「おおかみこどもの雨と雪」DVD/バップ

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一粒で二度楽しめる細田アニメ


「よろしくお願いしまーす!」が「バルス!」のようにTwitterで猛威を振るった『サマーウォーズ』の放送から1週間、本日『おおかみこどもの雨と雪』が金曜ロードショーで放送される。2012年に公開された劇場アニメで、『サマーウォーズ』に続く細田監督のオリジナル作品第二作だ。

ある国立大学に通っていた女子学生がモグリで講義を受けていた男子に声をかけたら、実はオオカミ男。子供を二人出産してから最愛の人に先立たれ、一人で子育てしたものの都会での暮らしに限界を感じ、田舎に引っ越して狼と人間の間に生まれた子供たちの行く末を見届けるお伽話だ。
細田アニメは一粒で二度楽しめる。細やかで大胆な演出力と最高峰のビジュアルを満喫した映画の帰りに、“勝手に反省会”が大いに盛り上がるのだ。『サマーウォーズ』も、栄おばあちゃんが緊急事態にてんてこ舞いの政治家や消防署に激励の電話をかけまくるのは業務妨害じゃないの、世界の危機をインターネットの叡智を結集せずに家族の身内だけで問題を解決する意味って何、破滅を招くLOVEマシーンを管理棟に閉じ込めたならマシンの電源を落とせばいいのでは……ああ、楽しかった!!

これは紛れもなく細田監督の「才能」だ。アニメ映画の定義は監督の数だけあるが、細田作品は「観ることの心地よさ」にフルスイング。その中にはストーリーの整合性も一応は含まれるものの、映像の快楽と衝突すれば、ストーリーが道を譲る。そこに一切の躊躇いがない、ザッツ・エンターテイナーだ。

トビラをこじ開ける映像の暴力


『おおかみこどもの雨と雪』でも、手が滑れば事故りそうな物語を運転する鮮やかさに胸がすく。例えば、妊娠を知らされた花は病院の前で後ずさる。うん、狼男の子供を生むかどうかは迷うよね……すぐに育児の本を手にしていて、産むことに迷いなし!
愛する夫の遺体が清掃車にダイナミック回収された衝撃をたちまち吹っ切ってるのも、「シングルマザーの子育て」にさっさと行くため。情緒を知り尽くしつつ、感傷に捕らわれない細田監督の割り切り方がハンパない。
我が子が“おおかみこども”だとバレないように都会での人付き合いを避けるのも、家族水入らずの空間で赤ちゃんの魅力を引き出すため。夜泣きする子供が噛み癖のあるチビ狼に変化し、二人と二匹分の散らかしっぷりを働く可愛さと言ったら、ノンケの人にケモナー嗜好(ケモノ好き)のトビラをこじ開ける映像の暴力である。

細田アニメはターン制


田舎に舞台が移れば、日本最強の兵器である“菅原文太萌え“を用意したパーフェクトな布陣。最初はぶっきらぼうだった韮崎の爺ちゃん(声:菅原文太)が、「土からやり直すんだ」「畝を作れ」「もっと広く、低すぎる」と花の周りをうろつくツンデレっぷりは想定通り。
このお爺さん、意地悪するかも……とハラハラせずに萌えられるのは、細田アニメの作りがターン制だから。一幕につき一つのコンセプト、そのターン内は脇目もふらずに全力投球。「時かけ」ならヒロインが時間跳躍でイタズラするときはイタズラだけ、困るときは困る、2つは決して混ざらない。
本作では韮崎の爺さんは「田舎暮らし素晴らしい」のターン。都会では上手く行きませんでしたが、田舎は近所の親切でなんとかなりました、以上終わり。
おおかみこどもの二人、弟の「雨」と姉の「雪」は、ターンの名前でもある。二人が興奮して駆け回る“雪”山のシーンは、絵本で狼が悪者にされるのを悲しがってた弟が野生に目覚めるきっかけだ。そして嵐がきて“雨“の中、弟は狼になる道を選んで山へと消える。森林の中を四足歩行のケモノが躍動するさまや、雄大な雪景色を一望できる視点は、劇場アニメらしいリッチな見せ場でもある。

ケモノと子供に対する観察の解像度


「今回の主人公は母親です。親はどこから始まってどこまでが親かという映画にしようと思ったんです」
インタビュー(2013年2月15日「アニメアニメ」)の中でそう述べた細田監督の意図は過不足なく成し遂げられている。
出会った、産んだ、育てた、巣立った。人間の子供なら親離れまで早くとも18歳までかかり、養育費のみならず進学費までのしかかって話が現実の重みを帯びるところを、「狼の10歳が十分大人」というセリフで乗り切った。「子供と動物」だけでも興行的に美味しいのに、ドラマの圧縮にも使っていてウマイ!と唸らされる。
誰もが共感できる「子育て」という小宇宙の中には、細田監督のフェティッシュが充満している。子供とケモノの仕草が可愛らしくも生々しいーーつまり子供を観察する眼力の解像度が4Kどころじゃない。狼に変身するから、幼女が服を脱いでも不可抗力……さすが宮崎駿監督の後継者との呼び声もあった細田守だ。

おおかみこどもの雨と雪』は最高の反省会向けアニメ!


2012年の劇場公開当時も、鑑賞した後に「勝手に反省会」は開かれた。が、言葉は少なめ。『サマーウォーズ』は主語が「大家族」、述語が「世界を救う」。どちらもデカくてテンションも上がった。
『おおかみこどもの雨と雪』はシングルマザーの子育て。主語も述語も控えめで、「狼男の子供」というファンタジーも被せていてスキが少ない。子供が育っていくとか、子供を育てる親の描写とか、未婚で子供もいない僕らからは何も言いようがない。『サマーウォーズ』の経験を踏まえてか、ガードもガッチリ固められてる。

それでも、あえて「反省」しようじゃないか。児童相談所の職員がいう予防接種は子供の正体バレを気にしてる場合じゃない命に関わる提案なのに、無視してもいいの? 貯金を切り崩すほどの貧しさは高校生の時給のほうがマシというバイトで補えないのではないか。田舎では一人では生きていけないと悟るなら、引っ越す前に隣人や母子家庭への補助など“都会”と向き合ったのか、他者と関わろうとしていたのか……。

細田アニメはやっぱりスゴい。完全にファンタジーにすれば避けられる現実との間に生じる軋みや歪みを引き受け、それを演出や絵作りで軽やかに乗り越えていくのだから。劇場では快楽原則のジェットコースターに身を任せ、劇場を出れば社会の矛盾への気付きまで持ち帰れる。最高の反省会向けアニメだ!
(多根清史)