再発率が高い性犯罪には医療のアプローチが重要  shutterstock

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 性依存症のなかでも、痴漢や盗撮、さらには強姦、児童買春といった犯罪まで及んでしまうのは、大部分が男性だ。性犯罪者が社会的な制裁を受けるのは当然だが、被害者も大きな苦痛を受ける。このような犯罪行為におよぶ性依存症に対して、どのような医療的治療法があるのだろうか。

 そのひとつとして、「榎本クリニック」(東京都豊島区)の取り組みを紹介する。同クリニックでは、主に性犯罪者を対象とした治療プログラム「性依存デイナイトケア」を実施している。

 「性依存症という概念自体を、これまでさまざまな議論がなされてきた。そもそも、性に関する問題を依存症と呼んでいいのか、という問題提起がなされたこともある」(同クリニックの深間内文彦院長)

 「ほかの依存症と根本的に異なるのは、男性は"性的欲求"を生まれながら皆持っていること。これがアルコールや薬物と大きく異なる点です。男性の身体は日々精子が"つくられる"から、『アルコールを断つ』のとは意味合いが違う」

 誰もが持つ欲求とはいえ、それをどう解消するか。パートナーとの一般的な性交であれば問題ないが、常に「刺激や新奇性を求めたい」となると、バランスを損なうことになる。

 榎本クリニックでは現在、性依存症の専門外来と週3回、午後7時から90分間の治療プログラムSAG(Sexual Addiction Group-meeting)を実施している。SAGでは、自らの性的問題行動を知るための認知行動療法や内省、振り返り、言語化などの心理教育プログラムを行う。

 「実際に痴漢などを犯して捕まったあと、弁護士経由で当クリニックを受診する人が多い。我々は再発防止を目指しているが、残念ながら罰金刑などが確定すると治療から離れ、時がたつと再び性犯罪に走る――。そういうドロップアウト率が高いのが現実だ」

抗うつ薬の副作用を逆手に薬物療法も

 性依存症には、心理教育や認知行動療法のほか、抗うつ薬による薬物療法を併用することもある。抗うつ薬の副作用である、性欲低下、勃起・射精の減少効果を逆手に取り、それを性依存症の治療に利用するのだ。

 また、抗うつ薬の効果で、強迫的な思考が減り、性衝動の抑止につながることもある。患者が希望すれば、抗男性ホルモン療法(自費)を行う医療機関もある。

 これらの治療は一定の効果を上げるが、性犯罪者の治療に関しては、いまだ社会全体の悩みである。

 「性的欲求を完全に断つのは難しいため、治療にも知的解決能力が求められる。性犯罪の防止には、物理的、心理的な対処が不可欠」(深間内院長)

 具体的な抑止対策には、次のようなものがある。

◯痴漢の場合、出勤時の電車の乗車時間を早めたり、遠回りをして、空いた車両に乗る。
◯スマホ盗撮は、スマホに「音が鳴る鈴」などの設定をする。
◯性欲求が起こりやすい状態(飲酒、睡眠不足、精神的な疲労時など)を把握する。
◯性衝動が起きたときに、抑止力のあるもの(大切な家族の写真など)を携帯する。
◯使用するPCに、性的なWEBサイトのアクセスを制限するフィルターなどをかける。

 「性犯罪には厳しい処罰とともに、その後のフォローがなければ再発する。そして、忘れてはならないのが、性犯罪の被害者がいること。被害者は大きな心の傷を負い、被害者の親族も犯人を憎悪する。そういう感情に、加害者がいかに接近できるか。性犯罪の被害者を生み出さないことが、我々に課せられた命題でもある」(深間内院長)

 性犯罪は再犯率が高い。それを防ぐには、医療的なアプローチがますます重要となるに違いない。


里中高志(さとなか・たかし)
1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉士。フリージャーナリスト・精神保健福祉ジャーナリストとして、『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。