対人コミュニケーションが苦手で精神科に電話ができない? shutterstock.com

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 インターネットを使った自殺予防に取り組んでいるNPO法人「OVA(オーヴァ)」。その活動の中心はメールを使った支援にある。代表理事の伊藤次郎さんにその支援内容について聞いた。

 「自殺を考えるほど追い込まれてしまっている人は、自分を取り巻く複数の問題を前に、どこから解決していいか分からず圧倒されている場合がほとんどです。複合的に重なる問題をまずは整理し、どこから手をつけるべきか一緒に考えていくのが私たちの仕事になります」

 NPO法人「OVA(オーヴァ)」代表理事の伊藤次郎さん
 OVAに届く最初のメールは、「死にたい」などの一言である場合も多い。伊藤さんをはじめとするOVAのスタッフは、「いまの生活状況を教えてくれませんか」といったメールを送る。そして、どのようなことで悩んでいるのか、いまの状態を聞かせてほしい、ということを何回ものメールのやり取りを通してゆっくりと伝えていく。

 「お金がない、健康面の問題、住む家がないといった複数の問題を把握し、見通すことで、はじめて解決の糸口が見えてきます。自殺を考える人は心理的視野狭窄に陥ってしまっているケースが多いので、まずは状況を整理するだけでも、少しだけ前に進むことができることも多いです」

 初めのころのメールのやり取りでは、「K6」というスクリーニング検査にメールで答えてもらうこともある。これは6つの質問に対し、どの程度あてはまるか解答することで、心の健康状態を調べるもの。これらの結果とメールの内容を踏まえて、OVAのスタッフは相談者に精神科の受診や生活困窮者支援団体へのアクセス、生活保護の受給などを勧めることが多いが、これに対し相談者はしばしば抵抗を示すという。

 精神科を受診したら、精神病患者のレッテルを張られてしまうのではないか、薬漬けにされてしまうのではないか。また、生活保護や生活困窮者の支援団体にアクセスしたら、それによって余計に差別されるのではないか――。そういったさまざまな恐れが相談者のなかにはある。だが、その理由を明確に言語化するのは決して容易ではない。

 そこで、OVAのスタッフは、メールを通じて相談者がなぜ精神科や生活保護などの現実の相談窓口に行きたくないか、その障壁となっていることをひとつひとつときほぐし、「行くのを恐れる場所ではない」ことを説明していく。「精神科に行くとお金がかかるのでは」と躊躇する人には、大体いくらくらいの受診料がかかるのかを情報として伝える。

"テキストベース"の相談窓口が必要とされる理由

 「精神科にアクセスできない理由として、もっと現実的なこともあります。電話が苦手で、受診の予約をすることができないというのです」

 メールとネットが主なコミュニケーション手段となっている若い世代のなかには、知らない相手が出る固定電話に連絡して、受診の予約を取ることとても困難に感じてしまう人もいる。そういう人のために、OVAでは実際に問い合わせの電話で話すべき内容を文章化し、メールで送ることもある。「初診なのですが、今週空きはありますか」といった内容だ。

 「20代の若者のなかには、大人ときちんと話した経験に乏しい人がいる。彼らのコミュニケーション手段は、LINEやFacebook、Twitterなどのテキストベースのものが主流です。そういう人は、行政が相談窓口の電話番号を用意しても、なかなか電話をかけてくることができない。それでも、メールでアクセスできるOVAならつながることができる。それが"インターネットによる自殺予防を行っている、我々の存在価値のひとつだと思うんです」

 そして、伊藤さんがOVAの活動で大事にしているのが、入り口はネットであっても、その人とやり取りをすることで、精神科医や支援機関など、その人が現実社会でつながれる場所を見つけるように導くことだ。"ネットからリアル"につなぐ。それこそが、インターネットで自殺を防ぐことを支援する最大の目的なのである。
(文=里中高志)

里中高志(さとなか・たかし)
1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉士。フリージャーナリスト・精神保健福祉ジャーナリストとして、『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。