ビリギャル、ソニー、ビットコイン──日本発の「coincheck」が描く未来のお金

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現在発売中の『WIRED』日本版VOL.16は、「お金の未来」と銘打ち、ビットコインをはじめとする仮想通貨がつくりだす新たな経済を特集している。本誌では米西海岸を中心に数多く登場している「ビットコイン・スタートアップ」を紹介したが、WIRED.jpでは、いまをチャンスとみて立ち上がった日本発スタートアップ、「coincheck」にフォーカスをあてる。彼らへのインタヴューから見えてきたのは、この“あたらしいお金”の可能性と、あの大ヒットした映画との不思議な偶然だった。

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「coincheck」は日本発のビットコインスタートアップだ。ビットコインの取引所をメインサーヴィスとし、2014年8月にスタート。2015年3月には月間取引額1億円を突破する。彼らはいま、日本発のいわば“ビットコイン国際銀行”として、世界へと漕ぎ出そうとしている。

「国境のないお金」の市場

ビットコインは主に、リアルのビットコインATMか、インターネット上の交換所で、外貨のように売買することで入手できる。

手順は同じでも、一般的な外貨が、概ね発行している国の国境に使用範囲を限定されるのに対し、ビットコインはEメールを送ることのできる場所であれば、どこでも、誰でも使うことができる。国も国籍も関係ない、世界でもっとも自由な通貨だ。

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このビットコインの特徴はそのまま、coincheckのビジネスの特徴に言い換えられる。「フィリピンの出稼ぎ労働者の海外送金に関する相談から、個人トレーダーからのAPI提供の相談、シリコンヴァレーの“ビットコイン2.0”系スタートアップとのコラボレーションの提案までが毎日メールボックスに届きます」そう話すのは大塚雄介。coincheckを運営する株式会社レジュプレスの取締役だ。

出稼労働者がビットコインを活用して国際送金する市場は大きいという。ビットコインは、銀行などの中央集権的な仕組みを介さずに、個人間のお金のやりとりを可能にするため、従来のクレジットカードやネットバンクに比べ、手数料を格段に低く抑えられる。銀行等の海外送金による多額の送金手数料を回避できることから、出稼ぎ労働者の国際送金ニーズが拡大しているのだ。おまけに24時間365日の取引にも対応しており、時差を気にせずやりとりができるのも大きな魅力だ。

さらにフィリピンの場合、現地の人は銀行口座をもっていないことが多い反面、スマートフォンは広く普及しているという状況もビットコインとの親和性が高い。こうした潜在市場は世界中の海外労働の文脈に存在する。

「結果として、ビットコインはお金の移動の文脈において、世界との距離を縮めている技術なのだと思います。飛行機が物理面で、インターネットが情報面で世界との距離を縮めたように、ビットコインは世界中のお金の距離を縮め、利便性を向上させます。世界規模の経済をより高速化・活性化させる可能性を肌で感じています」(大塚)

お金の移動が効率化されれば、国際的な経済問題も解消できるのかもしれない。例えば現在、日本から中国への送金は簡単だが、その逆は難しいという。中国は国家的に人民元の管理を徹底しているため、外国へ流出させたがらないからだ。こうした問題をビットコインで解消できれば、さまざまなビジネスが円滑に進むに違いない。

coincheckのビジネスチャンスは、世界中のお金のやりとりのなかに、無数に存在しているのだ。

エンジニアが先頭を走る、新しい金融ビジネスへ

「ぼくはエンジニアとして、より高効率の社会を夢見ています。いまのお金とビットコインの関係は、公衆電話と携帯電話の関係に似ています。かつて公衆電話がなかったころは、外で電話をかける手段として公衆電話は便利な存在でした。でも、携帯電話が当たり前になったいま、公衆電話のことを便利だと思う人はいませんよね? いまはまだ、多くの人が一般的な通貨だけを利用する社会に無駄や不便さは感じていません。でも、先回りして、無駄を削って豊かにできるところがあるはずで、それこそがビットコインが実現できることなんだと思います」。そう話すのは同社代表取締役社長の和田晃一良。coincheckの開発を一手に引き受けるエンジニアだ。

coincheckは、エンジニアの和田とディレクター役の大塚のコンビでつくられている。

そもそも、ふたりはビットコインとはまったく異なるサーヴィスを展開し、2012年に運営会社のレジュプレスを創業している。自らのライフストーリーを自由に投稿できる「STORYS.JP(ストーリーズ)」だ。同サーヴィスからは、書籍コンテンツ化され、大ヒットしたストーリーも多数存在する。映画化もされたあの「ビリギャル」が、その代表例だ。

