ここ数年、なでしこジャパンはおなじみのメンバーで戦っている。

 固定メンバーで戦い続けるがゆえの連動の向上やオートマティズム、スムーズな意思疎通は、今のなでしこの大きな武器でもある。体力、パワー、スピードではアメリカやドイツ、フランスなどの強豪にどうしてもかなわない。その分、チーム力で立ち向かうのがなでしこたちの戦い方だ。

 W杯カナダ大会で決勝に進出したそのなでしこジャパンに、新たな風を吹き込んでいる選手がいる。MFの宇津木瑠美だ。

 宇津木は、これまで23人のメンバーとしてはおなじみではあったが、先発となると回数が少なかった。しかし、今回のW杯では、決勝トーナメント以降の3試合(オランダ戦、オーストラリア戦、イングランド戦)で先発メンバーに名を連ねた。

 これまで澤穂希が先発していたボランチのポジションでプレーしている宇津木は、人に強く、168cmと高さがあり、ボール奪取の能力がある。守備的なポジションであればどこでもこなせるユーティリティプレーヤーだけに、W杯前の親善試合、イタリア戦では左SBでも試された。

 これまで、なでしこのダブルボランチは澤と阪口夢穂(みずほ)の組み合わせが多かったが、今回のW杯では、時間帯によっては澤が必要になるものの、現在の澤が先発して90分プレーするとなるとなかなか厳しい。そのため、フランスリーグのモンペリエで成長を続けている宇津木が起用された。そして、守備力の高い宇津木を入れることで、阪口をより前に押し出すことが可能になっている。今、宇津木の存在が中盤を安定させており、それはチームの強みなのだ。

 ただ、新風とはいえ宇津木は決して若手ではない。88年生まれの26歳で、05年にはすでに代表入りしており、代表歴はもう10年になる。

 負傷のためメンバー入りしなかったロンドン五輪前、つまり3年前は「もう若手ではなくて中堅」と話し、「活躍しなくてはならない」と自らにプレッシャーをかけていた。そんな彼女に、初めて巡ってきた晴れ舞台が今回のW杯なのだ。決勝を前に気持ちを新たにしている。

「(W杯で)自分たちは23人全員で立っている感覚を持って、ピッチに立っています。4年に一度ですし、(今大会で)自分たちやアメリカに負けていった数えきれない選手達がいて、彼女達に恥ずかしくない試合をしたいという思いがあります。もちろん勝敗もありますけど、そうした重みや責任を感じながらやらないと、まったく意味がない」

 長らくサブだった彼女らしいコメントが続く。

「今、試合に出られない選手もいますし、そういう人たちに恥ずかしくないプレーをしたい。自分は前回のドイツ大会では10分ぐらいしか出られなかった。ベンチにいた自分だからこそわかることもあると思うので......」

 今大会、宇津木は1試合を除いてフル出場。振り返る言葉は、達観しているようでもあり、ポジティブでもある。

「正直、いろいろ反省はありますけど、何度も言っているように、自分は『明日サッカーをやめてもいい』という気持ちでやっています。もし後悔があるとしたら、それは自分の実力だと思っていて、今の自分は(試合や練習で)自分が最高のプレーヤーだと思ってプレーしています。それに、仮に明日サッカーができなくなったとしても、受け入れる覚悟でいます」

「では、イングランド戦の自分よりも今日の練習での自分は成長していると思うか?」と尋ねれば「もちろん。そういう気持ちで取り組んでいます」と、宇津木はにっこり笑った。

 W杯カナダ大会の決勝は、日本時間7月6日の午前8時キックオフ。2011年W杯ドイツ大会、2012年ロンドン五輪に続く決勝でのアメリカとの一戦だ。

 おそらく、日本が耐える時間帯が長くなる厳しい試合になるだろう。イングランド戦よりもさらに厳しく、「押されては跳ね返す」の繰り返しで、ときにはゴールポストに味方してもらうことになるかもしれない。だが、そんな展開になればなるほど、宇津木がいることの価値が証明されるだろう。彼女もまた、今大会のなでしこらしさを体現するひとりだ。

了戒美子●取材・文 text by Ryokai Yoshiko