケットと比べても中の上ぐらいに分類される、比較的大きな能力を持っている。

打ち上げ価格は公称で6120万ドル(現在の為替レートで約74億円)と、他のロケットと比べると安く、これが衛星打ち上げ市場からは大きく歓迎されている。なお、以前はもっと安かったが、さまざまな試験や、新しい設備への投資をまかなうためか、近年徐々に上がりつつある。

ファルコン9はこれまでに19機が打ち上げられ、そのうち1号機から5号機まではファルコン9 v1.0が、6号機以降はすべてファルコン9 v1.1が使われている。打ち上げに失敗したのは、v1.0、v1.1を通して、今回が初めてのことだった。

○ソフトウェア開発のやり方を取り入れたロケット開発

ところで、v1.0やv1.1という名前が、まるでソフトウェアのようだと感じた方もおられるかもしれないが、スペースX社やファルコン9の特徴は、まさにソフトウェアのような開発手法を採っている点にある。

たとえば旧来のロケットであれば、十二分に時間をかけ徹底的に設計や試験を行い、設計変更があればさらに十二分に時間をかけて変更と試験をし、あるいは打ち上げて問題が出れば、やはりまた十二分に時間をかけて改良と試験をする。開発が始まってから1号機が打ち上げられるまでに、10年以上の歳月がかかることも珍しくはない。

一方、スペースX社では、もちろん設計や試験を十分にやることに違いはないが、たとえばロケット全体に影響のない範囲で毎回何らかの改良を加えてみたり、ちょっとした実験機を造って飛ばしてみたり、そのロケットにも毎回改良を加えたりと、さらにその成果を本番のロケットに組み込んでみたりと、これまでのロケットとはおよそ異なる造り方がされている。これはちょうど、作ったソフトウェアをまず走らせてみて、バグがあれば書き直してまた走らせ、また製品として世に出した後でバグや改良したい点が出てくれば、その都度直してヴァージョン・アップする、というのと似ている。スペースX社はそれを、実際にロケットを飛ばしながらやっているのだ。実際、開発から打ち上げまでの期間は、ファルコン1は約3年、ファルコン9も約5年ほどと短い。

その一方で、ロケットには大して革新的な技術は使われていない。たとえば大きな推力が必要なファルコン9の第1段には、新開発の大推力エンジンを用いるということはせずに、前述のようにファルコン1で使われたマーリン1Cロケット・エンジンを9基まとめて装着するというやり方が採用された。これはクラスタ化といって、確実に大推力が得られる古典的な技術だ。マーリン1C自体の性能もそこそこといったところで、また機体の構造などに最先端の新素材をふんだんに使っているわけでもない。それでも大型の人工衛星や有人宇宙船を十分に飛ばせるロケットにはなっている。

○新たなる希望、初めてのつまずき

古いやり方を革新的な手法で回すということが、スペースX社の特徴であり、強みだ。その評価は十人十色で、こうしたやり方を「単に見せかけだけだ」という人もいれば、「こういうやり方を採っていることこそがすごい」という評価もある。

また、そうやって造られたロケットがある程度完成し、余裕が出てくれば、新しい技術の取得にも貪欲に乗り出している。たとえば3Dプリンターを使ってロケット・エンジンを造ったり、マーリン1Cも改良されて、世界最高水準の性能を持つマーリン1Dが生み出されたり、またメタンを使う大推力エンジンを開発したり、エンジンの動きを解析するための新しいソフトウェアを自社内で作ったりと、さまざまな新技術の開発を並行して進めている。

そして極めつけには、ロケットの第1段機体を打ち上げ後に地上に着陸させ、再使用するという実験だ。これまでに垂直離着陸実験ロケットによる、地上から1kmほどまで上昇した後、そのまま着陸する飛行実験や、実際のファルコン9を使い、打ち上げ後に第1段機体を大西洋上に着水させるといった試みが行われている。また今年からは、大西洋上に浮かべた船の上にピンポイントで着地させる試験が始まっており、これまでに2回実施されたが、2回とも満足には成功せず、今回の打ち上げが成功していれば、3回目の試験が実施されることになっていた。

他にも、妙にSFチックな外見をした宇宙船を造ったり、火星への有人飛行や移住を目標として掲げていたりと、とにかく楽しい、面白い技術や構想にあふれた今までにないロケット会社、それがスペースX社だ。

アポロが月に降り立ったころ、近い将来誰でも月世界旅行に行ける日が来るといわれていたが、それは叶わなかった。スペース・シャトルが飛び始めたころ、そのうち誰でも宇宙に行ける時代が来るといわれていたのに、ついに来なかった。宇宙開発の歴史に裏切られ続けてきた人々からすると、スペースX社が次々に新しい技術や構想を発表する様は、閉塞間が漂う宇宙開発の現状を打ち砕く、新たなる希望のようにも見えた。次は一体どんな新しい宇宙開発の姿を見せてくれるのか。そんな期待があった中での今回の失敗は、多くの宇宙ファンが衝撃を受けた。

さらに今回は、大きく2つの点において、あまりにも間が悪いときに起きた失敗でもあった。

(続く)

(鳥嶋真也)