麺は口ほどにものを言う〜ご当地ヌードル探訪〜 半世紀以上親しまれる“中華”と“日本”の異色コラボ 高知県香南市赤岡町の「中日そば」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、高知県香南市赤岡町に「中日そば」という一風変わったヌードルを探しに出発。目的地のあかおか駅へは、JR高知駅から土讃線と、土佐黒潮鉄道ごめん・なはり線を乗り継いで行きます。

高架式のあかおか駅。駅のイメージキャラクター「あかおか えきんさん」の姿も。

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駅の階段を下りた先にあるゲート。ただ一言「どろめ」と書かれています。

駅前はどこか独特な雰囲気。アンパンマンの作者・やなせたかしがデザインした、赤岡町ゆかりの絵師・金蔵がモデルのキャラクター「あかおか えきんさん」が愛嬌を振りまく一方で、「どろめ」と書かれた謎のゲートがお出迎え……。実はこれ、漁業がさかんな赤岡町の特産品「生しらす」のことだそうです。

中日そばは、そんな赤岡町発祥の麺料理。名前は中華そばに似ていますが、やはりラーメンの一種なのでしょうか? 駅にほど近い「とさを商店」で、その正体を確かめてみましょう!

■ラーメンとうどんの異色コラボ

中日そばと書かれたのれんと旗が目印。

迎えてくれたのは、店主の野村真仁さん。メニューには、定食や丼モノなど普通の食堂の料理も並んでいますが、今日の目当ては中日そば。早速注文してみましょう!

とさを商店の「ちりめん中日そば」。

これは……何と言えば良いのでしょう? 麺は明らかにラーメンの中華麺ですが、具材はどこか和風テイスト。あえて言うならば、やはりラーメンでしょうか?

野村さん「まあ、食べてみてください」

麺はストレートの中麺。やはりラーメンの中華麺です。

すすめられるままに口に運ぶと、予想を裏切られました。中華麺がまとうスープには、ラーメンのような油が浮いていません。代わりに舌の上に広がるのは、ほのかなだしの風味と、塩味のよく効いた和風スープの味わい。

野村さん「わかりますか? 中日そばは、中華麺をうどんのスープに入れたものなんです」

確かに、この色の薄さ、そして和の風味は、まさしくうどんのスープ! 油分が少なくても、塩味が強めなので、麺には十分に味が行き渡ります。

具材もうどんと相性の良いものばかり。ちりめんじゃこ、ねぎ、とろろ昆布、練り物はナルトとさつま揚げでしょうか?

野村さん「ピンクの練り物はすまき。あと、さつま揚げはこの辺ではてんぷらと呼ばれていますね」

塩味が強めのスープにてんぷらがよく合います。

スタンダードな中日そばの具材は、ねぎ、すまき、てんぷら。一方で、とさを商店の中日そばは、地元特産品のちりめんじゃこと、とろろ昆布も入っている点がユニーク。食べすすめるうちに、口いっぱいに潮の香りが漂い始めます!

野村さん「ガツンとくるものではありませんが、ソフトなインパクトのある食べ物です。ラーメンとうどんの異色のコラボを楽しんでほしいですね」

意外な組み合わせなのに、不思議と馴染む一杯。軽快に箸がすすみ、ぺろりと平らげてしまいました!

■中日そばのはじまり

野村さんの着るTシャツには、「香南市ちゅうにち同盟」という文字がプリントされていました。中日そばの保存や普及活動行う団体で、結成したのは平成23年。現在7つの飲食店が加盟しており、各店舗ごとに少しずつ具材や味が違う中日そばを味わうことができます。

野村さん「同盟の7店舗のほかにも、中日そばを出す喫茶店や居酒屋はあるはず。ずっと昔から赤岡町にあるものですからね。10店舗以上は、あるんじゃないでしょうか」

店主の野村真仁さんのTシャツには、「香南市ちゅうにち同盟」と書かれている。

赤岡町で発祥し、町民の生活にとけ込んでいる中日そば。いつごろ誕生したのでしょう?

野村さん「高知新聞さんが調べたところによると、昭和27年ごろに誕生したそうです。高級なラーメンやうどんと比べるとランクが1つか2つ落ちるような、どちらかと言えば簡便食・おやつとしての食べ物だったみたいですね」

しかし、その誕生の経緯は、はっきりとしない点が多く、二つの説があるそうです。

野村さん「一つはお好み焼き屋で誕生したという説。あるときお好み焼き屋でうどんの注文がありました。お好み焼き屋ですから、うどんは扱っていませんでしたが、焼きそばならメニューにあった。そこで代わりに、焼きそばに使う中華麺をうどんスープに入れてみたというわけです」

では、もう一つの説とは?

野村さん「もう一つは、ラーメンのスープをうどんのスープで代用したという説。当時、普通の人は鶏ガラなどの材料が入手できないし、作る技術もない。代わりにうどんスープに中華麺を入れて、見かけだけラーメンのようなものを作ったのです」

さらに、名前の由来にも、これまた二つの説があるそう。

野村さん「一つは、中華麺は“中国”で、うどんスープが“日本”だから、一文字ずつ取って“中日”とした説です」

これはすんなりと納得できる理由ですね!

野村さん「もう一つ、中華そばと言いたくても言えなかったからという説があります。ラーメンの代わりとして作られた食べ物とも言いますから、中華そばと言い切るには抵抗があったのでしょう。遠慮して中日そばと名前を変えたというわけです」

■店舗も異色コラボ!

赤岡町独特の中日そばを提供する「とさを商店」は、店舗そのものも独特。商店と食堂が合体したような造りになっているのです。

引き戸を開けて入店すると、こんな光景が目に飛び込んでくる。

何とも不思議な空間。店の奥には厨房とテーブル、それ以外のスペースは日用品や食料品で占められています。

日用品棚。スペースが限られているので、アイテムはかなり絞っているそう。

野村さん「うちはもともとスーパーだったんだけどね。平成19年に支店を閉鎖して、経営を一本化したときに、食堂も始めました」

どうしてスーパーと食堂を、いっぺんに営業しているのでしょう?

野村さん「香南市以外の人に、香南市と赤岡町のものを提供したいという思いで、店を再スタートしたからです。食堂では中日そば以外にも、特産品を使った名物グルメを扱っています。だから、うちは香南市ちゅうにち同盟のなかでも、観光客が比較的よく来てくれる店ですね」

観光客向けにか、高知のご当地お菓子・ミレーのラインアップが豊富。

「それに、この店は中日そばと同じなんです」と、野村さんは付け加えます。

野村さん「中日そばがうどんとラーメンの組み合わせなら、この店は飲食店と小売店が組み合わさったもの。偶然なんですが、これも異色のコラボというわけですよ(笑)」

海辺に位置する静かな赤岡町は、二つの奇祭で有名です。どろめなどの屋台とともに、大杯に注がれた日本酒を飲み干す時間と飲みっぷりを競う大会が開かれる4月の「どろめ祭り」。そして、町ゆかりの絵師・金蔵の血がしたたる芝居絵屏風が、ろうそくとともに夜道に並ぶ7月の「絵金祭り」。ここでしか見られない祭りと一緒に、ここでしか味わえない中日そばに親しんでみては?

店舗情報

●とさを商店
住所:高知県香南市赤岡町476-4
電話:0887-54-3235
営業時間:8:00〜20:00(不定休)
http://tosawo.net/

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。