イングランド戦では今大会2本目となるPKを決める。その落ち着き払った姿はまるでスローモーションを見ているかのようだった。(C) Getty Images

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 耐えて、耐え抜いた先に、ドラマは待っていた。

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  女子ワールドカップ準決勝でイングランドと対戦した日本は、後半アディショナルタイムに勝ち越し弾を奪う劇的な勝利で、2大会連続のファイナリストとなった。
 
 今大会のイングランドは試合によってメンバーを替え、縦に速い攻撃を仕掛けてくる特長はあったものの、それ以外につかみ所がなく、不気味な相手であった。そして蓋を開けてみれば、ロングボールの精度が高く、空中戦はことごとく上をいかれた。
 
 しかし、日本は人数をかけた分厚い守備で跳ね返し続けた。前半はお互いにPKで1点ずつを奪い合い、迎えた後半アディショナルタイム――、川澄のクロスが相手のオウンゴールを誘い、これが決勝点となった。オウンゴールによる幕切れは、誰もが予想していなかった展開だという。
 
 「勝った側のチームからすれば、気持ちで押し切ったゴールだったし、負けた側のチームからすれば、アンラッキー。もし日本がそういうことになったら本当に耐えられないので、可哀想だなと。イングランドも全員で慰めていたので、良いチームだなと思いました」
 
 試合後のミックスゾーンでオウンゴールを喫した相手選手を気遣ったのは、キャプテンの宮間あやだ。誰より強い勝利へのこだわりを持っているからこそ、その痛みが理解できる。
 
 2011年のドイツ・ワールドカップの決勝でPK戦の末に優勝を決めた瞬間、自らの勝利を喜ぶ前に肩を落としたアメリカの選手のもとへ向かい、一人ひとりとハグをしていた姿が思い浮かぶ。宮間にとっては、どんな敵も試合が終われば“サッカー仲間”なのだ。
  日本の司令塔であり、セットプレーのキッカーでもある宮間は、今大会の注目選手としてFIFAのサイトでも大きく取り上げられている。だからこそ、特に決勝トーナメント以降はどの国も宮間への対策を徹底しており、マークは厳しさを増した。

 
 そのなか、宮間はあえてキラーパスを封印してシンプルなプレーで味方を活かし、チームの潤滑油に徹しているように見える。
 
 しかしセットプレーでは、相手もその脅威を止めることはできない。この試合で、宮間は今大会ふたつ目のPKを決めた。31分、阪口夢穂のパスに抜け出した有吉佐織がPKを得る。キッカーとして、助走に入った宮間の動きはまるでスローモーションを見ているかのようだった。
 
「ゆっくり相手の動きを見て蹴りました。イングランドの選手が、キーパーに『動くな動くな』って言ってましたけど、やっぱり相手の方が(動くのは)早かった」
 
 イングランドサポーターのブーイングも聞こえたという。しかし動じることなく、相手キーパーとの駆け引きを楽しみ、見事に逆のコースに決めてみせた。
 
 ゴールが決まった瞬間、宮間は一目散にベンチに向かって走った。声を枯らしてチームを盛り上げる控えの選手たちと喜びを分かち合うためだ。なでしこジャパンは、控えも含めた23人で戦っている。
 
 宮間は若い選手や試合に出ていない選手にも目をかけ、声をかける。その姿勢はキャプテンになる前も後も変わらない。その卓越したリーダーシップは、同じく日本の象徴的な存在である澤とは違う種類のカリスマ性を放っている。澤が代表通算200試合を迎えた今大会初戦のスイス戦で、宮間は同じく150試合出場を飾った。
 
  決勝戦の相手は、前回大会、12年のロンドン五輪のファイナルに続くアメリカだ。前回大会決勝ではPK戦の末に勝利し、ロンドン五輪決勝では1-2で敗れた。
 
 「一番大事なのは終わり方だと思います。負けて終わるのと勝って終わるのとでは本当に天と地の差なので、まだなにひとつ満足していないですし、決勝がすべてだというぐらいの想いで臨みます」
 
 頂点を決める舞台で、勝者と敗者の両方の立場を経験したからこそ、その終わり方には絶対的なこだわりを見せる。
 
 大野忍は、準決勝の前に、宮間についてこう話していた。
 
「本当に素晴らしいキャプテンだと思いますし、しっかり彼女にみんながついて行って、彼女が一生懸命やった結果が今のチームの状況でもあります。だから、彼女にワールドカップを掲げてもらうことが私たちができる恩返しです」
 
 その手に、黄金に輝くワールドカップが掲げられる瞬間を見たい。決勝戦は、日本時間の7月6日、午前8時にキックオフを迎える。
 
取材・文:松原 渓(スポーツライター)