身長差を突かれたスコット(8)と鮫島のマッチアップ。ただ、日本の最終ラインは粘り強く守り、PKでの1失点のみに抑えた。(C) Getty Images

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 準決勝のイングランド戦は、決勝トーナメントのなかで最も厳しいゲームとなった。過去に4度対戦して2分2敗と、日本がいまだ勝利したことのない相手はこれまでと同様、徹底してロングボールを放り込んできた。

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 とりわけ右サイドに位置した8番のジル・スコット(181センチ)と鮫島彩(163センチ)のミスマッチを突かれた。約20センチも違う身長差に合わせて、ハイボールを放り込まれ、裏にこぼれればすぐに決定機を生み出された。
 
 そして弾き返してもCFのジョディ・テイラーにすぐ拾われる。エンターテインメント性のかけらもないサッカーだが、日本に対して効果はてき面だった。
 
「たぶん、そうやってくるんだろうなとは思っていたけれど、イングランドは毎回、それを徹底できる。そこは凄い」とCBの岩清水梓。
 
 ロングボールで裏を取られないよう、日本はいつもより低い位置に最終ラインを設定した。すると中盤から前がやや間延びし、FWが孤立。ここまではイングランド陣営の作戦どおりだった。
 
 4年前のドイツ大会では、この状態で不用意に相手陣内へボールを蹴り込み、奪われてカウンターに沈んだ(グループリーグ第3戦で対戦し0-2の敗戦)。
 
 ただ、4年の時を経て、なでしこは成長していた。焦って前がかりになることなく、ボールをキープし相手に隙が生まれる時を待った。自陣でパスを回すうえでカギになったのが、2枚のCBの距離だ。
 
 ふたりが外に開けば必然的に、その外にいる両SBが高い位置を取る。ただ、この形はボールロストのリスクも大きい。海堀あゆみのファインセーブに救われた64分のピンチはこのマイナス面を突かれ生まれた。
 
 ただでさえ、今大会採用されている人工芝は、天然芝に比べてボールが蹴りにくく、コントロールも難しい。それでも「(後ろでつなぐ)リスクは承知しているが、向こうは1トップだし、ボールを前に運ぶのもそう難しくない。ビルドアップは海堀も上手いし、そこは日本のストロングポイント」(岩清水)と、味方のペナルティエリア付近でも、勇気を持ってパスをつないだ。
 
 31分のPKは、最終ラインのパス交換に加わった阪口夢穂から、右SB有吉佐織へのロングフィードが通って得たもの。「あの場面はイングランドが完全にボールウォッチャーになって、自分がフリーになっているのが分かったし、阪口からボールが出てくるとも思っていた」(有吉)。相手のロングボール攻撃の圧力に耐えながら、イングランドの隙を突いた見事な先制点だった。
 
 その後、一度はイングランドに追いつかれた日本だが、ここでも焦らない。試合時間の経過とともに苦し紛れのクリアが増えてきた相手にしっかりと対応した。
 
 最終的なポゼッション率は58パーセント対42パーセント。ボールを動かし、相手をも動かした日本は、スタミナ面でも優位に立っていた。
 
 86分、3人目の選手交代を行なったイングランドに対して、日本は岩渕ひとりを投入しただけ。2枚のカードを残し、「足がつった時に備えて1枚残し。勝負の投入なら菅澤、守るなら澤か川村」と、指揮官が迷えるだけの選択肢が手もとにあった。
 
 アディショナルタイムに川澄のクロスからオウンゴールが生まれ、「勝った側からすれば気持ちで押し切った。負けた側からすればアンラッキー」(宮間あや)な決着にはなったが、彼我の状況を見る限り、延長戦に入っても日本が勝利を収める可能性は相当に高かったと断言できる。
 
 イングランドが用意した日本対策に苦しめられ、岩渕真奈を投入する直前の60分台には、波状攻撃に肝を冷やした。それでも、最後には土俵際できっちりと相手をいなした。
 
 ベースとなるサッカーの質だけでなく、相手のプレッシャーに耐える精神力も備えた“女王”として見事な勝利だった。
 
取材・文:西森 彰(フリーライター)