華原朋美と小室哲哉、傷つけあうような音楽の凄み【ベストアルバムを聴く】
 今年でデビュー20周年を迎える華原朋美。それを記念して『ALL TIME SINGLES BEST』、『ALL TIME SELECTION BEST』と2つのベストアルバムがリリースされました。注目は何といっても小室哲哉の手掛けた全シングルが収録された前者。

 “90年代のJポップにおけるTKサウンドの意義”などというと、少々おおげさになりますが、シンプルに言えば歌手・華原朋美を世に送り出したことに尽きるのではないか。

 小器用に能力を出し惜しむ程度に上手い歌手はいくらでもいるけれども、ほんの一瞬でも切迫感を与えてくれる人はまれです。そんな彼女の資質を存分に引き出した楽曲。20年の時を経ても、そのテンションはいまだ新鮮に響きます。

●華原朋美 - I BELIEVE (セルフカバーアルバム「DREAM -Self Cover Best-」より)
作詞・作曲:小室哲哉、シングルリリースは1995年
⇒【YouTube】http://youtu.be/pKbMVYmYCN4

◆華原を虐げるようなクレイジーな曲「hate tell a lie」

 こうして改めて小室哲哉の曲を聴いて感じるのは、無骨な垂直性。その最たる例が、97年のミリオンヒット「hate tell a lie」。言葉数の多い詞でも吐き捨てる符割にせず、音節の分だけ音符を割り当てる。するとメロディから滑らかな曲線が消え、直角にターンする強い折り目が残るのですね。
https://www.youtube.com/watch?t=14&v=Cy-8ShmoubE

 それにしてもクレイジーな曲です。詰め込まれた歌詞はヤケクソのショーケース、ブライアン・メイもどきのギターリフにあっけにとられる間もなく、素っ頓狂な転調がことわりもなしに割り込む。そしてTKサウンドといえば、キーの高さを忘れるわけにはいきません。これらの要素が次々と襲い掛かってくる。

 この虐げるような仕掛けの数々は、同時に、中途半端な技術ではごまかせない切実さを歌い手に要求します。不安定な歌い出しにまごつくより先に立て直しを迫る楽曲のスピード。それが小手先の修正を封じ込め、華原朋美という歌手の肉をあらわにしていく過程が生々しいのです。

◆彼女の声でなければ意味がない「I’m proud」

 ゆえにバラードも甘さよりも、歌声から果汁を搾り出す厳しさが際立ちます。言わずと知れた「I’m proud」と「LOVE BRACE」は、いずれも甲乙つけがたい名曲。この歌い出しでの華原朋美は、音量をコントロールしながら高い音をキープするだけでなく、エレキギターのヴァイオリン奏法のようにフレーズの中でダイナミクスをつける余裕を見せています。

 しかしサビになると一変。特に「I’m proud」での、<声にならなくても想いが時には伝わらなくても>というフレーズは、言葉とメロディが、声域ギリギリで踏みとどまる華原朋美の歌と完璧にマッチしている。お互いを知り尽くした作曲家と歌手が、限度を分かったうえで傷つけあっている。彼女の声でなければ何の意味もない。そういう瞬間を生むことに成功しているのですね。

●華原朋美 - 夢やぶれて -I DREAMED A DREAM-
(ミュージカル『レ・ミゼラブル』劇中歌、2013)
⇒【YouTube】http://youtu.be/15-PVmxz90Q

「身を逆まにして、ふくらむ咽喉の底を震わして、小さき口の張り裂くるばかりに、ほーう、ほけきょーう。ほーー、ほけっーきょうーと、つづけ様に囀る。『あれが本当の歌です』と女が余に教えた。」
(『草枕』 夏目漱石)

 もちろん、小室哲哉の曲、華原朋美の歌、全てが最高だと言うつもりは毛頭ありません。しかし、ただのヒット曲と片づけるわけにはいかない引っかかりが確かにある。それは作家とパフォーマーが本気で向かい合ってできる擦り傷のようなものでしょうか。そしてその傷口は20年経ったいまでも、じゅくじゅくと潤んだままのように感じます。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>

2015年リリースの新曲3曲スペシャル・ムービー(ダイジェストTeaser)
華原朋美が監督・主演し、30以上のコスプレを披露
⇒【YouTube】http://youtu.be/bxEbRp1fsSU