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●絞り開放値F1.8を生かしてボケ表現を楽しむ
一眼レフの入門者にとって、標準ズームの次に選ぶべきレンズは何か。キットレンズとは違った写りを味わいたいなら、開放値の明るい単焦点レンズがお勧めだ。中でもキヤノン EOSユーザーなら、これを選べば間違いない。そんな入門者向けの新しい定番レンズ「EF50mm F1.8 STM」の写りと使い勝手をレポートしよう。

キヤノン「EF50mm F1.8 STM」は、今年5月のリリース以来、好調な売れ行きを続ける人気レンズのひとつ。1990年に発売されたロングセラー「EF50mm F1.8 II」の後継機種であり、気軽に持ち歩けるコンパクトさを維持しながら、外装のブラッシュアップやAFの静音化、操作性の向上などを図っている。

いちばんの魅力は、実売1万円台の低価格ながら、絞り開放値が明るく、ボケを生かした表現が気軽に楽しめること。下の写真は、絞り優先AEモードを選び、開放値のF1.8で撮影したものだ。ピントを数メートル先のレールの中間あたりに合わせたが、そこから前後にふんわりとしたボケが生じ、奥行きを感じる写真となった。

一方で、絞りを絞り込んだ場合には、被写体のディテールをくっきりと再現する精細な写りとなる。下の写真は絞りF8で撮影。シャープネスの高い描写が得られた。

レンズの焦点距離は50mmで、対角線画角は46度。昔ながらの由緒正しい標準レンズの画角であり、光学的な誇張が目立たず、眼前の風景を自然なフレーミングで切り取ることが可能だ。

ここまでの3枚はフルサイズ機「EOS 6D」を使ったが、APS-Cサイズ機に装着した場合には、焦点距離80mm相当の中望遠レンズとして利用できる。次の写真は、APS-Cサイズ機「EOS 70D」を使って、絞りF2.8で写したもの。バリアングル液晶を生かしてローポジションにカメラを構えることで、背景だけでなく近景にもボケを写し込み、主役であるウミネコを際立たせた。

開放値の明るさはボケの表現だけでなく、暗所撮影に有利という側面もある。下の写真は、展示された航空機のコクピットを捉えたもの。かなり暗いシーンだったが、絞りをF1.8に、シャッター速度を1/25秒に、感度をISO5000にそれぞれ設定することで、手持ちでブレを起こさずに撮影できた。また、ここでも前後のボケによって奥行きが生まれ、臨場感のあるイメージとなった。

注意したいのは、絞り開放値における画像周辺の光量落ち。こうした薄暗いシーンではあまり目立たないが、日中の明るい空などを撮ると周辺減光が気になる場合がある。RAW現像時に補正する、またはもう少し絞り込んで対処しよう。今後、同社から補正データが公開されれば、カメラ内機能での自動補正も可能になるだろう。

●進化した外観デザインと近接性能
○進化した外観デザインと近接性能

レンズの全長は39.3mmで、質量は約160g。従来モデルに比べて30g重くなったが、それでもフルサイズ対応の単焦点レンズとしては小型軽量といえる。カメラバッグに常時入れておいても大きな負担にはならないだろう。

外装も従来モデルから大きく改良され、樹脂主体ながら高品位な作りとなっている。マウント部は樹脂製から金属製に変更になり、剛性感が向上。高級と呼ぶのはさすがに言い過ぎだが、チープな印象は払拭されている。

基本的な光学設計は従来モデルを継承する。そのうえで、デジタルカメラでの撮影に適したコーティングを適用したり、絞りを5枚羽根から円形絞りの7枚に変更するといった改良を加えている。

円形絞りを採用したことで、絞りを1〜2段絞り込んだ場合でも、丸ボケの角が目立たず、木漏れ日や光源などを正円に近いボケとして表現できるようになった。

下の2枚は、新旧の2本を使って、絞りF2.8のボケ具合を比較したもの。従来レンズのボケは五角形だが、新レンズでは正円に近い滑らかな丸ボケとなっている。個人的には、五角形のボケも効果のひとつとして悪くないと思うが、一般的には丸ボケのほうが自然に感じるはずだ。

なお、円形絞り/非円形絞りの違いとは別に、新旧の2本とも口径食の影響は見られる。そのため、画面周辺の丸ボケに関しては、F1.8〜F2.8あたりでは、ラグビーボールのようなややつぶれた円形になる。このあたりはフルサイズ用の明るいレンズでは一般的なレベルだ。

操作面では、フォーカスの駆動方式が変わったことが大きい。従来レンズはDCモーター駆動だったため、ジーコジーコと鳴るAF駆動音がうるさかった。新レンズではギアタイプのSTM(ステッピングモーター)を採用することで、比較的静かなAF駆動を実現した。まったくの無音ではないものの、AF作動中はくくくーという小さな音に抑えられている。

AFスピードについてはあまり変わらず、大きなストレスを感じるほど遅くはないが、かといって超高速ともいえない。STMレンズとしては標準的な速度だ。測距点を被写体に確実に重ねることができれば、下の写真のような動きの瞬間でも、狙った位置にきっちりと合焦する。

マニュアルフォーカスは鏡胴部のリング回転によってスムーズに作動する。ほかのSTMレンズと同じく、フォーカスリングはどこまでも回転し続ける仕様だ。距離目盛りはない。

使い勝手を高める進化といえるのは、最短撮影距離が従来の45cmから35cmに短縮されたこと。最大の撮影倍率は0.21倍。フルサイズ機の場合、一万円札を画面の横いっぱいに写せるくらいの倍率だ。

下の2枚は、そんな近接性能を生かして、植物をクローズアップで捉えたもの。外部ストロボ「600EX-RT」を半逆光気味に当てることで陰影をつけ、暗闇から浮かび上がるような表現を狙った。

APS-Cサイズ機を使った場合には、35mm判換算の撮影倍率が高くなり、より小さなものを大きく写せるようになる。キット付属の標準ズームのほうがもっと近寄れるので、本レンズの撮影倍率自体には大きな驚きは感じないかもしれない。だが、開放値が明るい単焦点の標準レンズでここまで近寄れるのは希少といっていい。下の写真では、明るさと近接性能を生かし、薄暗い水槽内の金魚を画面いっぱいに捉えてみた。

「EF50mm F1.8 STM」は、開放値の明るさと携帯性のよさ、価格の求めやすさを兼ね備えたレンズだ。AFスピードには多少もの足りなさを覚えるが、価格を考慮すれば許せてしまう。キット付属の標準ズームや望遠ズームに追加して使うことで、より幅広い表現が可能になるだろう。

しかも50mmという焦点距離は、撮り方の工夫次第で広角的も中望遠的にも使える応用力の高い焦点距離だ。あえてこの1本のみを持ってスナップ撮影に出掛けるのも楽しいはず。そして使えば使うほど、単焦点レンズの面白さに夢中になる。そんなレンズである。

(永山昌克)