彼らはcoincheckを、一見まったく性質の異なるSTORYS.JPと同じ文脈上に位置づけている。彼らはビットコインのビジネスを金融業としてではなく、21世紀をイノヴェイションする方法のひとつとして捉えているのだ。

「ぼくたちが生きる21世紀は、インターネット革命の時代です。インターネットが登場し、情報がパケットに置き換わり、世界中の人々と情報のやり取りをほぼ無料で、しかもリアルタイムでできるようなりました。これを〈第一次インターネット革命〉時代とするなら、いまそのイノヴェイションは終焉を迎え、無料電話・無料メール・無料SNSがインフラとなった上での〈第二次インターネット革命〉の時代に突入し始めています。情報がパケットに置き換わるだけはなく、情報に人の感情が付随した『人生のストーリー』や、情報にお金の価値が付随したビットコインを、世界中の人々とやりとりすることができる。そんなイノヴェイションが起き始めています。ぼくたちは、そんなイノヴェイションをテクノロジードリヴンで再発明していける会社にしていけたらと思っています」(大塚)

大塚は、そんな自らのスタイルをソニーに重ねる。天才エンジニア井深大と、その才能に惚れ込んだ盛田昭夫が世界に挑む姿は、まさにハードデヴァイス・エレクトロニクスの20世紀を象徴するアイコンだった。

「ぼくたちは『エンジニアが素晴らしいものをつくれる会社にしたい』というソニーのアイデンティティをリスペクトしています。20世紀はまさにソニーを代表とするハードウェアのイノヴェイションが起きた世紀。21世紀でスタートアップをやっているぼくたちは、ソフトウェアのイノヴェイションを起こしていきたい。そのひとつが、coincheckの事業なのです」(大塚)

ライフスタイルの提案が、ビットコインの未来の鍵を握る

ビットコインが経済を変え、わたしたち個人の消費も変えていく未来には、いつ出合えるのだろうか? あるいはそれはすでに起こっていることなのだろうか?

「ビットコインのサーヴィスにおいて最も求められていることは、ライフスタイルの提案です。ソニーのウォークマンは、音楽を“持ち運べるもの”にしたデヴァイスでした。このデヴァイスは、歩きながら、走りながら、さらには料理をしながら音楽を聞くことができるという、ライフスタイルを提案したことが革新的だったのです。だからまず、ぼくらはライフスタイルの課題をビットコインで解決するところから始めています。ビットコインを使うことで気づくこともある。だから、ぼくらの会社の給料を、希望者にはビットコインで払えるようにしたいと思っています」(和田)

coincheckは現在、シリコンヴァレーのスタートアップの新しいペイメントの開発にコラボレートしている。大塚はさらにアメリカを横断し、東海岸にも飛んでいる。「SATOSHI NIGHT」(ビットコインの開発者とされるサトシナカモトにちなむ)などのビットコインに関係するイヴェントなど、多くのアクションが起きているニューヨークへ視察に訪れているのだ。

ビットコインはテクノロジーとしては西海岸のシリコンヴァレーに、金融としては東海岸のニューヨークが、最も動きがあるという。まるで金融とテクノロジーの交差点にある、「Fintech(フィンテック)」の基盤技術であるビットコインの性質そのものを表しているかのようだ。

「ぼくたちのやっていることは、お金の再発明。2年くらい先を進んでいるアメリカとビジネスをしながら彼らに学び、日本発の新しいサーヴィスに繋げていきたいと思っています。同時に、過去に金融が歩いてきた道をぼくたちの方法で現代で歩み直していくことを大切にしています。ビットコインが世界のすべてを覆い尽くすとは考えられない。いまの一般的な通貨と金融システムと、共進化していくのが未来だと思っています。ぼくたちは金融とテクノロジーの間に立ちながら、その共進化を生み出していきたいですね」(大塚)

ビットコインの開発者であるSATOSHI NAKAMOTOの正体は依然として定かではないが、その名前からメイド・イン・ジャパンを連想することは不自然なことではない。

ビットコインスタートアップのcoincheckは、世界で最も自由な通貨で生まれる21世紀の経済を、日本からどう描いていくのか。今後のアクションに期待したい。

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