「強いですね。まだ高校生ですよ......」

 陸上の日本選手権(新潟)100mで優勝した高瀬慧(たかせけい/富士通)がそう言って呆れたのが、16歳のサニブラウン・アブデル・ハキーム(城西大城西高)だ。

 高校2年生のハキームが、6月26日からの日本選手権の100mと200mでともに2位に食い込み、記録的に低調だった男子短距離の話題を独占した。

 ハキームは、大会最終日の100mで川面聡太(かわつらそうた/ミズノ)と同タイムの10秒40で2位。

「同時にゴールしたので順位はわからなかったけど、最後は何とかねじ込んだという感じ。しっかりまとめられれば優勝もできるのではと思ったけど、シニアの大会は甘くないですね」

 そう話すハキームにとって、今回の日本選手権は貴重な経験の場となったはずだ。ハキームはガーナ人を父に持ち、ハードルでインターハイ出場経験のある日 本人の母に薦められ、小学3年から陸上を始めた。彼が才能の片鱗(へんりん)を見せたのは、昨年10月の長崎国体。中3と高1が出場する少年B100m で、ハキームはスタートで出遅れながら伸びやかな走りでトップに立つと、10秒45で優勝したのだ。

 そして今年、2020年の東京五輪を目指す「ダイヤモンドアスリート」に認定されたハキームは、その力をさらに伸ばした。

 日本選手権の参加標準記録20秒80突破を目指して出場した静岡国際陸上(5月3日)200mでは、20秒73を出して高瀬に次ぐ2位。5月10日の東 京高校対抗陸上100mでは10秒30をマークして2種目で日本選手権出場権を獲得し、一気に大化けもあると期待を抱かせる走りを見せていた。

 6月26日からの日本選手権に臨んだハキームは、初日から活躍を予感させた。200m予選では、ハキームの外側4レーンが棄権で空いてしまい、走りにくい状況でありながら、20秒56の自己ベストをマーク。全体の3番目の記録で決勝進出を決めた。

 翌日の200m決勝、5レーンのハキームの内側4レーンには藤光謙司、外側6レーンには高瀬。現時点での日本のトップ2に挟まれた。しかし、「緊張はな くて、むしろワクワクしていた」と話すハキームは、ラスト50mで追い込み、20秒57で高瀬と同着の2位(優勝は藤光)。

「ビックリした。前半はいい入りができたのでよかったが、後半は適当な走りになってしまったのでそこは反省点。最後は何とかねじ込めたという感じですけど、現時点での最高の走りはできたと思う」

 そう語って笑顔を見せたハキームは、大会最終日28日の100m決勝でも2位。「脚の状態が悪そうなのに10秒28を出して優勝した高瀬さんには、まだ 勝てない」と言うが、この結果で、今年8月の世界陸上(北京)出場も見えてきた。世界への挑戦について、ハキーム自身「静岡で20秒73を出してから、リ オデジャネイロ五輪もあるかなと思うようになってきた」と手応えを口にする。

「去年に比べると200mは前半の走りが磨けてきたと思う。ただ、ラスト50mがきついので、そこを改善したいです。100mは加速に乗る地点が少し前になったと思います。加速に乗れば戦えると思うので、その地点をもっと前にして2次加速、3次加速を磨いていきたい」

 6月29日に発表された世界陸上代表選手の中にハキームの名前はなかったが、代表は8月2日までの結果を見て追加される可能性があり、最終的な決定の締め切りは8月11日になる。

 ハキームは7月15日からの世界ユース選手権に出場予定で、そこで100m10秒16、200m20秒50の参加標準記録を突破すれば、個人種目での代表入りが可能になる。また、記録を突破できなくても、3枠が残っている4×100mリレーで代表入りする可能性もある。「カーブは苦手だから、リレーでは2走と4走しかやったことがない」と言うハキームだが、リレーでの世界選手権出場に色気を見せ始めている。

 東京五輪の星として期待されている16歳の才能の開花が早まれば、桐生祥秀(東洋大)ら若手だけでなく、ベテラン、中堅も力を伸ばしている日本短距離の争いがさらに熾烈になってきそうだ。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi