「戦後経済史」

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ギリシャの債務問題は5日行われた国民投票が即日開票され、欧州連合(EU)などが金融支援の条件として受け入れを求めた財政緊縮策への反対が賛成を大きく上回るというマーケットの大方の予想を裏切る結果となった。ギリシャのユーロ離脱がマーケットの視野に入り、混乱が懸念されている。ここ当面は単一通貨「ユーロ」の資金繰りがギリシャ経済の命運を握る。この通貨の流動性供給の役割を担う欧州中央銀行については、「欧州中央銀行の金融政策」(河村小百合著 金融財政事情研究会 2015年1月)がその概要や最近の状況までを知るのに最適だ。単一通貨「ユーロ」については、導入当初から、経済理論からして、通貨と財政は切り離せないとされていたにもかかわらず、「政治主導」という勢いでそれをないがしろにしてしまったといわれる。見通しの良い経済学者のものとして、「逆流するグローバリズム」(竹森俊平著 PHP新書 2015年5月)が手頃だ。また、そうはいっても、ヨーロッパ統合の持つある種の「しぶとさ」を知るには、気鋭の論者の1冊「統合の終焉」(遠藤乾著 岩波書店 2013年4月)をもう一度読み返したい。

ギリシャの危機が生じたのは、ユーロ加盟のために、国家の財政状況を複雑な金融取引で粉飾したことが判明したことによる。最近話題の「帳簿の世界史」(ジェイコブ・ソール著 文藝春秋 2015年4月)は、「会計と責任の相互作用は壊れやすく、しかもそれが一企業どころか一国の運命を決定付けることがある」と喝破する。日本でも、一流企業の代名詞の1つである東芝が、会計の粉飾問題で大揺れだ。

会計と責任の相互作用が一国の運命を決定付けることも

翻って、ギリシャよりも財政状況が悪い日本はどうであろうか。日本銀行が国債の大量購入で潤沢な資金供給をしてくれているおかげで、マーケットは平穏そのものだ。しかし、マクロ経済学者の大瀧雅之氏が「平成不況の本質」(岩波新書 2011年12月)で正当に指摘するように人々が通貨の「固有の価値」(intrinsic value)を疑い出せば、地獄の窯のふたが開く。ギリシャは醒めてみれば、他国の債権者に対して借金を踏み倒すという選択肢があるが、国内で国の借金のほとんどを消化している日本は逆にそのような手段はなく、国民のなかで借金棒引き負担の押し付け合いの悲劇となる。安保法制の影で注目を浴びなかったが、今後5か年の財政再建化計画である「経済・財政再生計画」が、6月30日に「経済財政運営と改革の基本方針2015」に組み込まれて閣議決定された。高い経済成長を前提とした内容で、楽観的だという批判がされている。通貨の「固有の価値」の裏打ちとなる国家の会計責任が果たせているのか、かなりぎりぎりのところにきてしまったと痛感する。

高めの経済成長をそれでも実現するために不可欠なものは何か。経済学者の野口悠紀雄氏の新著「戦後経済史」(東洋経済新報社 2015年6月)は、日本人が、「豊かになるには、まじめに働く必要がある」という冷徹な経済原則を忘れて、国家や組織に寄りかかって生きられるという幻想に浸っていると警鐘を鳴らす。「産業力増強という裏付けなしでも高齢化社会を乗り切れる」というのは、戦争中の「竹やりとバケツ」で立ち向かえということと同義だという。野口氏は、情報化が進んだ現在、日本企業が得意とした垂直的統合のモデルから、水平分業モデルに移行し、そこで高付加価値を生み出せなかった日本の製造業が凋落したという。野口氏の原則論からの鋭い分析に今こそ学ぶべきだと思う。

経済官僚(課長級)AK